その星には今日も強い風が吹く 9
終盤です。
その星に救世主、いや、神の使いが訪れたのは地上と地底の戦いが膠着状態になって数カ月後……
その時、地上にも地底都市にも等しく、その声は届いたという。
《地上の民、そして地底の民へ。もう戦いの時は終わる。星に吹き荒れる風に悩まされる事は、もう一年も経たぬうちに終わる。今、我々、宇宙船ガルガンチュアのチームが一丸となって、この星に吹き荒れる強風の大元を断つものを造っている。それが空に見える時、この星は静かな星へと変わるだろう。まず、それぞれの戦いを止めよ。そして、この星で手を取り合って新しい文明を作り上げていくことに邁進せよ》
普通の言葉ではない、全ての者の頭の中に響き渡ったと逸話は伝える。
地上の民は、どうやって地底国を支配するかと計画し、地底の民は、どうやって地上の侵攻に対抗するかと考えていたのを全て放り投げ、その声の示す通りになるのか、一年待ってみることとした。
休戦が決定され、一年後に何も無ければ戦いが再び始まる事となる。
果たして、もうあと数日で一年が過ぎようという頃……
「おわぁ!あ、ありゃ何だ?!」
「巨大な星?あんな物が、こんな近くに来て大丈夫なのか?いつか、ぶつかってくるんじゃないか?」
その巨大な星は、そこに置かれてから少しづつ位置を調整するように動き続けた、数日間も。
ようやく動かなくなった時、人々は気付く……
あれだけ強く吹いていた風が、もう半分以下の強さとなっている事を。
まだまだ強い風ではあるが、人が飛ばされたり家が飛ばされたりという事は起きそうもない風速となっている。
日を追うごとに風は弱まっていき、その風が心地良いレベルになるのも時間の問題と思われるようになった。
地上と地底の争いも、いつしか個人レベルまで落ち着き……
ただし、そこからの確執は深かった……
特に地上側が。
「へっ、あんなモグラ野郎やネズミ野郎とは絶対に付き合いたくもないね。我ら地上の民には、もう風に怯えて移動する危険も無くなったんだから、あんな奴らの住んでる地下の上じゃなくて、もっと別の地域へ行こうぜ!」
などと人種差別を隠そうともしない移民まで生まれる始末。
表立って地上国家も地底国住民を差別することはないが、やはり文化も文明レベルも違いすぎる地上と地底……
溝は大きい。
風が収まって数年後、地上の民には聞こえぬが地底の民にだけ聞こえる声が響く。
「地底の民たちよ、いつまで経っても地上と地底の民同士の諍いと憎しみは無くならないようだ。そこで、こちらから提案がある。1つの星に、これほど文化と文明程度が違いすぎる種族が住んでいる事そのものが問題だろうと思われるため、どうだろうか、いっそ、地下の民は宇宙へ出てみないか?」
地底国の民達は、文化、文明程度は高かったが地底の住人たちのため、そもそも宇宙に憧れたり宇宙を目指そうという感情が起きなかったのが実情。
しかし、ここまで地上側が地底国住民を嫌うとなると、もともと平和を好む性質故に地底から宇宙へ行くのも悪くない選択では?
と考える者たちも出てくる。
年を追うごとに宇宙へ行きたいと思う者たちは増え続け、いつしか地底人から宇宙人へと変わる日を夢見る者まで出てくる。
《ずいぶんと宇宙派が増えてきたな。もう良い頃だと思う。今から指定する地点へ、宇宙に住むことを希望するものは一ヶ月後に集まるように。ガルガンチュアが、その者たちを歓迎しよう》
半信半疑ながら、まずは1000人近い地底国人が指定ポイントへ集まった。
地上側には一切、知らされていないため、地上人は何か地底国側で特別な集まりでもあるのではないかと見ていたが、1000人近いとは言え地底側の総人口からすると少数のため、そこまで注目はされなかった……
「何が起きるんだろうな?まあ、何が起きようが、あの月を造って、あそこへ置いた超絶とも言えるテクノロジーを信じるけどな、俺は」
あっちでもこっちでも噂話が始まるが……
一瞬の後、そこに1000人近い人間が集まっていた事など何もなかったように、夜風となった微風が草原を吹き渡っていった……




