修羅の星 20
まだ続きますよ。
アーメリゴ合州国が侃々諤々としていながら未だ陽昇国への徹底的な反撃を目論んでいる頃……
当の陽昇国では次にアーメリゴ合州国が打ってくるだろう戦法と戦略を予測して、その対抗策を検討する御前会議が開かれていた。
今までは閣議あるいは総理を主とした軍事会議を開き、その結果を神皇陛下にご裁可いただく形をとっていたが神皇陛下より軍事会議へのご参加の意志があるとのお言葉があり、それからは軍事会議に必ず神皇陛下のご列席があった。
「今日も合州国の動向と次にとってくる戦略と戦術の検討と、その対抗策を話し合うこととなる。今回も神皇陛下のご列席を賜ることとなったのは嬉しい限りだ。では神皇陛下のお言葉をいただき、それから会議に入ろう」
総理は過去数回の時と同じく開会と閉会の時にだけ神皇陛下はお言葉を述べられると思っていた……
が。
「我が思い、未だ理解されておらぬようで我は哀しい。内藤総理大臣、我は、そなたが一番、我が思いを理解していると思っていた。しかし過去数回の会議に列席せてもらい、ここの誰もが我が思いを理解していない事に気づいたので我は発言させてもらうこととした。良いかな内藤総理大臣よ」
思いもかけぬ一言で驚く総理大臣。
内心の焦りは最高潮だが、それでも顔には出さず、
「神皇陛下のお言葉が、この会議にてご拝聴できるのは臣下の喜びでございます。どうぞ、ご遠慮なきご意見を」
それを受けた神皇陛下、
「では、これからの我が国の戦略と戦時方針を述べさせてもらうとする。ただし予め言っておくが、これはこの国の最高主権者としての言葉ではないので、そのつもりで。この会議で出るだろう様々な意見の1つとして聞いてもらえば良い……」
ここで神皇陛下は用意されたお茶を一口のみ、
「まず、これからの戦い、我が国は徹底した防御で臨もうと思う。とは言うが攻める以外、相手を叩き潰す以外に一番確実に味方を守る方法なんてありはしないという意見が出るのは我も承知している……なので我より、この国の科学技術と武器や装備、魔導力装備を含めた、あらゆるものを超えた遥かな未来に発明されるだろう物を2つ、用意することにした。侍従長、あれを持ってきてくれ」
ははぁっ!
只今!
という侍従長の言葉と共に分厚い冊子のようなものを台に乗せた侍従長と副侍従長が入室してきた。どうやらドアの外で待機していたようだ。
「内藤総理大臣以下、皆で、これを回し読みしてくれないか。これを読んでから、それでも我が意見への反対を唱えるならば我も反対意見に耳を傾けよう」
いつもの会議とは違った方針と内容になりそうだと感じ取った総理大臣以下、会議メンバー達は陛下から提出された小冊子を読み始め……
ざわざわ……
あっちこっちで密かな会話が始まる。
内藤総理大臣は何度も何度も2冊の小冊子を読んだが……
ついに興奮極まって、
「へ、陛下!これは何でしょうか?!こんなもの今まで聞いたことも見たことも、それこそ空想小説でも書かれたことのない内容ではないですか!?これは本当に実現できるものなのでしょうか?」
あまりに興奮して総理の言いたいことが支離滅裂になりそうだと感じた神皇陛下は、おもむろに……
「これこれ、あまりに興奮すると身体に悪いぞ、内藤総理よ。まずは皆に謝ろうか。過去2度、これに近い超技術とも言うべきものが民間から発表された事があったのは憶えているか?ヘリコプターと新型の魔導力エンジンだ」
総理は、
あっ!
と声を上げる。
開発者や研究者が見当たらないのに、どこからともなく圧倒的な超技術が、この数年、2度もあったのを憶えていた。
どうやら、その出処は神皇陛下らしい……
「内藤総理の顔と声で憶えていることは分かった。あれは我が密かに民間へ下げ渡した技術と理論である。我は遥か数千年は進んでいるだろう、こことは違った星から来た者たちから賜った知識が詰まった秘宝を所持している。神皇家は遥かな過去から一系の血筋で、この国に関わってきた。この秘宝がもたらされたのは約800年以上前の事……」
ここにおいて、ついに神皇陛下は遥かな過去に星のような大きさの宇宙船が、この銀河に訪れた事、そして、その時にもこの星には争いが絶えず、あきれた巨大宇宙船とその船長は、その時の全世界的な争いに介入し数週間にして争いを鎮めてしまったこと。
そして、その争いを鎮めた時に死傷者は全く無く、互いの攻撃で傷ついた者たちも特別な手段で傷1つ無い身体となったこと……
その後、その時点で存在していた各国の首脳や国王、帝国なら皇帝、陽昇国では当代の神皇へと特別な星の知識が詰まった物を与えて星から去っていったこと……
を3時間にも渡って講義の形をとって話す。
「というわけで、ここにある小冊子は神の使者とも言うべき巨大宇宙船の船長からもたらされた知識の一端だ。もちろん、これ以上の例えば光の槍とも言えるレーザーやメーザー、それに乗れば光の速さで宇宙を駆けることも可能な宇宙船、太陽の光を非常に高い効率で電力へと変換できる物も、驚くべきことに人力の数千倍にもなる強化外骨格なる代物もある……それ以上の物もな。これら全て作り出してしまい我が国が全世界を制覇・支配することも可能となる……内藤総理大臣、我は聞きたい。この国が本当に世界制覇を欲するのか?それとも時間はかかるだろうが世界が平和に仲良く、全ての者たちの総意によって星が統一されて我々が1つの種族として宇宙へ乗り出した方が良いのか?」
神皇陛下の言葉は重かった……
今現在であれば我が国が世界制覇して世界を統一するほうが良いと考える国民は多いだろう……
しかし、アーメリゴ合州国との戦争が終結した場合、次に対決する事になるのは同じく星の知識を有する帝国……
泥沼の戦争になるか、それとも一瞬にして互いに全滅する事になるか……
「陛下……恐れながら申し上げます。我が国は目下の合州国との戦い以外、侵略行為としての戦争は好みません。この超技術ともいうべきものは、できるだけ使わず、戦いより平和を希求すると全国民を代表して申し上げます!」
この言葉を言い放った後の内藤総理大臣の顔は晴れ晴れとしていた。
暗い戦争ではない明るい未来が約束された今、この戦争も国を守ることのみに汗を流せば良いと道が示されたから。
陽昇国は今以上の余分な兵器を造ることはせず神皇陛下から示された2つの超技術、物質・エネルギー相互変換炉と、絶対シールドと名付けられた防御装置の研究と生産に力を注ぐこととなる。
奇しくもアーメリゴ合州国で超兵器の実験が成功するのと陽昇国が艦船や魔導飛行デバイス、ヘリコプターに絶対シールドを装備するのとが、ほとんど同時だった。
ちなみに陽昇国は本土を丸々覆える絶対シールドを開発している真っ最中!
島くらいは、とうに覆えるまでの絶対シールドは完成していた。
アーメリゴ合州国でも再び陽昇国との戦いが始まるだろうと予測していた。
「大統領、最悪な戦法を取るつもりだ……これは、あまりにも卑怯、何の罪もない相手国民を巻き込む爆弾を相手国の首都へ落とそうとは……まあ聞きはしないだろうが最後に私だけは抗議に行かないと。戦後、恥知らずとは言われたくないからな……」
フリーデン准将は重い足を引きずりながら大統領室へ向かうのだった……




