修羅の星 6
まーだまだ、続くよ。
あと少し……
もう少しだ。
こちら北部戦線、最前線の砲兵隊、中隊長の大尉……
しかし、あと少しで、この任務も終わりになる。
とうとう敵国であるロー連が保たなくなったのだ。
焦土戦術を使って、こちらの資材と食料を使い切らせ、飢えと寒さで立ち止まる我が帝国軍を蹴散らす作戦が崩壊し、次々と連邦加盟国を奪われて帝国領土とされてしまい、もう連邦の中心であるロールシア共和国のみが存在するにすぎない状況となった。
さすがに、こうなると相手の抵抗も強く、今まで散歩代わりに歩いて行けた前線の押し上げも頑強なトーチカと地下トンネルを巧妙に使う敵工作隊の暗躍で、今までの軍進行速度の半分以下となっている。
まあしかし。
重砲や歩兵銃の性能の差がありすぎて、こちらの銃や砲撃は面白いように当たるが、向こうのは弾薬や砲弾の工作精度が悪すぎるのか、狙っても当たらないどころか、あっちこっちと砲弾や銃弾が、こちらの兵やトーチカを避けていく始末。
一度、我が方の兵が捕虜とした敵兵が持っていた銃を鹵獲品として我が方の工作隊でテストさせてみたことがあるが、酷いものだった。
我が方の歩兵銃は300m離れても(さすがに新兵は無理だが)古参兵になると敵兵のヘルメットに一撃で当てられる。
ところが、鹵獲品の歩兵用と思われる銃は、確かに銃本体の構造が簡単でホコリや泥、水などに強く、サビサビになっている銃身でも銃弾をジャムることなく発射できる利点は見事と言うしか無い……
が。
銃弾そのものの工作精度が悪すぎる。
我が帝国の銃弾製造時の許容誤差は最大でも0.01mm以下で抑えねば実用上に問題が出ると言われているのに敵の銃弾の工作精度は……
0.1mm位だったら良かった。
何と!
1mmの上下幅が有るものまで出た。
これでは、狙撃銃など作っても無駄になるだろう。
しかし、この敵の銃には見るべきところが多い。
本国へ帰ったら、さっそく軍工廠へ意見書を書いてやるとしよう。
現場の意見を汲み取ることにかけては、軍工廠の方々の誠実さと早さは特筆すべきものがあるからな。
一ヶ月後……
ついにロールシア共和国が白旗を掲げた。
まあ、まだ国土は半分以上残っているのだが、我々とは逆に東の海上から猛烈に攻め立てていた東方の小国にして精強な海軍主力国家「陽昇国」が、ロールシア共和国の背後にあるはずだった永久凍土の未踏地帯を奪い、次々と領土を増やしていった事も関係しているのだが。
もうあと数日で、降伏文書への正式調印と終戦に関する様々な交渉が開始されるだろう。
まあ、その席には、ロールシア連邦諸国の敗戦国連合と勝者である帝国、及び陽昇国の外交官が出席するのだが。
我が帝国のみで勝てるとは思ったが、背後からの援護射撃は互いに助かるため、これは我が心中にのみ秘めておこう。
しかし、さっき軍港へ行って陽昇国の空母(?)とか射撃統制専門艦(?)と言われるものと、これは私も初めて目にしたが、魔導力を使わず(使えない兵でも)空中に浮いて戦艦や巡洋艦の一斉射撃を弾着観測できる「へりこぷた(?)」なる浮遊機械を見学させてもらった。
陽昇国の魔動力の使い方は独特なものらしく、航空兵として魔動力に優れた者たちを空へ配置するという事は無いようだ。
海軍国家らしく、敵艦隊の事前探知や弾着観測に向けて魔導力兵を養成しているようで、養成所の訓練内容も帝国とは違うようだ。
ただし、ごくごく一部ではあるが、特殊な魔導力兵団が存在するのも確実なようで。
魔導力が強く出る若年層に限られるらしいが、魔導力を蓄積・増幅する機能を持った特殊な強化外骨格と言われる鎧を纏った戦闘集団(美女や美男で構成されているとのこと……戦争中に、なんという文化!)もあれば、
まだまだ、あくまで試験中ではあるが帝国のような空軍に匹敵する魔導力集団も養成・訓練中らしい。
空の方は帝国が魔導力のみに依存しているのに対し、陽昇国の方は機械的なアシストもつけるらしいとのこと。
どんなものになるか、まだまだ様々なタイプを試験中らしいが、その中には時速500Kmを超えるものも有るとのこと……
もしかして、潜在的なライヴァルになるのは陽昇国かも知れないと感じたのは言うまでもない(あ、こちらは美男や美女ばかりとは言い難いらしいぞ……空高く舞い上がったら、美女だろうが醜女だろうが関係ないからか?)
敗戦国にしては頑強に粘る元ロールシア外交官や政治家達により、我が方も陽昇国も若干、恩恵を削られたが、まあまあ、領土や飛び地、優先的な貿易、人跡未踏地への優先的探査権と、その発見される鉱物や資源の優先権を得ることができて、まあ一安心。
ちなみに、まだ戦争そのものは終了していない。
今まで積極的には手出しをしてこなかったアーメリゴ合州国が、さすがに日和ってる場合じゃないと重い腰を上げたのだ。
それまでは、弱小国家への武器輸出で儲けるチャンスとして見ていた大戦争が、これ以上は自分の足元へも火の粉が飛んでくる、どころか、自分たちが戦争の当事者になると思い知ったようで。
まずは、我が帝国ではなく小国である陽昇国へ宣戦布告したと聞いた。
その話を、たまたまバルで出会った陽昇国の海軍士官にしたら鼻で笑って、こう言った。
「我が国の奥の手は、まだ見せておりません。大国と言えど、やすやすと負けるつもりはありませんよ。大蛇を倒すのは実は小さいネズミかも知れませんな」
大ボラというわけでも無さそうだなと、私は感じた……
陽昇国、我が帝国皇帝のように何かとてつもない力を隠しているようだ。




