とある星の大学生の話 その10 (これでお終い)
前回で最終話でないのに気づいた人が、どれだけいるのやら?(笑)
こっちが正真正銘の最終話。
お次は、また少し間が空きます。
あたし、ノービ ノヴィータ。
自称、誰も傷つけない宇宙海賊。
我が愛する宇宙船は、この銀河の何処へでも行ける超高性能な跳躍航法エンジンを積んだ「大宇宙の救い手」号だ。
この船で、あたしは銀河狭しと駆け巡る!
「とは言え……あたしの目標、ガルガンチュアには届かないどころか、もうこの銀河にはいないしなぁ、ガルガンチュアと、クスミさん……」
そんなあたしの呟きを聞いていたかどうか。
「姉御!天上の人たちの事を思ったって、無駄ですって!俺達にゃ、俺達なりの生き方、正義、寿命ってものがありまさぁ!銀河どころか銀河団、その上の超銀河団を渡れるような存在は、憧れるだけ無駄ってもんですぜ!神に恋したって、返ってくるのはアガペーでしかありません。エロースの愛は同次元の存在同士じゃないと成立しませんぜ!」
この船の副長だ。
こいつ、最古参グループなんだが、大学と大学院でやたらめったらと恋愛文学とやらにのめりこみ、その卒業論文が論文の形をとった長編ロマンス小説だったという、頭が良い方向が間違っている奴。ちなみに卒業論文は優秀とみなされ、文学博士の称号をもらってる、らしい(らしいというのは、あまりに恥ずかしい過去のため、とある大金庫の奥深くに卒業証書と博士号授与証書を放り込んだままだそうだから)
「うるさいな、副長。人が久々に遠い目してるんだ、見てみぬふりするってのも大人の気遣いだろうが」
「これが暇な時でしたら私もそうします。しかしねぇ、目の前に大艦隊同士が衝突してる宇宙戦が見えてるんですぜ!船長の指示がなきゃ、この船は直前までの行動を繰り返すだけなんですから、早く指示して下さい!」
「わぁかった、分かったよ、もう。クスミ2号!目前の大戦闘に介入するぞ。最大強度で最大規模のバリアシステム展開!例によって、こちらの武器は副砲までしか使わぬように。副砲も、相手が巡洋艦クラスまでは使用禁止だ。レーザー砲とニードルビーム、それとスタンナーは自由に使ってよろしい」
ちなみにクスミ2号ってのは、宇宙船の頭脳体。
おじいちゃん、相当にこだわって、ガルガンチュアを作りたかったみたいね(遥かに小さい船体でしかないけど、システム的には同じようなもんだって言ってた(性能的には、おもちゃと最新の探査船以上の差が有るんですけど、ね))
「アイアイサー!宇宙の救い手、行動開始します」
「副長、聞いたか?戦闘を止めさせるついでに、両方の勢力へ介入して、物資と現金の補充だ!」
数時間後、空母や戦艦までもが動かぬデブリと化した宇宙空間で、あっちやこっちへ、物資補充と人命救助に明け暮れる、唯一つ動ける宇宙船があったそうな……
「いやー、船長!今回も、船長の鼻が効くおかげで、長年いがみあってた両勢力の代表が、ようやく和解したとのこと。あいも変わらず、争いの場にはグッドタイミングで駆けつけますなぁ、コツを教えてほしいもんですよ」
副長の言ってることは本心だろう。
あたしにゃ、余人にない特殊な才能が有る。
それは……膨大な宇宙空間を隔てていても、明確な悪意に反応するって才能。
こいつが稀な才能だと判明したのは、我が星系に跳躍航法が許されてから、しばらくのこと。
「ノヴィータ、お前の才能は、この星や星系だけじゃ使いみちがないのかも知れないな。どうだ?我社の最新鋭探査宇宙船で、星を駆け巡る生活ってのも良いかも知れないぞ。お前の、大きな悪意に反応するって才能は、銀河という広さで発揮されるかもな」
おじいちゃん(それから100年以上、生きてた)から、せめてもの餞別ってことで最新鋭の宇宙船をもらい、あっちこっちで乗員を集めて、今じゃ総員100名を超す、その名も……
「銀河のハイエナ、って二つ名が浸透してますな」
「うるさい!銀河の救い手って二つ名が欲しかったのに、なぜにハイエナになるんだぁ?!」
「そりゃ、船長が介入するのが、決まって大戦闘してる時だからですよ。力づくで戦いを止めるのは良いけれど、そいつが来たらケツの毛までむしられて、素っ裸で宇宙に放り出される……どこで誰が言い出したのやら……」
「そ、そこまでやってないでしょうが!宇宙デブリと化した船から、持っててもどうしようもない金銭や余剰物資を貰ってるだけじゃないの。ちなみに、相手も承認済みよ、承認済み!」
「まあ、メインエンジンも撃ち抜かれ、空気の循環システムすら止まってる宇宙戦艦にとどまりたいやつはいないでしょうね。その救助の代償が余剰物資と手持ちの現金全てってのも……まあ適当な代金かと」
「だろ?不正なことはやってない!ハイエナと言うやつとは、いっぺん顔つき合わせて話し合う必要が有るみたいだな……」
「顔つき合わせるだけじゃなくて、その間にレーザーガンが入ったりするんでしょ、姉御、いや失礼!船長」
まあ、こんな形だけど、この銀河は少しづつ平和になってるわ。
クスミさん、あなたの理想と理念、いつか実現しますよ、私の子孫たちが!
と、結論づけようとして、クスミ2号が多方面へ連絡してることに気付く。
やめろ!と言おうとしたが、すでに遅く……
「もう、仕方がないなぁ、ノヴィータちゃんは。またまた僕の尻拭いが必要になるじゃないかぁ……」
おじいちゃん!もうこの世にいない人なのに、なんて隠し機能をつけてくれたの!
主人の失敗やマイナスをカバーするサポート機能なんて、要らないってばぁ!
「もう!おじいちゃんと、クスミさんのぉ……ばかぁぁ!!」




