たまには肉体言語がものをいう その一
ちょっと趣向を変えてみます。
ガルガンチュアは、奇妙な文明発達段階の銀河へ来た……いや、言葉を変えよう。
地球(太陽系文明)の遥かな過去に来たような既視感を憶えるような文明段階が、それでも銀河の範囲で広がっていた……
「どう思う?プロフェッサー……技術段階は、確実に宇宙文明段階ではあるんだが……なんだぁ?こりゃ……」
「私も混乱してますよ、我が主。まあ、何と言いますか、根性論とか、脳筋とか、こういう思想や個人の感想で言われることなんでしょうけれど、実際に銀河規模で、こういう大昔と言っても良い肉体言語を主としてる文明があったとは。思考機械の身ですが、本当に現実か?とか言いたくなります」
そうだよなぁ……俺も趣味のビブリオファイルで、こういう趣旨のアニメやらドラマ(特撮有り無し)を見てきたものなんだが。
これは、あれだな……もしも、地球での日本エリア(地球には国家という小単位は無くなって久しいので、便宜上、エリアで呼ぶ。中華エリアとか、アジアエリアとか、日本エリアとか、ヨーロッパエリアとか、アメリカ大陸エリアとか……そうだ、俺が地球にいた頃には、南極大陸も開発対象になって久しくて、子供の頃には「南極エリア」なんてのが新語登録されたっけ)が、遥かな過去に世界大戦に負けず、日本国とならなかったら、あるいは、こんな歪とも言い得る文明になってたかも知れないな。
「えーっと……こりゃ、トラブルとかいうレベルのものじゃないが、俺達が過去に見てきた文明とは違いすぎている。そこで、提案なんだが。この銀河、少しばかり面白そうなんだよ。だから、ガルガンチュアは探知不能な巨星近傍へでも隠して、数10年ばかし各自で、この銀河を見て回らないか?ライムとか格闘技が好きだから、良いんじゃないかな?」
「はい、キャプテンの言われる通り、すっごく面白そうだと思います。無名の格闘家として星に降りて、そこの格闘界を制覇するのも面白いかな?」
「ははは、物騒だな。うーん、反対者はいないようだから、しばらくこの銀河へ滞在しようか。各自、自由行動とするが……ガルガンチュア頭脳体の各自は……ふむ、船体のチェックと調整が必要か。では、合体解除の必要な作業も許可するから、この際、徹底的な調整とチェックをしておいてくれ。あ、少しばかりの改造や増設くらいなら大丈夫だから、エネルギー炉の調整も頼むよ」
「ちなみに私は、我が主とともに行動しますよ、念の為」
やっぱり、プロフェッサーはついてくるか……まあ、仕方がないけど。
ってなわけで、奇妙な文明段階の銀河での暮らしがはじまるのだった……
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とある星での会話。
「おい、聞いたか?先月に他の星から来た女格闘家の話」
「ああ、聞いた聞いた。この星に来て一月も経ってないのに、もう女子格闘技の新しい団体を興したんだって?腕に覚えのある女子格闘家だけじゃなく、男も入団してるらしいじゃないか」
「それなんだがな、どうも、新興団体だと舐めてかかった奴らが送り込んだ腕に覚えのある中堅クラスが、そこの団体の総帥に、ことごとくやられてるんだとよ。で、面白いことに、その団体、総合格闘技と銘打ってるんだが投げ技主体らしいんだわ」
「へー、そりゃ珍しい。寝技主体とか、立技からマウント、そしてフルボッコってやつが主流なのに、古い投げ技主体とはね」
「いや、それがな……ここだけの話なんだが、そこの投げ技、躱しも防御も無理なんだってよ。あそこへ入門してる先輩に話を聞いたんだが、先輩も舐めてたらしいんだわ、最初。で、総帥自ら立ち会ってくれたんだが、いつの間にかマットに沈んでたらしい。自分でなにかの技を極められたって記憶はないとさ。今じゃ、その先輩、総帥に心酔してるんだよ」
ほー、へぇ、とか様々な感想が上がるが、まだまだ弱小団体の話。
しかし、数年後には、その星で一大勢力を築き上げているのだった……
違う星での居酒屋での雑談。
「いやー、この前の格闘技最前線、面白かったねー。飛び入りの新人さんが、連続優勝のチャンピオンを下しちゃうってハプニング!」
「あ、あの番組ですけどね。通常は録画で修正入るんですが、あの時だけは生放送でやってたらしいです。スタッフも驚きで、主催してた団体がCMスポンサーだったこともあって、今は番組が続くかどうかって話が上層部で真剣に会議されてるんですって。政治絡みの格闘団体だから、ややこしいらしいですよ」
「でも、あの飛び入り優勝が他局で話題になって、格闘番組立ち上げるって話も聞いてますけど……あれは凄かったですよねー、相手の技を寸前で避ける、避ける!でもって、残り30秒を切ったところで一撃KO!打撃系だけじゃなく、柔術や合気道系の流派も関心持ってるらしいですよ」
ここでも新しい流派と道場の話。
数年後、大道場となって宇宙にその名を轟かすのは言うまでもない。
さて、これもまた、違う星での話。
「おい、聞いたかよ、新しい格闘技団体の話」
「聞いた聞いた、全く新しいコンセプトなんだって?防御、避けと躱し、そして攻撃と、どれもこれも今までの格闘技とはレベルというか次元が違うってやつらしいな。新しい格闘技を求めてたメディアは飛びついたらしいが、実は、メディアには乗らないことが決定したらしいぞ」
「おお、その話は聞いたんだが、何故?凶器隠したり、やらせみたいなシナリオ有りのメディア寄りだってんなら、なおさらメディア向きだろ?」
「俺な、従兄弟にメディア関係のやつがいるんで聞いてみたんだよ……とりあえず、これオフレコな。ここだけの話で、他には漏らすなよ……実は、メディアのカメラが追い切れなかったんだとさ……おい、何だその目は?当人から聞いた話だから間違いないぞ。他の道場生は、しっかりと追えたんだが、師範代と道場主だけは、その技をカメラに捉えきれなかったらしいんだよ、これが……信じられるか?ハイスピードカメラでも無理だったんだとよ。ただ、こんなの普通に嘘だと言われるから、メディアじゃ交渉決裂って流してるらしいがね」
とりあえず、この銀河で3つの格闘技団体が、宇宙から帰ってきた(と、当人たちは言っている)道場主により立ち上がった……
これより、この銀河で巻き起こる格闘技大戦とも言えるバトルが、静かに始まろうとしていた……




