その星には今日も強い風が吹く 10
そろそろ終盤。
消えた1000名近い地底人は何処へ行ったのか?
そう、ご想像通りガルガンチュア船内。
そこで驚愕している民衆を率いて、エッタとライムが教育機械(始祖種族系統に調整されているものを当然ながら再調整している)に次々とかけていく。
数日後、宇宙に出るための常識と基本スキルを身につけた者たちはガルガンチュアより一隻づつ中型搭載艇(の中でも比較的小型の直径50m版。もちろん基本装備は積んであるし、今はロックされているが当然のごとく跳躍エンジンも積んでいる)を与えられ、星系最遠部にて操縦訓練に入る。
「うわ、宇宙船って、こんな自由自在に操縦できたっけ?」
「違う違う!この搭載艇が優秀なだけで今の俺達の文明じゃ宇宙ロケットすら作れないんだぞ。今の新兵器ってのは毒ガスだと聞いてる」
「この快感……もう地上へも地底へも戻れないわね、この宇宙を自由自在に飛び回るって開放感を知っちゃった今では」
などと意外にすんなり宇宙に対応する地底国の皆さん。
トラウマになるかと思っていた宇宙恐怖症とは無縁の種族だったらしい。
感想を聞いたら、
「宇宙と地底って、真っ暗だってとこが似てるのかしらね。果てがないのが違うかも知れないけれど、宇宙の圧迫感のようなものは、地底で天井が落ちてくるって心配と似てるようなものがあるのよね」
と、いたって普通。
心配していた郷や楠見など、あっけにとられていた。
サンプルも取れたところで本格的に地底国民に向かって「いらっしゃいませ!宇宙があなたを待ってます」キャンペーンをテレパシー放送。
例によって地上人には一切、受信できないようになっている。
今度のキャンペーンは初めて宇宙へ行った者たちの感想も付け加えているため、ますます魅力が増す。
前回の1000人近い人数から次の集会(?)は3000人を越す。
さすがに地上のマスコミや政府も嗅ぎつけて何の集会?などと興味を持ったようだがテレパシー放送を聞いていないため、説明が理解しづらい。
どうやら奇跡を起こした存在が絡んでいるらしいとまでは嗅ぎつけたが、そこまで。
何の目的も無さそうな集団が何の目標もない草原に集結し、しばらく待っていると、ふっと消える……
全員。
都市伝説が広まる地上側、そして次々と集まっては消える地底人の集団。
この事件に対し、地上側は騒ぎたてた……
しかし、地底側の政府機関は何も、声明すら出さない不思議な光景が。
「あなたがたの友人、隣人や親戚、家族が消えてるんですよ?!焦るとか、あちこちに捜査願い出すとかしないんですか?!地底の文化、どうなってるんだ!?」
ガルガンチュアには数万人単位で地底人達が集結していた。
5年後、100万人を越す、自家用宇宙船を持った「元地底人」という宇宙種族が誕生していた。
この頃には、さすがに地上側にも真相が伝えられる。
しかし、これを聞いて「俺にも宇宙へ出るチャンスを!」という声が大々的に上がらないのが地上人の地上人たる文化。
ようやく地上の何処へ行くのも強風の心配をしなくて良くなったのだからと一気に旅行や探検ブームが起きていて宇宙どころの話じゃなかったのもあるだろう。
いつの間にか地底人と地上人は互いに隔絶した文化を持つようになっていた。




