修羅の星 3
私、いや、言い方を変えよう……
余が帝国の全てを手にしたのが、今から5年前……
いやはや、先帝の政治方針は滅茶苦茶だった。
肉親を批判したくはないが、それにしても。
あっちへ宣戦布告し、こっちへちょっかい出し、さらに遠くの国へ陰謀を巡らすという、いやはやなんとも、な父様であった先帝。
せっかく帝国国民が頑張って領土を分捕ってきても、それをうまく活用できない脳筋皇帝で、新しく帝国領土となった地域の人民には過酷な税と人頭割の強制労働を申し付ける始末……
これでは従順な羊も反逆するだろう。
余が幼児の時には、もう周りの者たち(乳母、執事、料理長含めメイドたちまで)は全て余の手駒と化していた。
まあ、1歳にもならずに喋れる、どころか演説に近い台詞まで言える乳児が何処の世界にいると?
おまけに父親の血筋か(母親は帝国の辺鄙な地方官僚の娘だったらしい。けっこう苦労してきたので父親との唐突な見合い結婚にも我慢して、なんとか夫婦生活と皇族生活を両立させているようだ)カリスマが凄い。
父親たる先帝もそうだが、官僚や軍部、諸国の大使クラスですら魅了されるほどのカリスマ力を持つ家系のようで、余も子供の頃から、このカリスマを利用して貴族の子弟たちを学生の頃から管理・監督する立場に就いてきた。
寄宿学校で5歳から15歳まで過ごし、それからは全寮制大学(貴族や軍部の尉官以上、または財閥の子弟のみというブルジョワジーな学校だが中身は超のつくスパルタ!専門課程は、ここを卒業したら、そのまま社会へ出ても通用するという実践主義)に。
余は国際法や戦時法、国家間の揉め事を解決する様々な方法やら実例を叩き込まれ(あの教師には感謝しつつ、いつか復讐してやるとも。宿題の提出が遅れたからと銃口を向けられた時には本当に命の危機を確信した)飛び級で卒業したのが18歳……
教師・教授らが驚愕していたが前世の記憶を持つ余には復習でしかなかった。
さて、それから懐かしき帝国宮廷へと戻り、暗躍に暗躍を重ねて先帝の信頼を全てこちらへと移し、仕方がないとは言え取り巻き(補佐官とはよく言うが、己の欲にまみれた、皇帝という大魚のおこぼれを狙う小魚たちだ)の関心を先帝から引き剥がし、2年間の雌伏をもって余は先帝に譲位を迫った。
「父上、あなたのやり方では周囲の国に恨みを募らせるばかりです。力で抑えるだけでは人民は反発するだけ、何故にそれがお分かりになりませんか」
「息子よ、そなたの言いたい事は理解できる。しかしな……そんな事をやっていたら、この帝国そのものが潰れてしまうのだ。儂は、まず全てを叩き潰してから下々の者たちを救おうとしているのだ。お前のような同情など帝国の瓦解につながるものだと、何故に理解せんのか?」
「いえ、帝国が瓦解することなどありませぬ。私は慈悲の手を差し伸べて、我が領土となりし土地に住む新しき帝国臣民の信頼を勝ち取ってみせましょうとも」
「ふっ……甘い甘い。しかし、今はそなたの方が強い。私は潔く隠居するとしよう。親子のつながりは強いぞ、お前が困った時には、いつでも父を頼るが良い。しかし、先帝を頼るなよ……皇帝は迷ってはならぬ!」
こうして(こんなに、すんなり行ったわけじゃない。すったもんだはあったが概ね順調に譲位はなった)余の時代となったが……
どうして臣民は理解してくれないのだろうか?
苛烈な先帝の時代では考えられぬほどに税も下げ、領土となった土地の新しき臣民にも変わらぬ税率と衣食住を保証している。
軍の一部では、余のことを「菜食帝」と陰口言って、先帝の二つ名「赤獅子帝」に比べて情けがありすぎると言っているらしいが……
困ったものだ。
ちなみに取り巻きはやかましいが、余は取り巻きに関心は払わない。信用するのは子飼いの親衛隊指揮官だけだ。
今日も今日とて彼はロールシア連邦からもぎとった新しき土地と臣民たちの動向を伝えてきた。
まだまだ帝国も余も信頼されてはいないようで。
ただ、西部戦線や東部戦線、南部未開拓地での領土開拓や増加臣民たちは、ようやく帝国と余へ信頼の心を少しは持ってくれたようで。
昨年まで多数いたコミュニストや無政府主義者、臣民に隠れた叛徒どもの数は順調に減っているようだ。
さて、余の治世方針は間違っていなかったようなので、もう少ししたら新しい治世方針で行くことにしよう……
なにしろ、大学で学んだ事、そして、宮廷の奥深くに有る禁書図書館で得た知識は、余の常識すら変えかねないものだったからな。
これを実践していけば、きっとこの世界は変わっていけるだろう……今の争いしかない世界から、相互の信頼と援助の世界へ。




