修羅の星 27
後数回、お付き合いください(笑)
それからのネィディ大統領、行動が早かった。
陽昇国へ至急の連絡を飛ばし、情報部長フリーデン准将の伝手も使って互いの最高責任者会談を行うことを提案する傍ら、平和条約と友好条約も早急に締結できないかと根回しを行う(根回しは情報部長から聞いた方法。会談や討論会がうまく行くように予め主だった参加者たちに主題や討議内容の説明をしておき、できれば仮想問答もしておくことだそうだ)
アーメリゴ合州国民も、あれよあれよと動く事態の早さに驚きつつ、平和になるなら大歓迎!
と好意的な目で見ている。
ただし一部の新聞やラジオ、雑誌、テレヴィジョン局も含め、影の支配者の命によって動いていると思われるメディア集団は一斉に新しい大統領の動きを攻撃する。
「偉大なるアーメリゴ合州国が、こんなに気弱な外交をしてて良いものか?!我々には超兵器、ウラン爆弾があるではないか!一発で効かないのであれば、10発でも20発でも落としてやれば良い話だ。それが可能なのは我らが偉大なる合州国だけなのだぞ!」
物騒極まりない煽り文句だが喋ってる奴らは至って真面目。
自分の思想が真っ黒いものに染まっているなどとは思いもせず、ただただ偉大なるアーメリゴ合州国の敗戦という屈辱に耐えきれない、いわばヤケクソあるいは自己欺瞞とでも言うべき犯罪じみた言動を繰り返している。
しばらくして。
あっちこっちへと走り回り、2ヶ月後にようやく陽昇国との平和条約締結を含む平和会談が行われる事となった現在、大統領は国内のタカ派を含む影の支配者からの影響を排除する政策を実行する。
議会へ提出した時にはメディアと思想の差別と支配につながると大騒ぎになったが、あまりに酷い発言を繰り返す、ほんの一部のメディアと思想団体を規制するのは別に変でも何でも無い……
現に、これには暴力と人種差別を肯定するKKKK団も含まれている。
今まで、この国は言っていることと日常の行動が繋がっていなかったので言行一致を為すだけだ。
以上、アーメリゴ合州国において初となる人種差別禁止、奴隷制完全撤廃、未成年教育の完全実施(5歳より18歳まで国による無償の完全教育。一部の州では、これが実施されていなかった)と政府機関への就職及び議員立候補の人種と身分選別の完全撤廃……
自由と市民による市民の政治を標榜するなら、はるか昔に達成していなければならない法律ばかりだが、ようやくアーメリゴ合州国は、その身に抱え込んだ闇と決別しようとしていた。
その日が来た。
陽昇国が派遣して来た超大型輸送艦とりふね。
人工運河を通れるサイズではなかったため、ワーシングトン州の軍港へと錨を下ろした。
そこから降りてきたのは内藤総理大臣と神皇陛下。
ネィディ大統領は内藤総理大臣だけが来るものだと思っていたが神皇陛下まで同道してきたので慌てる。
しかし、顔には出さずに陽昇国を支える二本柱とも言える二人を歓迎する式典を執り行う。
様々な式典が終了し後は副大統領と大統領、内藤総理と神皇陛下の4名で平和条約締結への会談を行う次第。
会談が行われる場、回りより少し高台となったテラスへ案内されると神皇陛下がおもむろに……
「大統領閣下、ここは危ないですな。失礼ですが安全策を取らせていただきます……」
脇に抱えた小箱に手を伸ばすと何処にあったのかスイッチらしきものを押す。
小さな高周波音が数秒、そして沈黙。
「これでもう安心です。どうやら我々4人全てが暗殺対象なようで……」
驚く大統領。
「な、何という……何か操作をされたようですが、これで安心なのでしょうか?」
答えたのは内藤総理。
「はい、神皇陛下は少しですが人間の感情を読むことができる能力をお持ちです。我々、陽昇国の者は他国に比べて魔導力の力が弱かったり無かったりと魔導力の恩恵を受けにくい体質なのですが神皇陛下は違います。陛下は周囲の人達の悪意を感じ取ることが可能なのです」
これに驚愕したのは副大統領。
「魔導力とは、そんな事にも使えるのですか?我々は魔導力とは便利な力、昔で言う魔法のような力だと思っていましたが」
「ええ、少なくとも、この力を自由自在に使えた、大昔に星から来た神の使いは魔導力ではなく「さいこきねしす」と呼んでいたようですが。さいこきねしす、とは力の一種。発現の仕方により、てれぱしー、くれあぼやんす、ぽすとこぐにしょん、ぷれこぐにしょん、と様々な力が発動するようですな。ちなみに今の言葉は、心の通信、千里眼、過去幻視、未来幻視となります」
神皇陛下の解説に、ぎょっとする3名。
さすがの内藤総理も、ここまで神皇陛下が魔導力について知っているとは思わなかったから。
その瞬間、驚きがショックに変わる!
ズダーン!ダーン!ダーン!
およそ3方向から、ほぼ同時に大口径ライフルと思われる軍用銃から放たれた銃弾が、周囲から丸見えの高台にいる4名めがけて襲いかかる!
必中を期してか3丁の銃から3発づつ撃たれた合計9発の凶弾は、ようやく訪れようとする平和の時を戻して憎しみと破壊しかない戦争を無理やり続けさせようと2つの国の最高責任者たちに迫る!
チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チーン……
凶弾は4名の周囲2mまで迫ったが、そこで何かに阻まれるように運動エネルギーを吸い取られて地面に墜ちる。
コロコロと足元へ転がってきた銃弾をハンカチで包んで拾い上げた大統領は、神皇陛下に救われたと知る。
あの小箱が戦時中も陽昇国をウラン爆弾から守った超技術の賜物なのだろうとは推測できる。
それ以上、どんな想像も追いつかないだろうとは思われるが。
それより先、何の襲撃もなく、平和会談と、それに続く平和条約と友好条約の締結は問題なく終了した。
数日後、大統領は情報部より意外な報告を受ける。
「財閥の大手、あの巨大鉄鋼会社と大新聞社の会長、そして銃器製造会社の最大手の会長も自殺したって?古風に毒を煽って?」
「はい、遺書も何も無かったそうですが彼らの顔には絶望しか見えなかったそうです。よほどのショックで心が折れたんでしょうかね?何もかも諦めて、それでも恨みは深いぞとばかりに死に顔すら安らかとは言えなかったそうです」
「そうか……まあ、これでアーメリゴ合州国は、ようやく過去の亡霊と縁が切れたってことかね。さあ!これで政府も情報部も、いくらでも動けるようになるぞ!」
「いや、大統領……情報部が活発に動きすぎるのは、いかがなものかと思われますが……」




