死にゆく太陽に…… 8
人造生命体「人魚」についての問答です
ドでかいガラス管の中に……たった一匹?いや、1頭?いや、ここは一人を使おう……たった一人だけ生き残っていた人造生命体(人工生命体と、どっちを使おうかと思ったが、人工頭脳との区別がつきやすいので、人造生命体を使うことにする)……それは「雌」いや、女性体だった。
顔や上半身は人型、つまり俺や郷と同じような姿、形態だけ見ればライムやエッタの姉くらいの年齢に見えるが問題は下半身。
明らかに人間形態じゃない。
その生命体を見た時、俺や、多分、郷も同じような伝説があったと聞いていたので、両者とも同じものを想像したと思う。
人魚……そう、あの想像上の生物にしてファンタジーや童話の主役となる、マーメイド、人魚だ、
その肉を喰らえば不老不死にもなろうかと言われ、八百比丘尼という人魚の肉を食べて八百年生きた尼僧の伝説が有る。
とりあえず、現在は人魚の生命活動に支障はないようなので、この人造生命体に関するデータが残されていないかどうか徹底的に調べることにした。
やはりというかなんと言うか、厳重では有るが幾多の年月に晒されても耐えうるようになのか厳重な金庫に入れられて、その資料は残っていた。
それを書いたのは、ここ「生命活動研究所」という、ちょっと考えさせられる名前の極秘だったろう研究所の所長。
多分、こいつは生命活動という神の領域に魅せられてしまい、こんな地下深くに活動拠点を造ったんだろう。
資料を読むにつれ、この人魚が予想外の人造生命体だったことが明らかになる。
この文明も遺伝子情報の完全解析化に成功し、種族としての寿命は遥かに長くなったが、その反面、繁殖力が衰えてしまい、長い期間をかけて絶滅に向かっていった。
所長は、この種族としては例外に精力溢れる方だったらしく、なんとか種族の繁殖遺伝子を活性化させられないかと様々な人造生命を作り出してはその成果を種族の再活性化に繋げられないかと模索していたようだ。
その成果の1つ……というよりも、例外に近いような予想外の成果で、目の前の人魚が生み出されたようだ。
資料にも、何をどうしたら、このような生命体が生まれるのか自分にも予測は不可能だったと書いている(こいつ、案外と正直者だったようで)
人魚の複製を生み出そうと、何度もチャレンジしてみたが、二度と人魚のような生命体は生まれることがなかったと。
資料の最後に、自分は仕方なくここを離れるが、誰かがこの施設を見つけた時には、どうか人魚だけは生かしてやってくれと書かれている。
どうも、イレギュラーとして生まれてきた最高にして最強の生命体、人魚に魅入られたのかも知れないな、こいつ。
俺は、プロフェッサーに尋ねる。
「プロフェッサー、どうだ?何か、眼の前のこいつから感じるか?」
プロフェッサーは、少し考えるように、
「いいえ、我が主。何かのエネルギーや電波、音波に至るまでセンサーに感じるものはありません」
「やはりな。こいつは生来の本能のようなものだろう……」
俺は答える。
「師匠、プロフェッサー、何を言ってるんです?俺に説明プリーズ!二人が何のことを言ってるのか、さっぱり分かりませんよ、俺には」
「郷、こいつに対して、君は助けてくれと言った。ひと目見ただけだぞ?毒を持つ生命体かも知れない、俺達を食糧として見ているのかも知れない、何もわからない時点で、どうして君は、生かして欲しい、救ってほしいと考えたんだ?」
郷は……
「あ、あれ?そう言えばそうだな……どうして俺は、この人魚に対して同情の念を抱いてしまったのか……」
「テレパシーを操る能力がないのは確認している。例によって受信は可能なようだが。郷がおかしくなったのは、多分、こいつの本能的な力だろう。催眠術のような力を無意識に振るうようだ、この人造人魚さん」
「どうするんです?師匠。本能的に催眠術扱うような生命体、危なっかしくって宇宙に出せませんよ。最初の方で催眠術にかかっちまったようでしたが、もう大丈夫です。正気に戻りました」
そう、どうしようか?
このまま数千年は、あの太陽からのエネルギーで生きられるだろうが、ガラス管の外へ出ることは出来ない。
俺やガルガンチュアチームが手を貸せば、ここから出して生きていけようにしてやることは可能。
しかし、それをやって良いものだろうか?
この生命体、人魚の性根が善なのか、それとも悪なのかも分からないのに……