銀河のプロムナード 二 太陽系は大変なことに
はい、前回からの続きですね。
冥王星軌道を越えるか、というタイミングで異星人達の宇宙船が行動を起こした。
まあ彼らの文明圏では常識の「まず最初のコミュニケーションはテレパシーから」を実践しただけ。
そういう「常識」の通用しない太陽系では大混乱に陥っていた。
「うわぁぁ……こ、声が響き渡る!これは神か?!」
「や、やめてくれ!俺の頭の中を引っ掻き回すな!」
「うひ?うひひひひ?宇宙意思の導きだぞ〜!ついに私は宇宙意思とコンタクトしたのだぁ〜!!」
以上、こいつらはテレパシー初級、というか発信ができない初心者のクラス、または自分でも気づかないテレパシー能力者達の感想。
一人だけイッちゃってる奴もいる……
「こ、これは何かの呼びかけか?」
「こちらへの呼びかけとは分かるが……理解不能だ」
「もしかして、数年前の木星事件の続きか?あれは解決したはずなんだが」
以上は中級クラスのテレパス、あるいは木星勤務でESPに目覚めた人たちの感想。
木星事件という形で例のトラブルバスター関係の大事件未遂は落ち着いたようです。
でもって、こちらが本職のESP保持者達……
「ん?いつにないほどの強力なテレパシーだな……な、なんと!冥王星軌道からの発信とは!ちょっと待ってくれないか!エスパー職員達を招集して、あなた達の希望を伝えよう」
戦略宇宙軍にもESP部隊がある。
そこには今の時点で集められる最強にして最高のエスパー職員がいる(例のトラブルバスターの数十分の一の力に過ぎないということは彼らは知らない。知らないほうが幸せな事実というものは確かにある)
その部隊員が全て招集されるなどという、まさに非常事態が起こっていた。
「それぞれが任務を抱えていて常に全部隊員が揃わないのが、この最強ESP部隊だったのだが、今この時に幸か不幸か部隊が揃ってしまった!諸君、今この時点で人類が出会ったこともない生命体と、その文明が大群で恒星間を渡って太陽系にやって来たのである!諸君の任務は彼らとのファーストコンタクトを行うことである!非常に困難な、言葉や感性、生態系すら違う生命体との交渉になるが君たちに全人類の未来がかかっている!頑張ってくれたまえ!」
戦略宇宙軍長官の訓示である。
スパイ任務や救助任務も良いが、たまにはこういう宇宙規模の任務も!
などと思っている部隊員も多い。
ちなみに地球外生命体とは未だに電波や光信号によるコミュニケーションの試みは成功していない。
まずは全部隊員の精神集中から、その統一された意思を、部隊の中でも一番強力なテレパシー能力を持つ隊員に託す。
その隊員は脂汗をかきながらも、全力を込めて異星人の大群へ向けて歓迎と交信を望む意思を含んだテレパシーを放つ。
しばらくして……
〈やあ!ようやくテレパシーが通じたな。ここが、伝説にもなりそうな男の誕生した太陽系、そして地球という星のある場所で良かったのかな?〉
ESP部隊員は拍子抜けである……
あまりに緊張感がないテレパシーに、あっけにとられてしまったのだ。
地球人にとってはファーストコンタクトだというのに……
まて!
相手は太陽系や地球の名前を知っているではないか!
伝説の男だと?!
そんな人間、いるわけがない!
ちなみに精鋭ESP部隊の名誉のために言っておくと彼らはトラブルバスター楠見 糺の名前なんぞ知っているはずがない。
彼らには一介の三流企業に過ぎない会社、なおかつ正社員でもない契約社員の話など噂にも登らないのが当然。
ただし、これを後に報告書として渡された戦略宇宙軍長官だけは、こう呟いた……
「ああ、やっぱり、あの男が絡んでいたのか。太陽系から銀河系へと活躍の幅が広がっても、やっぱり同じような仕事をしてるんだなあ、奴は……」




