星間戦争 7
さあ、ガルガンチュアの遺産が出ます(笑)
アダム・スパルタックの報告書が、重苦しい沈黙を会議中の面々にもたらしている。
「スパルタック委員、君の担当は、宇宙文明の、ごく初期段階だったはず。それが今現在、この月に軽々と行けるようになっているとはなぁ……仕方がないとは言え、戦争中の宇宙文明と同盟を結ぶなどと、通常では考えられない事態になったものだ」
上級職にある一人が、やむをえぬ事態とは言え、こともあろうに過去に大失態をやらかした星系が、またも星間戦争という厄介事に巻き込まれていることについて愚痴を漏らす。
「まあまあ、委員。スパルタック委員も悪気があったわけではない。状況的に、あの時点で同盟を組まなければ最悪の場合、完全にどちらかの勢力に組み入れられていた可能性が高かっただろう。我々の為すべきことは、これからどうするか?ということだ」
「そうだな、委員の言うとおりだ。眼の前にある星は遥かな過去にとんでもないミスを犯した。普通なら星ごと全滅になってもおかしくないが、伝説のガルガンチュアにより宇宙文明への資格となる跳躍航法の知識とデータ、全ての宇宙船製造技術を剥ぎ取られただけで済んだ。まあ、その後の監視役として銀河文明管理機構が立ち上げられて、今の我々がいるんだが」
今まで口を閉ざしていたスパルタックが口を開く。
「そうです。現状は、下手をすると跳躍理論と跳躍エンジンが、再び幼稚な宇宙文明にもたらされることになりかねません。未だ、あの星に生きる者たちは闘争本能を制御できる段階になっておりません……まあ、それを言うなら、戦争している勢力も同様なんですが……戦っている勢力の方は、付近にある支部の方々に任せるとして、問題は目の前にある星。どうやって、星間戦争の嵐から守り、もしくは抜け出せるようにするのか?ということです」
「スパルタック委員の発言は正しい……しかしなぁ、これは難問だぞ。だいたい、どうやって同盟を破棄し、戦争に背を向けると言うのかね?我々は星の発達に直接関与することを禁じられているのだ。間接的に導くと言っても、こういう急展開は予定になかった緊急事態ではないかね。もっと強力で直接的な文明干渉でなければ、あの星の文明が、すぐにでも星間同盟の相手方から跳躍航法に関する知識やエンジンの技術を与えられてしまうぞ。どうするつもりかね?」
今まで沈思黙考状態にあった、会議の議長席に座っていた存在が、ゆっくりと手を上げて発言許可を求める。
久々の議長発言に期待する他の委員たちは、すぐさま議長発言を促す。
「発言を許可して頂き、感謝する。報告書を読ませて頂き、今までの各委員の発言を聞かせてもらい、私に一つの提案があるのだが……どうだろうか?」
「議長閣下の提案であれば、我々の重要案件とも成り得るもの。よろしければ、聞かせていただきましょうか」
「ありがとう、委員。私の提案だが、ここまで事態が進んでしまった以上、もう間接的な文明干渉などという手間のかかることをやっている場合ではないと思われる。したがって、我々の意志を直接的に反映させるような形を取らねば、あの太古の悪夢を再び再現することにもなりかねない」
「議長閣下、それでは原則を破ることになりますが……まあ、こんな展開は予想していませんでしたから、仕方ありませんか」
「そう、かの星の文明は、あまりに早く進もうと、し始めている。私の考える手も、恒久的なものではない。他の星系の影響を排除した後には、今までどおりの間接的文明干渉にすれば良い」
「議長閣下、発言をお許し下さい。一時の直接文明干渉は効果的だと思われますが、それを担うものは大変な重圧となります。私には、担当者がミスを犯さずに、この重大な任務を成功させるのは難しいと思われますが」
議長は、スパルタックの疑問に答えるように、
「委員、そのことなら心配ない。ここ、銀河文明管理機構の本部には、議長となるものだけに入室許可された一室がある。そこにある物で、リアルタイムに星にいるものと本部との通信連絡が可能となる」
「おお!そんなものがありますか!しかし、通信機では、月と惑星との距離が遠すぎませんか?そして、通信機では目立つのでは?」
「ふふふ、心配は要らぬよ。通信連絡は思考波、テレパシーだからな。そして、ここと惑星内の建物内部であろうと、これを使えばどこでも、いつでも相互連絡が可能となる。その物とは……RENZ、レンズと言う、超能力、ことにテレパシーを増幅するものだ。で、これを与える者は……アダム・スパルタック委員、君が適任だろう」
「え?私ですか?!光栄ではありますが、何故に私なのでしょうか?私は、この銀河文明管理機構では現場対応を主とした下級の委員にすぎません。文明を危機から救うような英雄には役者不足だと思うのですが……」
「いやいや、委員でなくてはならぬ理由がある。委員は長年、あの星で活躍しておる。そして、天才の名もほしいままにしておるな」
議長の一声に反対を唱えるものもなく、アダム・スパルタックにRENZを与えることで新しい任務とすることにして会議は終了する。
数時間後、月から発進する宇宙戦闘機に乗るアダム・スパルタックの手首には、ピッタリと張り付くように金属製のブレスレットがはまっていた。
〈議長、これは凄いです。思考波を増幅するというよりも、自分の頭の中が澄み渡ったように感じます。思考アシストの効果もあるようですね〉
〈RENZは装着者個人に合わせてカスタムされる。君のRENZが出来た段階で、君が装着者となる事は決定済み。ガルガンチュアの贈り物の一つだが、こればかりは説明書も予備の生産装置もない、唯一のものとなる。本部にあるRENZ生産装置が壊れたり故障したりしても、修理する方法が無いのだよ。それほどの栄誉だと思い給え、スパルタック委員〉
それを聞いて、自分にかかるであろう重圧と期待の重さが初めてリアルに感じられるスパルタックだった。




