銀河のプロムナード外伝 2
本格的に話が動き出す前の「お約束」回。
はぁ……何という事だ。
私は、この世で最強の存在を召喚したはずだ。
何処が間違っていたのだろうか?
あの時の呪文に何か発声の間違いでもあったのか?
それとも、丁寧に書きこんだつもりだった魔法陣に何か手違いがあったのか?
それとも、召喚する存在に応じた魔力の設定を間違えたのだろうか?
「とりあえず、確認します。私が全魔力を注ぎ込んだ魔法陣と、その魔力を残り一滴まで使い切った音声魔法の合体魔法で召喚した、この世で最強であるはずの存在……それは、あなたでよろしいのでしょうか?」
はぁ……多分、間違いだよなぁ、これ。
全然関係ない、全く別の世界の人を呼び寄せることには成功したようなんだが、見るからに貧相なグレーの一体型衣服?のようなものを着てるし、筋肉は貧相だし、こうやって見てる印象も、見るからに貧相な中年だしなぁ……
「失礼な事を考えているな、魔導師殿。確かに、俺は貧相な中年男かも知れないが、これでも数知れぬ銀河と星の苦難やトラブルを解消してきたトラブルバスターだ。今回は、どうやら何かの手違いで呼び寄せられたようなんで、とりあえずは、そっちの契約に従い、トラブル解消作業を行うこととする。契約が完了したら、また元に送り返してくれるんだよな?」
何だ?私の心を読んだのか?いやまて、そんなはずはない。相手の心を読むなどというギフトやスキルは聞いたことすら無い。
あ、そうか……焦った私の表情や仕草の微妙な動きを読んだのだろうな……高レベルのアサシンのような事を可能とする奴だが、これなら使えそうだ。
「そ、そうだ。今から召喚したものと召喚されたものとの魔術契約を結ぶ。この契約が実行され、契約内容が完遂されたと双方が認めた時点で、こちらの縛りは消え、そちらの世界へ送り返すこととなる。では、契約を結びたいのだが……契約時の名前をどうするか?」
「え?契約時の名前?偽名でも大丈夫なのかな?本名じゃないと駄目とか?」
「いや、異世界の存在には本名が発音不可能だったり意味不明な雑音だったりする場合があるのだ。だから、召喚時の契約は、双方が認めた名前を交わし合い、それをもって契約の証とするようになっている」
「ああ、そういうことだったのか……かなり便利なシステムだな、それって。俺の方でも採用してみたいもんだ……おっと、こんなお喋りしてる場合じゃないな。契約内容を聞きたい。ついでに、俺の名前は「アドミラル」としてもらうほうが良さそうだ。そちらの発音だと、さしすせそがシャシシュシェショに聞こえてしまう」
「アドミラル、ね。良い響きだ。では、アドミラル……今から魔術契約を、そなたアドミラルと我、高位魔導師であり錬金術師である我、ロォンブ・ロォーゾゥと結ぶ。そなたへの依頼は、この国へ攻め込もうとしている敵対勢力の殲滅、あるいは完全なる無力化である。それをなし得た時、この契約は破棄されて、そなたを元の世界へ送り返すことを、神と我が名に誓おう!」
魔法陣が浮き上がり、アドミラルを中心として回り始める。
よし、魔術契約の初段階は成功だ。
「汝、アドミラル!この契約に承諾するか?承諾するなら、ただ頷くが良い。納得せぬのであれば、ここに契約を破棄し、そなたはこの地に縛り付けられる事となろう!」
アドミラルは……頷いたな。
今度は、こちらに魔法陣が浮かび上がる。
「承諾したと認める!我も、この契約の間、そなたを補佐し、欲しい物があるのなら極力、届けよう。そして契約が果たされた時には必ずや元の世界に送り届けよう!」
双方の魔法陣が1つになり、消える。
これで魔術契約は成された。
「では、アドミラル。最初の仕事だ。今正に、この国へ攻めこもうとしている魔王帝国軍を殲滅して欲しい、あるいは、無力化でも良い」
「おーおー、最初から厳しい仕事を与えてくれるもんだね全く。で、1つ聞きたい、ローゾのおっさん……敵の数と、詳細な軍団の種類は?無双するにしたって、手順ってものがあるぞ」
「むかっ!だ、誰がおっさんだ!これは教会の高位職にある者が全て行う剃髪だ!頭のてっぺんだけ剃って、神の威光の輪を模すのだ!それに、アドミラル!お前のほうが、どうみても私より年を経ているだろうに。まあ、そんな事を言い合っている暇はない。ほれ、そこに間諜部隊が調べてきた報告書がある。それを読めば良いだろう……しまった!お前はこちらの字を知らないのだな!」
「ああ、知らないんだが……ああ、大体は理解した。ローゾの思考を読ませてもらったんでな。まあ、このくらいならば……おや?誰か前線で戦っているようだが?」
「だから私の頭の中を覗くなと!……まあいい、話が早いか。前線で戦っているのは、この国の英雄たちを中心とした軍だ。絶望的なほどに圧倒的な物量差ではあるが、それでも踏みとどまって攻め寄せる魔王帝国軍を食い止めているのだよ」
「じゃあ、話は簡単だ。今、戦ってる全軍を引き上げさせてくれ。俺のやり方を見たいなら、そうしてもらうほうが手っ取り早いから」
「何じゃと!?正気か?アドミラルよ。いくらお前が強くとも、一人では万を超える魔王帝国軍を止めることなど不可能だぞ!」
「まぁまあ、あんたの召喚した人物を、ちぃとは信用してもらいたいもんだね。じゃあ、兵の引き上げ、迅速に頼むわ。じゃぁ、行ってくる!」
「おい、アドミラル、待て!何処へ行く気じゃ?!そちらは魔王帝国軍の親衛隊が中心となる部隊のいる方向じゃ!よせ!危ないぞー……素早いの、もう見えなくなりおった」
さて、と。さっさと要件済ませてガルガンチュアへ戻して貰わなきゃな!
なんだか今回、楠見がイキイキしてる気がする……自分の体を動かすのが好きな現場至上主義のエンジニアっているよねー(笑)




