その星には今日も強い風が吹く 1
新しい話の始まりだぁ!
その星は、強風が吹き荒れる世界だった。
風速20mを越える風が常に吹き荒れ、それが止むのは年に数日しかない。
その星では生物の進化が遅れた……
自然の猛威に対抗するので精一杯というのも確かにあるだろうが。
結局、その星で知能を持つ進化を成したのは猿系の生物ではなく、モグラやネズミ系の生物たちだった。
地面の下なら強風が吹き荒れる地上とは違い、ゆっくりと生きることが可能だった。
そうは言っても地上に近いと風だけではなく雨水や他の影響も受けやすいため、自然と地下トンネルは深く掘られるようになる。
水の侵入が厄介だったが迂回路や排水口という技術の考案・発展により地下の巣は安全なものとなり、ゆっくりと知性を進化させる余裕も出てくる。
巣は時間を経て小さな家となり、家が集まって集落となり村となり町となる。
町と町が地下のトンネルで出会い、時には戦いも起きたが概して平和的に町と町は融合し、または大きな町が小さな町を吸収合併して、町から街へ。
街がいくつか集まり都市となり……
長い年月のうち、いつしか巨大な地下都市が築かれ、そして巨大都市が集まって国という概念が生まれる。
そこは巨大都市の周辺地域となる田舎じみた町。
「ごほっ、ごほっ。あー、今日も空気が汚れてるなー……ちゃんと空調装置と集塵装置が動いてないんじゃないのか?」
朝の通勤時間。
モグラ人の男(雄とは言えない。モグラ族ではあるが二足歩行してるし、ちゃんと服装も綺麗に洗濯してある)は、そう愚痴りながらも汚れた大気の中、遥か百m上の地上から強化ガラスと鏡の組み合わせにより導かれた太陽光により明るい地下世界にある鉄道の駅へ急いでいた。
ちなみに今の光量では明る過ぎて目を痛める恐れがあるのでモグラ族の多くは真っ黒なサングラスをかけている。
最新の技術により光量によってレンズの色を変える特殊コンタクトレンズが発明されているので少々価格は高いが、おシャレに敏感な若いモグラ族の男女はメガネ派ではなくコンタクト派が若干いる。
ころころと瞳の色が変わると言うので流行に敏感なネズミ族でもコンタクト派が出現している(ネズミ族は視力に問題を抱えていないのでコンタクトを装着する必要がないが、伊達コンタクトと呼ばれる)
今日も汚れた空気のため、導かれた太陽光の夏の光が引き起こす光化学スモッグ現象が起きそうだなと思いながらも、ちょうどホームへ入ってきた電動車に乗り遅れまいと焦るモグラ族の男性。
どこでも一緒、毎日の見慣れた光景……
そんな一日が始まる。そんな思いを皆が持っていた。
それが起きるまでは。
それは朝のラッシュ時間が終わるかと思える時間……
「おい、アレなんだ?」
偶然、空(地底では天井を仰ぎ見る行為を、空を見ると言う)を見たネズミ族の一人が、そんな事を呟いた。
空(天井)から何本もの糸、いや、ロープ?が下りて来ている。
そして、それを伝って地上(地下国の道路を、地上と呼ぶ)へ降りてこようとしている影が数十名……
その時より地下国に安寧は無くなった……
地上では荒々しい風が吹き荒れ、静かだと思っていた地底国には血の雨が降ることになる……
それは「災いの朝」と呼ばれる事となる……




