とある星の大学生の話 その7
一種の親子喧嘩でしょうかね、この回。
子供が生まれてから、何故か元オーサキくん(現、ノービ ユースケくん)の興味は社会インフラに移ったようで。
数年前から、惑星だけではなく星系含めた宇宙空間までカバーする規模の高精細位置表示システムの構築に投資と技術供与をしたり(全く新しい理論の光波エンジンと、その膨大なる出力を自由自在に制御できるコントロールシステムまで提供する勢いだ。あっと言う間に超小型の高精度位置基準発振器を備え付けた超小型衛星が星系内にバラ撒かれたのは言うまでもない)、そのついでとばかり、近距離に限るが実用的な転送システムまで開発してしまう。
ただし、転送システムについてはガルガンチュアにいる楠見から制限が入り、長距離転送は禁止となった。惑星間転送は不可能とするレベルのものしか開発する許可が下りなかった(ちなみに、この星は未だに惑星単位で統一国家になっていないから、というのがその理由。制限が外れる条件は、惑星統一国家ができること)
他にも様々な社会インフラを供給、改革し、ノービ ユースケは会社の代表取締役を辞任する(老齢や病気が原因ではない。彼の体内にて未だ活発に働くナノマシン群は、彼に老いも病も怪我も許さなかった)……最後に、息子に会社の全権を譲ろうとする前に、彼は息子に、とある機械にかかるようにと指示する。
息子が、その教育機械に接続されている間、ノービ ユースケは郷とプロフェッサーに向けて語りだす。
「長い間、補佐していただき、ありがとうございました。できれば、次の社長、息子のノーブにも適切なアドバイスをいただければと願いますが。まあ、一気に走り抜けた数十年、ここらで一休みしたいですよ」
「ご苦労さま、オーサキ、いや違った、ノービ ユースケくん。とてつもない社会改革と技術改革、そして科学の進歩というやつを体験させてもらったよ。息子さんの代に俺達が居ても良いのかい?邪魔になるんじゃないかな?」
「ノービ ユースケくん、君の歩んだ半生は、まさに激動でしたね。天才ならではという開発力と行動力、そして奥様との絶妙な金銭感覚で立ち上げたインターステラーシステムレスキュー組織……この星どころか星系まで含んだ宇宙空間をカバーした救助体系を可能とする星系規模の高精度位置表示システムが計画された時には、私も何をやっているのか分かりませんでしたが。我が主と同じ超天才ならではの多重思考が可能とするものですね、見事です。ちなみに、郷と同じく、私もご子息へのアドバイスは、やぶさかではありませんが?」
この対話後、教育機械から出てきた息子に対して、会社の業務譲渡書類を渡すユースケくん。
息子は最初、何が起こったのか理解不能だったようだが……
「親父!あんたに追いつき追い越せと、今まで俺は精一杯頑張ってきた。しかしなぁ……正直、あんたの背中すら見えないくらい、俺はバカで愚かだったよ。まあ、この特別な教育機械にかかった後でも、まだ基本的に追いつかない感覚は抜けないよ。多分、あんたと俺は人間の形は似ていても中身が全く違ってるんじゃないか?現に、あんた、今の見た目は俺より若いよな。お袋は見た目通りの年齢だから、多分、あんたは人間として俺達よりも数段、上なんじゃないのか?業務を受けるか受けないか、あんたの答えで判断するよ」
あまりに父親が優秀すぎ、また、人種としてレベルが上なのを見せつけられすぎて、息子のノーブくんは少々ひねくれて育ってしまった(まあ、悪に染まるような事は無かったようで、そのへんは救いがあったが)
息子への回答として、郷とプロフェッサーへ目線で了解を求めて……両者のOKサインを確認したユースケくん。
「薄々は分かってたようだな……では、全て話そう……あれは大学生の時、連休で趣味の無線通信実験を行うため、近くの高山へ行った……」
ユースケくんは、息子へ真実を語っていく。
ノーブくん、最初は半信半疑だったが、夢物語にしては迫真的過ぎる事に気づき、そして、その話に出てくるゴウ、プロフェッサーという2人の人物が父親の隣に実在していることに気づき、ようやく全てのことが真実であると確信する。
「そ、それじゃ何か?小さい頃から見てきたゴウおじさんとプロフェッサーさん、この二人も実は、この星の人間じゃないと?!あんたの言うことが真実なら、あんたが山で滑落して遭難したことが全ての事の発端ってことかい。この星系の外に、惑星規模よりデカイ宇宙船がいるってのも本当なんだろうな……俺の常識ってやつが今、音を立てて崩れていくのが見えそうだよ」
「そうだ、全て本当だよ、ノーブ。私の遺伝子が受け継がれているおかげで、お前にも超天才になる可能性が有るとこの二人から言われてな。少し強引だったが、あらゆる方面への教育をお前に施した。あいにく、ガルガンチュアじゃないので、教育機械は私の設計したものしか使えず、お前の脳開発まではプログラム出来なかったが……私を恨むか?ノーブ」
「いや、昔は恨んだことも有るが、今はあんたの考えてることが理解できる……俺にとっちゃ理想的な教育環境だったと感謝してるよ。ところで、会社の譲渡なんだが、本当に俺で良いのか?!寿命を考えたら、親父がずっと経営に携わることが一番良いだろうが。多分、俺や俺の子どもたちより長生きするだろ?」
「寿命の問題を考えると、その通りだな……多分、私は数百年の寿命を持つ。お母さんと死別しても、それから数百年は生きることとなるだろう。なあ、息子よ、私は一種の怪物だ。あまりに普通と違いすぎる者は、社会的に目立つべきじゃないよ。仕事でもプライベートでも迷ったら相談してくれれば良いが、私が第一線で働くことは辞めた」
「そうか……考えてみりゃ、ひ孫より若く見える爺ちゃんってのは洒落にならないよな。分かった、会社は引き継ぐ。何かあったら便利に使わせてもらうから、覚悟しとけよ、親父さん」
「ははは、なるべくなら老人は敬えよ、息子よ」
「へいへい、見た目20代のご老人は、敬いたくも無いんですけどね……まかしとけって」
とりあえず、親子のわだかまりは溶けた。
それから、会社名オーサキラボは、更なる発展を遂げることとなる……




