銀河のプロムナード 四 太陽系の、その後
とりあえず太陽系に関しては、これで終了します。次は、あの星ですよ。
ドタバタ、七転八倒、アタフタ。
どんな言葉も当てはまらないほど濃密な情報と会議と声明と同盟の日々が続くかと思われた太陽系、その中心は、やはり地球である。
不定形生命体の遭難者(地球への移住者になるのか?)の捜索に関しては、あっという間に見つかった。
ペンネームで書いているSF作家にして未来文明や未来兵器、未知の生命体に関する著書もあったりする高名な文化人が、その遭難してた不定形生命体その人であった。
不定形生命体の捜索ということで、その問題に関しての専門家たちを揃えてみたら、その中に当の本人がいたという、これまた「なんじゃこのコメディは?」な結果が待っていた。
遭難してからの経過を当人に聞いてみたら実は遭難したのはアメリカ大陸で一九世紀の終わり頃らしい。
それから変身能力を使いアメリカの市民として暮らしていたのだそうだが、あまりの境遇の違いに次第に落ち込んで同じような境遇にある一人の作家と知り合いになり、そして友人になったのだそうだ。
その友人に自分たちの種族の歴史(宇宙が晴れた直後に近い時期からの、とんでもない歴史を持つ生命体で本来は不定形、どんなものにでもなれる等など)を少し話してやると、その作家はインスピレーションを得たのか宇宙には正義も悪もなく、ただ絶対者に近い生命体だけが世界の裏側から全ての生命体の運命を操っているというストーリーをぶちあげてしまった。
その神の如き生命体の走狗として不定形の生命体を登場させ、宇宙からの恐怖シリーズとして変な、偏った、偏見に満ちた神話を作り上げてしまい、その作家に幻滅した不定形生命体の本人はアメリカ大陸を離れてアジアへ来たのだそうだ。
中国本土や上海、台湾を経由して終戦後の日本へ来たのだそうだが、そこでもSF好きな漫画家や作家たちとの交流が始まったという。
彼は日本が大好きになり、そこで終生、寿命の終わりまで暮らそうと決め、完全に帰化して日本人となったそうだ。
彼の知識は、その当時、食べるものすら事欠く日本においてSF好きな人間たちに格好のネタ元として迎えられた。
あるものは彼の話から不定形生命体を正義の陣営と仮定し、主人公と共に大活躍するSF漫画を描くこととなる。
あるものは不定形生命体に伝わる昔話(神話?)にネタを取り、この宇宙すら超える精神生命体(無限の命を持つ、この宇宙より長く生きる生命体)を主人公とする大長編漫画を描くこととなる。
SF作家の卵達は彼に刺激を受け様々なSF小説や幻想作品、アニメーションや映画にも才能を発揮させて行く事となる。
彼そのものは数千年の寿命を持つものだから定期的に死亡届を出して、自分自身を、その息子という形で永らえさせてきたらしい。
さすがに太陽系統一政府が出来上がった時には、やり方を変えて、それでも地球の日本に住み続けている現状は、さすがというしかないが。
彼は、そのような環境にあったため、故郷が危ないという通信は受け取っていたが帰還はかなわなかったのだそうだ。
同胞と久々に会えたことには喜んでいたが彼は精神も地球人(日本人?)に馴染んでおり本来は不定形の身体も現在では日本人として固定されてしまっているようだ。
同胞らとの話だと身体の固定化はすぐに解除可能だそうだが本人が望んでいないとのこと。
不定形生命体種族としての外交官に任命されて商館が地球にできることが決定したため、そのまま地球に残ることにしたという……
「面白い状況になったもんだ」
とは地球人にして不定形生命体の彼が今の境遇について語った一言だ。
機械生命体と、太陽系人類と同じ先史文明人を祖先に持つ惑星人(発音不可能)そして同じく先史文明人を祖とする球状生命体は連帯して外交官を出し、商館も同じく合同で作るそうである。
(機械生命体は火星と月へ。惑星人に関しては地球上に。球状生命体はスペースコロニーを独自に作り、そこを商館とするとのこと)
それから数十年と言う時間が流れ……
今や銀河のド田舎であった太陽系は銀河中心部の文明と銀河辺境部の文明とを結ぶ巨大なハブ宙域と化していた。
巨大な観光船や資源運搬船、使節や外交官、探査隊やら宇宙救助隊(組織が立ち上がった初期とは違い、とてつもない巨大な救助組織となっている。もうすぐ、汎銀河救助隊と名を変えるそうである)の船舶が、とんでもない数を揃えて銀河辺境部へのジャンプサークルの前に並んでいる。
昔、太陽系の中だけで繁栄してたと思ってた人類は、とある個人が銀河系で大活躍したために宇宙中の関心を惹き、一挙に恒星系文明へと発展していった。
恒星系へと活躍の場を広げた人類は、そこで独自の才能を発揮する。
それまでは超光速を可能とするためには個々の艦船で跳躍(超空間を石切りしていくように飛ぶ)するしかないということで効率もクソもあったもんじゃなかったのだが、太陽系人類は、とんでもないアイデアを実現してしまった。
それが今、大艦隊というべき艦船の目の前にある「ジャンプサークル」装置である。
要はアステロイドベルトに設置されていた「圧縮空間ゲート」の応用である。
このポイント間の航路なら絶対安全!
というポイントを圧縮空間で結び、跳躍の効率と安全性を今までより遥かに高めた技術であり、この技術と理論を開発した太陽系人類には、とてつもない栄誉と利益、そして尽きることのない仕事が待っていた。
(銀河系に、いくつ生命体の住む星があると思う?その全てにジャンプサークルを設置するとなると、もう気が遠くなるほどの数と時間がかかるよね。でもって、この技術を一番長く使って、実用化して保守手順まで確立してる太陽系人類が引く手あまたとなるわけだ)
太陽系にあるジャンプサークルは、いまのところ銀河系で最大のものだと言われる。
これ以上は何かのブレークスルー条件がないと建造できない。
この装置により太陽系からは数千隻の大小艦船が一挙に各自の目的地に向かうことが出来るのである(通常は百隻までが限度。目的地数も限定される)
昔日を思い、苦笑する元戦略宇宙軍長官。
「わずか数十年で、この違いか。太陽系を開拓するのは数百年かかるとか言われていたのは何だったのかな?それもこれも全てが、たった一人の男から始まったことだとはなぁ……楠見 糺、今は何処で何してるのやら……噂によると宇宙船とはとても言えない直径5千kmを超えるような超巨大宇宙船を、どういう技術か知らないが手足のごとく軽々と飛ばしているとのこと。我が太陽系文明どころか銀河系にある概知の文明を遥かに凌駕している宇宙船を何処で手に入れて、どうやって動かしているのやら。ものすごい数の小型宇宙艇を駆使してトラブルと聞けば何でも何処でも何時でも介入し、そのほとんどを、あっと言う間に解決し続けている奴。彼のおかげで太陽系はビッグネームと化し、地球人とか太陽系人類とか言うだけで見も知らぬ星でVIP扱いされすぎて困ると民間から見当違いの苦情まで来ている……くっくっく、あはははは!あの男には銀河系ですら狭いのかもな……ははははは!」
今日も太陽系は熱気と艦船、生命体で溢れかえっているのであった。
ただ、そこにいる皆が一目でも会いたいと望む人物は今も宇宙の一画でトラブル解決に走り回っていたりするのだが……




