若き戦士の日記 12
お話も佳境です。
次話で終わりになります。
本当に銀河一を決める、決勝戦が始まった。
司会の言葉である。
「この試合をご覧になる皆様は、本当に幸運です。なぜなら、ここに立つ2体のカスタムアーマーの乗り手は、どちらも地方予選から地道に勝ち上がってきた挑戦者!昨年の優勝者やベスト4までの猛者たちは、全て、この二人に叩きのめされました。本当の意味での銀河一のカスタムアーマーと、その乗り手が、これから決定されるのです。それでは、紹介しましょう……こちら、南銀河を代表して、幾多の試合を勝ち進みながらも、その実力は秘められていると言われる、流派不明の実力派、リョーイチ・ナガレ!その二つ名は、カスミの一撃!」
「そして、もう一人、こちらの二つ名は、光速の一撃!両者とも、奇しくも似た二つ名になりましたが、どちらも必殺の一撃にて相手を倒しております。こちらは目にも止まらぬ動きで相手の攻撃を全て躱しつつ、必殺の一撃で勝負を決める、イッキ・クスノキ!流派は、銀河一撃流!さあ、どっちに勝利の女神が微笑むのか?では……勝負、開始です!」
バーン!と盛大な爆発音で勝負開始がコールされる。
イッキと、その相手、リョーイチ・ナガレは、互いの機体を滑るように近づけ合う。
まずは序盤戦……
かと思えば、イッキが勝負を仕掛ける!
機体のスピードを利用して、相手の後ろに周り、一気に手刀を叩き込む!
しかし、ぬるり、という感触で躱される。
「やはり、そうだったか……本家の竜一さんだろ、あんた。なんで流派を隠して、偽名まで使って、こんなカスタムアーマーの格闘技大会になんかエントリーしてるんだ?!あんただったら、アーマーなんか乗らなくても生身で銀河中の格闘界を制覇できるだろうが!」
イッキには、憶えがある。
紙一重で相手の攻撃を躱し、必殺技を叩き込むのは、本家本元の銀河一撃流宗家の基本だが、これを実践出来るのは、イッキの祖父か、あるいは宗家の次男で格闘の神に愛された男と言われた楠 竜一の二人しか現在ではいないとまで言われるほどの天才格闘家、楠 竜一。
そのまま長男に代わって道場を継ぐのかと思いきや、銀河を巡って様々な格闘技を知りたいと手紙一枚残して10年以上前に家出した、父親から勘当されているという不肖の次男。
「久々だな、イッキ。道場の隅で泣いてた、泣き虫イッキが、ここまで強くなってるとは……ようやく銀河一撃流の才能が開花したか。あれから10年以上だものな……」
「やっぱり!竜一おじさん!」
「おいおい、まだまだ俺は若いぞ。それにな……中央部じゃ知られてない、様々な流派と、その技を会得してきた。俺は銀河一撃流を、もっと強い流派にしたい。そのためには、イッキ!お前であろうが、立ちはだかる壁は貫いて行くぞ。それでもやるか?」
「……それでもだ。俺も、この試合にかけている。あんたに負けるわけにはいかない、背負っちまったものがあるんだ!」
「そうか。では、互いの技と力で示すしか無い……これからは本気で仕掛ける。イッキ、お前も本気で来い!」
「おうよ……たとえ死んでも本望だ!この戦い、俺も全てを出して燃え尽きる!」
その後、互いに言葉はない。
正拳の打ち合い、蹴りの打ち合い、全て互角。
速度ではイッキの機体が勝り、しかし、最終的な反応速度ではリョーイチ・ナガレこと楠 竜一の機体が勝る。
互いが一歩進み、次の瞬間には一歩下がる。
乗り手の実力は完全に互角。機体性能も、ほとんど変わらないと両者共に自覚する。
濃密な打ち合いの5分間……互いの機体ダメージは、相当なものになっている。
これ以上の打ち合いは、相互破壊になるだけ。
「あと、保って一撃……」
お互いが、同じ結論に達する。
「行くぞ、イッキ」
「おう、こちらも行くぜ、竜一さん」
紙一重で速かったのはイッキの機体。
竜一の機体の胸部に、イッキの機体の手刀が突き刺さる。
突き刺さったが、そこでイッキの機体が保たなかった。
手刀が突き刺さった状態で、機体の右腕は手首から折れる。
その一瞬を見逃す竜一ではなかった。
手刀が突き刺さってエネルギー供給系がやられているので、あと数秒で動かなくなり、負ける……
しかし、その数秒間が勝機!
竜一は、イッキの機体の背後へ。後ろからイッキの機体を、一瞬で背後へ叩きつける!
竜一の機体は、イッキの機体を投げた後、動かなくなっている。
イッキの機体も、頭部から叩きつけられたため、同じく動作停止。
ジャッジの判定は……
「勝者、リョーイチ・ナガレ!銀河統一チャンピオンシップ、最終勝利は無名で初エントリーのリョーイチ・ナガレとなりました!」
互いに機体は動作不能となっているため、控室には操縦者のみが帰る。
勝者の目にも敗者の目にも、涙が光る。
しかし、どちらもすがすがしい顔をしていた……