もう一人の楠見 その八
今回、受難の回(誰とは言いませんが(笑))
「転身、Go!」
「装着パーツ、発射!装着!……解除!」
「Go、転身!」
よしよし、ヤマノくん、頑張ってるな。
さすが、もう一人の俺だ。
半月で何とかヘルメットギアと外部装着パーツをものにしようとしてる……まだまだ細部が甘いが。
「ふぅ、ヘルメットギアの転身形態四種と基本形態への外部装着パーツの基本脱着は形になった、と。しかし、こんな伝説的アイテム、俺に渡して大丈夫なのかなぁ……慣れれば慣れるほど俺が装着者として認識されてて大丈夫か?という考えが大きくなってくるんけど」
あ、ヤマノくん、またマイナス思考に陥ってるな。
「ヤマノくん、何を気弱なことを言ってるのか。もう一人の俺、楠見糺と同じ人間なんだからヘルメットギアに選ばれるのも当然だ。扱いに慣れたなら次は基本形態でフィールド推進の恩恵を充分に使いこなすことを念頭に置くと良い。具体的には格闘技だな……ヤマノくん、何か格闘技の経験は?」
「うーん……格闘技ですか。メディアで見た経験はありますが、実際に格闘技を練習したり学んだ経験はないです。うちの星では腕っぷしだけ強くても頭が弱いと下層階級扱いになりますので、あまり殴り合いとか格闘は推奨されないんです」
「そうか……では、その方面のエキスパートを出すとするか」
「え?そんな人、いましたっけ?ああ、プロフェッサーが元軍用の人工頭脳でしたっけ?」
「いや違う……そいつは俺の他人格の一つでね……出てこい!ジェネラル!……おや?久々に呼び出されたかと思えば、そっくりさんへの軍事教練依頼ですか。主に格闘技?了解です。太陽系宇宙軍海兵隊の究極格闘技、教えて差し上げましょう」
「あ、いや、あのですね……他人格って雰囲気そのものから違ってるんだものなぁ。完全に教官だ」
「では。気をつけーっ!直れ!今から太陽系宇宙軍制式格闘術を、お前の身体に叩き込む!では転身したまえ。その状態でないと、とても私の技は受けられないだろう」
「は、はい!転身。Go!……って、これじゃ教官の方が弱くなるんじゃありません?」
「ふっふっふ……私を見くびるなよ……それでは訓練開始!かかってきたまえ」
「知りませんよ、どうなっても……行くぞぉ!」
15分後……
「うわたたぁ!こ、降参!降参です!」
「どうかね?身体の使い方一つで圧倒的に力の差がある相手にも勝つことができる。全体的なスピードではない、相手の隙を掴む目と即座に技に入るタイミングがハマれば、こうなるんだよ」
ジェネラルは転身したヤマノ君の関節を極め、どんなにヤマノくんが力を込めようと抜け出せない形になっていた。
この形に極められたのは、もう数回。他の状態になっても結局は関節を極められてしまう地獄のループになっていた。
「今日は、もう1時間ばかり訓練します。あ、実力は分かりましたので転身を解除してください。そのままだと転身可能時間をオーバーしますので。生身だと全力は出せませんが、それなりに訓練は出来ますからね」
オニー!アクマー!助けてぇー!という声が響き渡っていたが根回ししていたため誰も助けに来ることは無かったそうな……