惑星間航行の日常 冷凍睡眠(コールドスリープ)システムを使う
まだまだ、宇宙航行は続きます。
今回は、宇宙ヨットの冷凍睡眠システムの紹介と使用です。
ここで……
え?
俺が火星から帰ってきた時にはコールドスリープしなかったの?
とか突っ込み入れる奴も出てくるだろう。
当たり前だが経費節約のため冷凍睡眠しましたよ普通に。
だけど、こんな小規模システムじゃなくて、でっかい広場のようなところに数百人分の冷凍睡眠カプセルが並んでるような客船と、宇宙ヨットのシステムを同じと考えちゃイカンよ、君。
客船の方は事故が起こった場合の救助カプセルも兼ねているので、独立した生体維持装置も付属した、宇宙ヨットより小型の宇宙カプセルみたいなもんだから、比べること自体がおかしい。
まあ電力量から行けば、帆から発電される莫大なる電力を一人用で使用できる俺の宇宙ヨットのほうが贅沢といえば贅沢なんだけど。
事故が起こったら冷凍睡眠カプセルごと文字通りの「棺桶」ってこと。
まあ、そういった不安な部分も含めて、こういう、
「自分でリスク管理する宇宙船で自己責任のもとに冷凍睡眠カプセルを使うのは初めて」
という意味。
色々とやってるうちに地球管制から出る瞬間が近づく。
向こうから「ご安全に」という、なぜか古代の建築業や生産業の合言葉を送られ、
俺からは「クリアスペースを!」と返しておいた。
管制ロボットには、シャレが分かっただろうか?
さて、これからは何もない宇宙空間だけ。
そろそろ冷凍睡眠カプセルに入る時間。
俺は航宙日誌をつけ終わるとコールドスリープシステムの起動に入る。
システムチェックから人工頭脳への管理へ移ると、より細かなチェックに入り、三十分ほどかかって全てのシステムが異常なしと表示される。
よし、これで、いつでも冷凍睡眠に入れるようになった。
俺は食料の保管分のチェックと今日の予定分の食料を食べ終えると水分を少量摂取し、カプセルに入る準備にかかる。
十日近く冷凍睡眠することになるため、排泄も済ませ(こいつは呼吸する空気と同じでリサイクルされる。そのためのエネルギーは膨大なる電力が賄うことになる)すっきりした体調でカプセルに入ることを勧められる。
さもないと眠りから冷凍睡眠へ移行する時点で悪夢を見る可能性が高くなるらしい。
俺は宇宙服から、すっきりとした睡眠服(パジャマとは違う。身体に負担をかけない、寝るのに最適な服のことだ)に着替えるとカプセルの蓋を開ける。
その中に入り横たわると、睡眠に適した体の状態になるよう中の素材が形を変え、最適な重量配分で寝て過ごせるようになる。
少しすると、睡眠誘導成分入りのガスを含んだ風が爽やかに吹いて、心地よい眠りにつく。
そして、しばらくするとカプセルの蓋が閉じられるが、その頃には俺は眠っている。
呼吸や心音から眠りについたことをシステムが判断すると、徐々にカプセル内の気温が下がり、冷凍睡眠状態、又の名を「仮死状態」にする。
その温度を維持しながら、人工知能は宇宙空間を帆を微妙に操りながらも、凄い速度で(まだまだ加速しながら)宇宙空間を進んでいく。
当の本人は夢すら見ない冷凍睡眠状態で、冷凍マグロのようにカプセル内にいるだけ……