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ようこそ大宇宙へ! 超古代の巨大宇宙船で宇宙を征く  作者: 稲葉小僧
超銀河団を征くトラブルバスター
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たまには肉体言語がものをいう その四

ちょっとストーリーが対象年齢下に(笑)


Cの星系の中にある星の一つ。

そこに、体が弱いゆえに、幼い頃からイジメの対象となっていた者が一人……


通常なら陰湿なイジメとか受けそうなものだが、体育会系の雰囲気が濃密すぎるほどに空気と混ざっているような社会の星だったから、そのイジメは直接的なものになっていく。

生まれつきの体力が少ないなら、努力して鍛えれば?

とか言うのは、無責任な第三者の言うこと。


当人にとっちゃ生きるか死ぬかの選択すらしかねない状況だった……ある一点までは。

それは、とある何でも無い日常の一幕。


「もう、やめてよー、お願いだからー。僕に、これは無理なんだってばー」


当人は割と必死で懇願してるようだ。

しかし、いじめっ子たちが課そうとしてるのは彼らが普通にしてる遊びの一環……高さが2mのバーを高跳びで越えろということ。

通常の子供なら十歳でも軽々と飛び越えるだろう高さ(あくまで、体力が第一の社会だからだ。地球上では普通じゃない)だが、その子には遥かな高みに有る棒としか思えない。

何回もチャレンジするが、その度に自分の体力、体術のレベルの低さを思い知らされる。

数十回チャレンジして、その子は地面に倒れ込む。


「おい、どうした。もっと足を上げないと跳べないぞ。まあ、その前に走るのが遅すぎるんで、そこから頑張らなきゃいけないがな」


キャハハハ、と無神経な笑顔が溢れる。

子供は残酷だ……常識とかマナーとかを覚える前段階では容赦のない言葉の暴力(と共に、殴る蹴るの行為も当然として)を対象となる相手に投げつける。

ここで反撃してくるようなら自分と同じレベルだと受け入れてしまうのだが、弱い個体には、より一層の暴力を加えることとなる。

今日も今日とて一人の子供が日常のイジメを受けて泣きながら、疲れ果てた体を起こそうとしている。

体力も尽き果てて、体を起こすにも苦労しているのに苛ついたのか、いじめっ子たちの数人は、


「おら、早く起きろよ。何やってんだ、休んでるんじゃないぞ、お前がしっかりしないと俺達のクラスが馬鹿にされるんだ」


と言いながら倒れている子に蹴りを入れる。ただでさえ疲れ果てて体力も尽きているのに暴力まで受けて、その子はとうとう、気を失ってしまう。


「おい、どうした?早く起きろ、起きろってんだ!……あれ?こいつ、気を失ってるぞ……俺、しーらない!お前がやりすぎたからだぞー、しーらない!しーらない!」


数人がかりでイジメていた子供らは、ささっと逃げていく。介抱するとか、助けるとかいう意識はまったくないのが子供の無慈悲さだ。

数分後、近くを通りかかった人物に、この子は発見されることとなる……この時が、この子の人生を救う瞬間だったと言えよう。


「おい、しっかりしろ……生きてはいるようだが起き上がれないほどに疲れているようだな……仕方がない、とりあえず道場に連れて行くとするか。目を覚ませば自宅に連絡する事もできるだろう」


気を失っている子供を背負い、中肉中背の男は軽々と歩いていく。

一歩々々は速くないように見えるが全体的にみると走っているような、いわゆる武道家の動きが顕著に見える。

男が入っていったのは、最近話題の道場。


男は、おかえりなさい!と声をかける門弟たちの声に返答しながら、


「ちょっと、男の子が気を失ってたから拾ってきた。寝床をとってくれ。しばらく寝てれば気がつくだろう。そしたら親御さんへ連絡とってくれ」


と指示をあたえて、子供をおぶって奥へ行く。

寝床へ子供を寝かせて、男は道場へ……その前に道着に着替えてはいるが。


「師匠、あんな子供、うちの道場じゃ基本練習もできないでしょうに。あまりに要求が高すぎて、家の道場に入門するには何かの流派で黒帯持ってるのが最低限だって規則が有るでしょう」


「うーん、それはそうなんだがな……ちょいと試してみたいことが有るんだよ。こいつが成功すれば、家の流派の入門レベルが、かなり低くなると思うんだ。それと……かなり面白い付録がつくかも、だよ?」


師範代と男との会話は、そこで終了する。

二人揃って道場へ出ると、ただでさえ熱気がこもっていた道場内に、あらたに緊張の糸が張り詰める。


「師匠、師範代!今日の指導、よろしくおねがいします!」


入門者の初心者クラスを指導していた中級クラスの門弟が、声をかける。

二人の男たちは割と広めの道場を見回り、稽古のやり方を修正したり、動きの硬い初心者へアドバイスしていたりする。


1時間ほど指導が続き、休憩となる。

そこからは、師匠と呼ばれる男と師範代と呼ばれる男の組手がはじまる。


「目がついていけるまで、おふた方の動きを追えよ!見ものだからな……どこまで追えるか、それが自分のレベルだと思え」


声をかけたのは、約3年前に入門してきた天才児。

しかし、この組手を最後まで追える能力までには届いていない。


ゆっくりと、技の応酬が始まった……突き、蹴り、手刀が、スローモーションのようなレベルでやりとりされる。

だんだんと、その動きが速められていくが、まだまだ目が追える。

動きに音が入るようになっていく……ブン!ビュッ!ゴッ!シュッ!


一つ一つの音が、いつしかまとめられた音に聞こえてくるようになり、ビュシュ!ゴワシャ!と。

そして、数十分後……

疲れも見せずに技の出し合いとさばき合いを繰り返しているだろう二人は、手足の動きが常人の目では追えないレベルにまで達していた。

発せられる音も、人間の出せる音のレベルでは無くなってきている……キン!とか、シュン!とか……


一時間も経っただろうか。

軽く汗をかいた程度で組手が終了したが、それを見ていた周りの者には、とてつもない濃い時間となっていたようで、あちこちで止めていた息を吐く音が発せられる。


「今日も遥かなる高み、拝見させていただきまして、ありがとうございました!」


例の天才児も、声もなく眺めていた一人であった……少なくとも、最終10分間は全く見えていなかった。そして、終わった後で、組手を行っていた二人の倍以上の汗をかいていた事に気付くのだった。


「門弟のみんなも、練習を続けていけば、この高みに届くからね。精進、忘れるべからず、だ」


最後にひと声かけて、師範代に後は任せたとでも言わんばかりに男は席を立ち、寝ている少年のもとへ向かう。


「気がついたか?」


何で、こんなとこに寝てるんだろ?の表情を見て取った男は、ここへ連れてきた経緯を語る。


「ご迷惑、おかけしました。もう大丈夫です。家に帰ります……あ、痛たたた……」


立ち上がろうとした少年だったが、通常の疲労から大きくかけ離れた負荷を負った筋肉や神経は、内出血を起こすくらいにダメージを負っていた。

全身に力が入らず、手足も痛みで満足に動かせない少年に、男は優しく声をかける。


「そのまま、そのまま。連絡先を教えてくれれば、こちらから君の家に連絡してあげよう。親御さんが迎えに来たら、少しお話したい事も有るんでね」


この瞬間、少年の未来が決定的に変わった……


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