その星には今日も強い風が吹く 11 (最終話)
終わりです。
次の話は、少しお待ち下さいませ。
その星に平和が戻り、風が止んでから数十年の時が経った。
いつの間にか地底国は無くなり、その住人は全て宇宙の民となっていた。
未だに跳躍航法は許されず跳躍エンジンも超光速系の計器類も動かないが、ロック解除の日は、そう遠くないとガルガンチュアからお墨付きを貰った元地底人は亜光速機関のみの宇宙船隊でも頑張っていた。
元は個人用のガルガンチュア搭載艇、しかし、それをガルガンチュアの如く各船を繋ぎ合わせ、巨大な一隻の宇宙船として使う方向を彼らは選択し、それを「宇宙都市」と呼ぶようになったのは当然かも知れない。
「個人主義と集団での防御を、どうやって両立させるのかと思ってたら地底都市をつなぎ合わせる要領で宇宙都市モドキを作っちゃったよ、彼ら。宇宙へ出てから数十年だぞ、信じられるか?」
楠見が郷に向かって語りかける。
「師匠、介入した意味が有りましたよね。これほど地底人が宇宙に向いている種族だとは思いませんでしたよ」
「うん、そうだな。これで宇宙に広がる生命体の各種族への偏見とか変な思い込みとか無ければ、近いうちに跳躍航法系統のロックも外れるだろうな。銀河を駆け巡る新しい宇宙文明の誕生だよ」
その宇宙都市の大きさは直径5kmほど。
地上都市と比べるなら小さいだろうが宇宙都市の規模としては大きな物。
まあ、その近くにあるガルガンチュアは直径1万Kmを超えたフロンティアに直径5000km前後の宇宙船が三隻くっついているという馬鹿げた構造物なので、それと比べる事自体がおかしいが。
もう少し、この若い宇宙種族に付き合ってやり、跳躍航法のロックが解除されたらサヨナラすることにしようか……
楠見は、そう考えていた。
ちなみに普通の天候が日常となった惑星では、地上種族が程度は低いがちょっとした古代文明と近代文明のミックスした珍しい文明の花を咲かせていた。
楠見の興味を引くまでには至らなかったようで地上政府へのおみやげの引き渡し(月の正体と中心部の避難設備の説明。そして各種装備や様々な超越技術を詰め込んだデータチップの引き渡し)はライムが担当した。
宇宙船まで造れるような文明程度ではなかったため様々な土木機械(救助設備を土木機械として使うことにしたようだ)のデータを用いて惑星開発に使っている。
まあ、まだまだ荒っぽい文化や種族的優越が強いため宇宙へ出るには時期尚早だろうが。
またまた時間を進めて百年近い時が経つ……
「ようやく、君たちの文明にも跳躍航法が許される時が来たね。こいつはお祝いだ、受け取ってくれ。君らの宇宙文明に幸あれ、だ。では、さらば……この銀河を平和にしてくれよ」
泣いて引き止める元地底人たちを尻目に楠見達ガルガンチュアチームは、数ヶ月前にようやく跳躍航法のロックが外れた宇宙都市を去ろうとしている。
もっともっと長く我々を導いて欲しい、という種族代表の頼みに楠見は、
「これでも長く一箇所に留まった方なんだよ。短いと、数時間で去った銀河もあったからね。まだまだガルガンチュアの訪れを待ってる銀河は果てしなくある。そこに待つ人たちのトラブルを、そのままにしておいて良いと思うかい?」
これを言われてしまうと何も言えなくなる種族代表。
月すら創り上げる存在の訪問を断る銀河や星系など、いるわけがない。
それは神の訪問を断ることと同じ事だから。
種族代表は、おみやげだと言われたそれ、直径5kmの搭載艇母艦を見ながら、神の代理人が去ったあとに自分たちに任された銀河宇宙を守り育てる方針を考えていた……
データチップには銀河規模の救助隊の説明と救助装備一式の説明と操作方法、そして何と、その一式が全ての搭載艇に標準装備されているという事実が述べられたファイルがあることに気づかずに……
今日も宇宙は平和である。
平和をもたらす存在は今日も星から星へ、銀河から銀河へ、銀河団から銀河団へ。
そして超銀河団をも超えて平和をもたらしていく……
行く手を阻むものすら平和にして、平和のロードローラー「ガルガンチュア」は今日も宇宙の闇を照らしながら跳ぶ……




