たまには肉体言語がものをいう その三
今回、短いですが。
Aの星を中心とした星系は、じわじわとだったが、投げ技中心の格闘技文化が育っていった。
Bの星を中心とした星系は、Aよりも遅くはあったが回避と一撃の格闘技文化が中心となっていった。
問題は、Cの星を中心とした星系。
こちらの要求する最低基準の入門レベルが、あきらかにAやBより高すぎるのだ。
確かにAもBも、ほとんど一般人の運動能力や、趣味で格闘技やるなどというレベルの入門者が合格できるレベルではないが、それでも数十人に一人くらいなら、まだ入門できる基準だった(これは、この銀河に格闘技の文化があったからこその、高度な肉体能力を持つ一般人というべきだ。銀河系のレベルで言うと、通常の素人やアマチュア格闘家など歯牙にもかけないレベルの一般人ばかりなのが、この銀河の特徴である)
しかしながら、Cの入門者に要求されるのは、最低でも、一対一の状況で素手で野生のヒグマ(そっくりのヒーグマと呼ばれる猛獣。通常は銃器を持った十名ほどの人数で狩る)を倒すくらいの実力だ。
これが最低なら、有段者って?
まあ、歩く兵器(実力を、Cの流派では武器程度で示す。入門者は、なまくら包丁。級を取るにつれて上がっていき、一級が刀剣。有段者で小銃。師範代ともなれば、戦車と言われる。道場主は?もはや戦略級の破壊兵器と門弟たちからは呼ばれるが、道場主そのものは何の名称も名乗っていない)
上のような理由で、Cが星系に流派として育っていくのは至難の業だった。
いきおい、その上澄みだけを教える「まがいもの流派」も、ここだけ多かった。
ただし、道場主は、まがいものを殲滅しようとする弟子たちを諌め、
「エキスだけでも教えられるなら、それはそれで良いでしょう。本当に才能の有る者は、どこにいても分かるのですから……そういう時には、我が流派へ誘えば良いだけのことです」
ぬるま湯に浸かった状態で満足するものがいるのだとは頭から思っていない道場主に、呆れ返る門弟。
まあしかし、そのおかげで人間を超えるものたちだけのC星が出来上がること無く、格闘文化が様々に花開いていくのだから、何が幸いなのか分からない。
ちなみにA星系では、格闘技の他に「空中を舞う」というスポーツが、なぜか知らないが流行ることとなる。
投げ技主体ということで、門弟の一人が「見た目が派手な、空中へ投げ上げる技のほうが受けるかな?」とか思ったとか思わなかったとか言われるのが最初だったと、噂ではあるが……
二人一組で行う特殊なスポーツというのか……投げ役が、もう一人を空中高く投げ上げて、その空中にいる数秒間に、どれだけの演技ができるか競うって競技にまで発展した。
スピンで十六回転、前転で5回転、スピンと回転の複合技まで行うやつも出現し、格闘技とは違うファン層も獲得していくのだったが……
「どっせーい!」
今日も、武蔵山次郎のダミ声と共に、道場のマット部に叩きつけられて失神する道場生たちの姿が見える。
槍岳落としに、受け身は無いと豪語するだけあって、未だかつて、この技を凌いだものはいない。
「ふん、門下生も、他の流派も、投げ飽きたのぅ。もっともっと、凄い勝負がしたいもんじゃ」
この言葉が現実化するのは、もう少し先のこととなる……




