たまには肉体言語がものをいう その二
配役が揃ってきました。
投げ技主体の格闘技団体が起こった星をAとしよう。
避け技主体、一撃必殺の格闘技の星をB、
防御、回避、攻撃の全てが通常格闘技の次元を超える団体の星をCとしよう。
まずは、Aから。
投げ技主体と言うことで最初は総合格闘技や打撃系格闘技からは馬鹿にされていたが、腕に覚えのあるミドルクラス、あるいは実力者と言われる団体からの腕試し目的(早期に潰せれば、それでよしの意味も含めて)で送り込まれた刺客たちを全て返り討ち&入門者と化してしまい、数カ月後、あらゆる格闘技団体から要注意の印を押される事になる。
ちなみに、メディア受けしそうなので、この新団体が開催する格闘技トーナメント戦は注目となり、思いの外、視聴率が良かったと言う(きれいに投げられる相手を写すカメラだったが、投げる瞬間だけはどうやっても写せないということはあったが、データ加工で何とかなった……リアルな試合は中継できないと分かっただけでも良かったとは、メディアのプロデューサーの言)
数年後、新しい入門者が入ってきた。
古流柔術の関係を修行してきたが不満があるため、ここの門を叩いたのこと。
彼の実力も高かったが、その修行も厳しく、メキメキと力をつけていった。
彼は投げ技に固執するところが有り、道場主の技を覚えたいと心から希望していたが、どうしても奥義としての「見えない(存在しない)角度への投げ」は体得することができなかった……
しかし、彼独自の投げ技「槍岳落とし」という文字通りの必殺技(これも受身不可能)を編み出し、流派四天王の一人として様々な大会で優勝していった……
その名を、
「武蔵山次郎」
という……
次は、避けと一撃のB。
流派としての特徴は「スピード命!」
ともかく、人間業とは思えぬスピードと反射神経、第六感まで使い、相手の攻撃(徒手はもちろん刀剣や棍、暗器は当然のこと、果ては直近から放たれる矢まで含めて)を避ける、避ける。
相手が刀折れ矢は尽き、疲労困憊で立っているのもやっとという状態になったとき、ただ一撃で相手の息の根を止めるというのが理想という武術を目指すのが道場主の教え。
入門者は多数いたが、半月経たぬうちに九割のものが道場を去っていく。
道場での教えは簡単「相手の拳や剣より早く動いて躱し、急所に必殺の一撃を打ち込むだけで、相手は倒れる」
言うは易し、実現するは至難。
ともかく、練習生は道場主の動きを目指して練習に打ち込むのだが、とてもじゃないが到達できるレベルにならない。
例えるなら、地球で言う肉食獣のチータの動きを数倍した早さを想像すると良い。人間の肉体限界を超えるものを数秒間維持するのが、この流派の目指すもの……
入門後一年も経たぬうち、99%の道場生が辞めていくが、一握りは残っていき、そこの少数グループは人間を超える修行に励む。
ここにも数年後、異端児にして天才が現れる。
入門後一年も経たぬうち、人を超える先輩たちに追いつき追い越し、数年後には道場主と一対一で手合わせできるまでになる。
当然、様々な格闘技大会へ参加し、これも秒殺で優勝する。
彼は、その優勝歴を背負って、地球で言う拳闘の世界へも乗り込む。
ひょろりとした痩せ型でありながら、重量別の世界を(最軽量から上がっていき)最重量の世界タイトルまで奪取する。
その星の中では、敵うものがいない彼の名を、
「ハイヤット・ジーゲン」
と言った……
最後は、C。
あまりに高い理想を追い求めるその武術体系のため、ある程度の他流武術を修めたものしか入門を許されず、基本修行からして「地獄の一丁目」と噂される。
ここで有段者と認められるためには、例えば徒手空拳で深山に分け入り一年後に意気揚々と山を降りてくるようなレベルが必要とされるという、まことしやかな噂が飛んだ。
実際、有段者でない練習生が、道場主の許可を得て他の格闘技大会に出場すると、いとも簡単に優勝してしまうので、他の格闘技団体から苦情を山ほどもらうこととなり、この道場生には通常の格闘技大会への出場は禁止とされたほどである。
この狭き門へも、一人の鬼、格闘技の天才が入門することとなる。
道場設立から数年後、ふらりと道場前に現れた青年は、腕試しをしたいと申し入れる。
師範代とやりたいと言う青年に、いくらなんでも死んでしまうから、まずは有段者との試合を、ということで希望者が数人、青年と立ち会うこととなる。
驚いたことに、青年の実力は本物で、有段者が二人ほど敗北した。
師範代が立ち、青年と試合うが、やはり実力的に隔絶。青年は一撃も入れられずに敗北する。
そこで諦めずに青年はそれからも数度、ふらっと訪れては試合を申し込み、その度、師範代に沈められる。
最初の試合から数年経った頃、師範代に突きを入れられ意識を失う寸前、青年は無意識状態で師範代に蹴りを入れることに成功する。
威力としては弱いものだったが、有段者連中が十人がかりでも技を入れられなかった師範代に初めて技を決めたのが青年だった。
道場の隣部屋で意識を取り戻した青年は、道場主より入門を勧められ、正式に入門することとなる。
師範代と互角にやりあえるようになるまで三年もかからず、青年は二人目の師範代として免許皆伝を得ることとなる。
この青年には逸話が有る。
町を歩いていたら、ちょうど刃物を持った無差別殺人傷害犯が人質をとって一軒の家に立て篭もった場面に遭遇。
青年は、警官たちの静止にも耳を貸さず、普通にドアの前に歩いていき、呼び鈴を鳴らす。
あまりに普通に行動する青年に、犯人も思わずドアを開け……
一瞬の後、手足を砕かれた犯人が、ドアの前に転がっていたという。
あまりの手際の良さに、警官隊もあっけにとられる中、青年は静かに歩き去っていった。
有名な道場なので彼の顔を覚えていた野次馬がおり、彼は後に感謝状を受け取るが……その時の一言は、
「普通の人間は、つまらん。あまりに弱い。気をつけないと潰してしまいそうになる」
だったという。
彼の名を、
「リョー・カクザ」
と言った……
これより数年後、一つの星には収まらなくなった三流派が、他の星を巻き込み、大格闘技バトル時代の大きな波を造っていくこととなる……




