もう一人の楠見 その四
段々と、魔改造されていく101、アンドロイド、実験船……
数日後、アンドロイドの改造作業が完了する。
見た目は何も変化なし、しかし……
「ナンバー101、キャプテン。ようやく自己意識が持てるようになりました。つきましては私に名前を付けていただきたいのですが」
「お、おう。何か口調まで変わってしまったな。まあでも良いことだ。名前か……俺みたいな番号じゃない、固有の名前が欲しいんだろうけれど……俺には固有の名前ってのが思いつかない。クスミさん、何か良い名前はないですかね?」
「ふーむ……こういう場合のスタンダードと言うと……フライデーとか、ロビーとか、トビーが定番か」
「どうだい?アンドロイドくん。フライデー、ロビー、トビー。この中から良い名前はあるか?」
「そうですね……ロビーというのが語感が良いかと。私の名はロビーとします。おお、固有名が認識されると自己意識が広がっていく……そうか、これが己と言うものなのか……」
「良かったな、アンドロ……じゃなかった、ロビー。こうなると俺にも固有名ってのが欲しくなりますが……ねだっても良いですか?クスミさん」
「ナンバー101じゃ、自己と他人の区別もつきにくいだろうしなぁ。まあ、そういった自己と他人を分けて考えにくくなる文化・文明なんだろうが……完全な名前を持つほうが君のためにも良いかも知れないな。なにか良い名前は……俺の名前じゃ、俺のクローンか双子だしなぁ……ん、ヤマノなんてどうかな?俺の星、地球で大昔に作家だった人物の名前だ。正式にはヤマノ コウイチ。後でデータ化した名前と印刷したものをあげるんで、自分の名前だと覚えこむようにしたほうがいい」
「おお、ヤマノ コウイチ。何か他人と全然違う物が我が意識に芽生えそうですよ」
「じゃあ、ロビーの次はヤマノくん、君だ。君の場合は、ちょいと時間がかかる。まあ、宇宙船の改造にも時間がかかるんで、その間の訓練だと思ってくれれば良い」
楠見は新しくヤマノ コウイチという名前となった元101を連れて、教育機械ルームへ。
「さあ、ここだ。多分だが君は俺。ということは、ある程度のESP能力があるはず。まあ、俺が思考波を受けている段階で結構な潜在能力はあると思う」
「クスミさん、俺の思考波を受けたって言いますが、どのくらいの距離だったんですか?」
「ああ、まあ、気にしないでよろしい。このポイントからだと、およそ50万光年くらいかな?この銀河のすぐそばを通った時、君の思考波が飛び込んできた」
「あの時は必死でしたからね。まさに、死ぬか生きるかの選択でした。それにしても思考波って、そんなに遠くまで届くものなんですか?」
「いやいや、普通は集団の思考波くらいしか届かないよ。言っただろ?君は俺、もう一人の楠見糺だろうからね、そこまで強い思考波が出せるんだと思われる」
「ん?と言うことは俺、ヤマノでもクスミさんと同じくらいのESP?の巨人になれるという話ですか?」
「いや、どうだろうか……俺、クスミの場合は様々な特殊事情があるんでね。通常のESP開発法では無理じゃないかな?とは言え、あまり脳領域開発をやっても君の星では……最悪、人間兵器にされる恐れもあるしなぁ……とは言え、せっかくの才能だから開発してやりたいし……」
「俺、クスミさんの力、欲しいです!子供の頃、メディアで流される空想ドラマに憧れてたんですよ!現実に、そんな力が俺の中にあるのなら開発してほしいです!」
後で、もろもろの件を含めても、この言葉は抑えて言ったほうが良かったなと後悔することになる、元101のヤマノだった……




