或る男の、真に稀有な日々 13 (終わり、そして……)
これで、この話は終了。
次は、どんな話にしようかな?
インタビューから一年……
本人と何度も連絡を取りながら、あまりに宗教的問題が大きなところは脚色し、ようやく革命手記の出版と相成った。
しかし私は知っている(私と革命指導者本人は)……
真実はフィクションを飛び越えてしまっていると。
色々色々あって、革命10年祭。
ひっそり暮らしてた元革命指導者を無理やり引っ張り出して革命記念祭の中心に座らせ、本人にとっては苦痛と恥の上塗りにしかならない革命の最終シーンを語らせるという茶番を強制するメディアと言う名の影の支配者たち。
私も参加させられたが(冤罪の証人として演説させられた)メディア側が本心から善意で行動しているため、とても止める気になれなかった……
善意の攻撃は防御不可能と心底思った。
4年前に民意で選ばれた大統領が民主革命の意義を語り(まあ、彼の瞳の輝き。真実を知らないと、こんな純真になるんだな)民主会議議長の祝福の言葉や海外からの招待客(高官や大臣クラス)の言葉等、順調にプログラムが進んでいく。
最後に最新の技術成果として意外なものがお披露目される。
それは宇宙船。
それも過去には造られたこともない球形船。
直径50mほどの球形船は、それでも他に成層圏より上に飛び出せるような代物はミサイルしか無い状況では他を圧倒して大きな印象を与える。
「元革命指導者、現在は全世界的規模の複合企業体会長、ジョニィ氏の会社工場で先月ようやくロールアウトした1号宇宙船を、ここまで飛ばせてもらいました。皆さん、過去の革命前には予想もしなかったテクノロジーの成果が、これから次々と現れてくるでしょう。そして我々は、この星を故郷とする宇宙をも手にする事となるのです!」
司会の言葉が消されるくらいに大きな声が上がる。
民衆の歓声だ。
辛く、哀しく、飢えにも悩まされ、その日の食べ物にも寝る場所すら苦労する時代は、すでに過去のものとなって久しい。
これからは、この星ばかりじゃない隣の星、また隣、そのまた隣と惑星だけでも7つもある。
衛星や小惑星も入れれば、もうそれこそ限りない数の星が待っている。
新しい未来が待ち受けているのだ、我々を……
一方、こちらは昔ながらの代替監獄、大金鉱。
少しは機械化されて楽になったが、もとよりここは犯罪者の懲役のために造られたもの。
あえて機械化せずに人力でやらせるのが肝心の穴掘りだ。
ここに、もう収監されてから10年目になる元首領と、その血縁者達がいた。
食べ物は昔ながらの味。
改善できるが、あえてやってない(これも罰の1つ)
喉に流しこなまいと吐きそうになるくらいの不味さは昔も今も変わらず。
首領の家族や血縁者、つまりは革命直前まで贅沢の極みを享受してた者たちは今の境遇に嘆き、いつか支配者階級に復帰するという幻想を抱くようになる。
そうでもしなければ、あまりの落差に気が狂いそうになるから。
しかし、ここに一人だけ、元首領ただ一人は、この境遇にホッとするものを感じていた。
「昔は私一人が特異能力者だと思って、たくさんの人の心を思うがままに操ってきた。しかし、あの日、革命指導者として私の前に立つ若造の後ろに立つ2人……1人は、まだ私より強大だが目標となるくらいの力の差だった……問題は、もう一人の男……あれは灼けつく太陽よりも巨大な、いわば精神エネルギーの巨大な塊が身体という衣を纏っているような印象だった。あんな存在が実在するとは……あれを見た瞬間、私の中の特異能力、他人の心を操る力が消え失せたのを感じた……小さな虫が太陽に近づきすぎて燃えるようなものだったかなと今になって思う。今は、あの存在が近くにいると感じることはないから私も気楽になっている。あれの前に立つなどという恐怖に比べれば今の境遇など天国だ……」
小さな声で呟いて、またノルマの消化のため作業に戻っていく。
昔は偉大だったその背中、今では小さく丸められ、他の犯罪者達と何も変わることはない……




