楠見、管理者のアルバイトをする。
こういうのが、ときたま閃きます。
どっかにありそうなストーリーだけど(笑)
ここ、何処だ?
少し前には、確かガルガンチュアのコントロールルームでフロンティアやプロフェッサー、エッタ達と一緒にいて、これからの進路と行動方針をどうするか、話し合ってたんだっけ……
うーん……直前の記憶が曖昧だな……
あ、ちょっと待てよ。
こういうシチュエーション、前にもあったよな……
時空を飛ばされて、戦国時代から近代までリアルシミュレーションやらされたな、確か……
ってぇ事は、だ。
「宇宙の管理者!また何か俺に用ですか?今度は何をさせようとしてるんです?」
《《おお、突然の環境変化にも慣れてきたようじゃの。今回は他でもない、お主に頼みがあってな。我々、管理者のような精神体では、ちょいと困難な作業を手伝って欲しいんじゃ。礼はするぞ、これより先の通行許可という形になるが》》
「はぁ、そういうことなら俺に連絡をくれれば良かったのに。宇宙の管理者ってのは何事も急に実行して、巻き込まれる者の迷惑とか考えないんですか?!まあ、お困りのようですから手伝うのはやぶさかではないですが」
《《快く引き受けてもらって良かった。で、さっそくじゃ、手伝いの内容というのがじゃの……》》
こんなやりとりがあって、俺は今、薄暗い空間(部屋じゃないのは、果てしない宇宙のような広さで分かる。でも、ここには呼吸できる空気も有るんだよ)で、一つの球体をいじっている。
管理者の言うことにゃ、
《《なーに、簡単なことじゃ。この球体に、お主の思念を注いで欲しいんじゃよ。それも、地球を理想として構築するような概念をな。この球体に変化が生じる時、それが仕事の終わりってことじゃよ》》
するってーと何ですかい?球体に何も変化がなきゃ、いつまでも俺は、ここから出られないと?
なんて反論したら、
《《安心して良い、お主の宇宙船とクルーたちに時間経過は起こらんよ。お主を一瞬の時間の中から取り出して、別時空の中へ入れておる。ここで数百年が過ぎても、ガルガンチュアと他のクルーたちに、お主がいないと気付くほどの時間経過は起こらんよ》》
それはそれは……長いアルバイトになりそうだな、こりゃ……
で、こんなやりとりから数ヶ月後(時間経過を計るものなどあるわけないから実感での話)……
思念を注いだからなんだろうか、急に発熱してきた。
抱えてるのも熱いから、ちょうど近くに置いてあった地球儀用の台(というのかな?丸い枠に、すっぽりと球体が収まる)にはめる。見た目、太陽系は水星の模型みたいだな。
真っ赤に加熱してて、薄っすらとだが大気のようなものが形成されているのが見える。
これが変化?
とか思ったが、管理者の期待する変化だったら声がけしてくるだろうと思うんで、こいつは違うんだろう。
それから、また数週間後。
真っ赤なのは変わりないんだが、そいつに分断線が生じてきた。
惑星のプレート移動の実験でもやってるような感じで、するりと線が入り、そこから大きな塊が分かれていく。
こりゃ面白い。
普通に思念を注ぎ続けるだけだった対象に明らかな変化が生じたことで、俺にもやる気が出てきた。
大まかでは有るが大陸が出来たことで、一気に惑星らしくなってきた。
しかし、こいつにゃ大いなる欠点と言うか、欠陥が有る。
それは、海がないこと。
海どころか、水分らしきものが存在しないようで、いまだに球体は赤い発熱体。
陸が生じても、それが海によって分離できなきゃ、単なる星の活動に過ぎない。
水分が、どうやって生じるのか?
トンデモ理論じゃ、水球惑星みたいなものが宇宙を放浪してて、そいつが星系から星系へ渡ることにより水が分離されていくってのが有るらしいが……
いくらなんでも、そんなトンデモ理論を信じるほどに俺は中二病じゃない。
それじゃ、どうするか?
この球体を惑星と仮定すると、近傍空間に小惑星が存在するはず(真っ赤になっているということは、星が出来る初期の頃だから、星間ガスも濃いかも知れない)
思念を注ぎ、周辺の小惑星や星間ガスを取り込むように命ずる。
果たして数日後……真っ赤だった球体の表面が薄い赤になってきた。
ところによっては、薄青色になっている。よしよし、かわいいやつ(俺は、この球体を育てるのに夢中になっていた)
少し時間はかかったが、数ヶ月後。
球体は青色が中心となり、ところどころ土色が見えるような、立派な水球となっていた。
さて、これからが生命体の発生か?などとワクワクしながら球体を見ていると……
《《そこまでじゃ、それ以上は星の発達に歪みが生じる恐れが出る。よくやってくれた、地球人クスミよ。お主のやりかたをコピーして、これからは生命体のゆりかごとなる惑星の出現比率が飛躍的に増えることだろうて。未来の生命体を代表して、礼を言うぞ。これほどの思念を注ぐことは精神体には辛いのじゃ、さすが現実の肉体を持つ生命体の中でも有数のサイキッカーじゃの。これからも、ちょくちょく助けを乞うかも知れんが、よろしく頼むぞい》》
次の瞬間、俺はガルガンチュアの中に戻っていた。
俺が消えていた数ヶ月間は何もなかったかのように、目的地と方針の討議は続いていた。
俺は苦笑しながらも、その輪の中へ入っていくのだった……




