とある星の大学生の話 その5
教育機械が、本格的に大学生オーサキくんの脳領域開発に乗り出してから数週間……
「郷、プロフェッサー、お疲れ様。どうだ、オーサキくんの教育計画進捗具合は?」
「わが主、これは久々の掘り出し物かと。私自身の判断としては、教育終了後に、こんな低レベルの未開惑星に彼を戻すのは大反対と言う他ありません。知識欲の塊で、我が主よりも、その点では上回るものがあります」
プロフェッサーはオーサキくんの教育に並々ならぬ関心を抱いているようで。
「俺も、それに賛成です。今現在の段階でも、オーサキくんの脳領域は3割ほどが開発済みです。凄いですよ、彼の超天才ぶりは。今の段階でも、宇宙学に化学、地質学に歴史、工学系だけじゃなく文系、果ては冶金やデザイン方面にまで及んでいます。これ、以前の師匠並みの90%近くまで行く予定ですが、そこまで行ったら知識と知恵の怪物が誕生しそうな予感がするんですけどね」
郷は、少し不安げな様子。
全方位が得意分野という万能天才を、この低レベルの科学技術しか持たない星に戻した場合、どんなことが巻き起こるか予測がつかないと言い、
「だから、俺もオーサキくんを生まれ故郷の星に戻すのは反対します」
楠見は、2人の意見は参考にすると言いながらも、基本的には彼、オーサキくんを星に戻す予定のようだ。
「俺はね、一度見てみたいんだよ。たった一人の天才が、一代で世界をひっくり返すような発見や発明を成し遂げるってのを」
そういった楠見の目は、幼い子供のようにキラキラしている。
「あ、また厄介な性格が……我が主、これが無ければ第一級の人物としてトップに立てるのに……」
「え?プロフェッサーさん、師匠の厄介な性格とは?」
郷は意外な顔をする。
「あ?郷、あなたには我が主の複雑な性格を教えてなかったですね。超天才につきものの、一種の弊害とも言えますが、多重人格のことです。我が主は、代表人格として通常に出る人格の他に、熱血型、冷静なエンジニア型、女性人格、太陽系宇宙軍の上級士官と、表に出やすい性格が4名分、控えてます。あと、滅多に表には出ませんが、主人格にときおり憑依するかのごとく、事態を引っ掻き回すことを喜ぶトリックスターのような人格が登場することがあります……郷、あなたの推察のごとく、あなたやマリーさんを地獄の特訓に追い込んだのも、この特殊人格ですよ。我が主の、この特殊人格が登場すると……まあ、ほとんどが良い方に転ぶんで何もしないほうが良いのですが……傍で見ている方はハラハラしますね」
郷は、複雑な思いで、プロフェッサーの話を聞いていた。
郷の内心を、台詞にしてみよう。
「全く、超天才ってのはみーんな、こんな厄介な多重人格してるんかい?!師匠の気まぐれに近い隠れ人格のせいで、俺やマリーさんが地獄を見たってのは……まあ、後のことを考えれば良かったんだろうが。それにしても、酷い話だ……もしかして、宇宙の管理者たちってのも、こんな感じの奴らなんだろうかな?案外、この超銀河団を管理してるのって、師匠みたいな管理者だったりして……」
郷は、そこまで考えて、身震いする。
「うわー、嫌なこと考えてしまったなぁ……ちょいと、厨房で美味いもの出してもらって気分変えよ!オーサキくんは、トリックスターの犠牲にはさせないぞーっ!」




