トラブルバスター、勝つ
緒戦は、お約束。
ガルガンチュアは星系最遠部から全く動かない。宣言通り48時間、全く攻撃は無かった……
しかし、
「艦長!駄目です、こちらの攻撃は全く届いていません!レーザ砲もミサイルも大規模な爆撃機部隊による大型光子魚雷の集中攻撃も、かすり傷ひとつ……それどころか敵艦そのものに届いていません!」
こちら防御艦隊に増援部隊が到着して立派な迎撃艦隊となった星系軍の、数万隻にも及ぶ大艦隊を統率しているはずの、統合指揮艦にいる艦長と、その上司に当たる宇宙軍提督のいる艦橋。
つい今さっき、宇宙空間をも焦がすほどのエネルギーが荒れ狂った宙域が現在は静かなもの。
しかし、どのような攻撃手段を使用しても、相手の防御バリアフィールドを貫くことなど不可能という現実に直面、無敵だと今まで思い込んでいた自軍の宇宙艦隊が子供の玩具に過ぎないと見せつけられた。
「副長……攻撃中止だ。何をやろうと、あっちに届かんのではな。提督、全軍に対する攻撃中止を進言いたします。これ以上は無駄以外の何物でもないと愚考いたします」
旗艦の艦長から意見具申が出て第二次攻撃を命令しようと思っていた提督は思い直す。
「あれだけの大攻勢にも関わらず相手が反撃すらしてこないことに恐怖を感じるよ、儂は。第二次大攻勢を命令しようと思っていたが、やめよう。というか、もうそろそろ相手の指定してきた48時間が過ぎるな。超巨大船の武器は一切、使わないと言っていたが、それでは、こちらへ向けての攻撃手段は、どうするつもりなんじゃろうか?」
艦長が答える。
「あと5秒で最初のテレパシー通信から48時間となります……今!」
その瞬間、第2のテレパシー通信が来る。
《余裕を持たせたつもりだったが、48時間じゃ足りなかったか?まあ、これ以上待っても同じようなものだから、今から攻撃隊を発進させる。とりあえずは邪魔でうっとおしいロボット艦から片付けるので生命体を載せている艦艇は前線から撤退したほうが良いぞ。こちらから狙うことはしないがロボット艦の爆発に巻き込まれて宇宙の藻屑という目に会いたくはないだろう?》
どんな攻撃隊が来るかと思ったら……
「艦長!救命ポッドサイズの飛翔体が超巨大船より発進された模様です。たった2隻しか確認されませんが、いかが対処しましょうか?」
艦長は救命ポッドサイズと聞いて不審がる。
「副長……あまりに小さすぎないか?ミサイル等の間違いではないか?」
「いいえ、艦長。ミサイルより小さく、我が軍の宇宙戦闘機よりも速い速度ですが、あれは乗員1名のみの超小型戦闘ポッドではないかと推測されます。とりあえず我が方の宇宙戦闘機を10機、迎撃隊として発進させましたが……あまりの性能差で迎撃どころか僚機に撃墜されそうなほど翻弄されております……あ、味方機同士の接触で4機が行動不能。残りも、どういう攻撃手段か解析不能ですが機体に故障箇所は無いのに行動不能となって宇宙を漂っております」
「相手の攻撃手段すら解析不能……どうやって対処するかも不明では、こっちが全滅するまで相手のやりたい放題だと言うこと。艦長、君の意見を聞きたいんじゃが……無条件降伏したほうが被害は少なくなるか?」
提督から意見具申を求められた艦長、
「今すぐ降伏するなら、こちらの被害は最小限となるでしょう。しかし、一回も交戦すらしてない状況では宇宙軍として出てきたプライドが……」
「そうじゃな……ロボット艦だけ攻撃すると向こうが言ってくれておるんじゃから、艦隊数が50%になったとしても交戦は、すべきなんじゃろうなぁ……」
恐ろしい数字を口にする提督だったが、その数字になっても生命体の被害は無し。この艦隊の半数がロボット艦だという事は、生命を犠牲にすることなく宇宙艦そのものを巨大ミサイルとして相手にぶつけられるという特攻を可能とする事も意味する……提督は大艦隊の半数を犠牲にしても相手の情報を掴めと命令しているのだ。
結果……一時間後、宇宙艦隊は本当に半数になっていた。エンジンを過負荷にし自爆命令を受けた古い型のロボット戦艦もあったが相手の戦闘ポッドに華麗に避けられ、すれ違いざまにエンジン部を撃ちぬかれ(通常、よほどの命中弾を数回も同一箇所に受けない限り宇宙戦艦の装甲など破れるものではない。しかし本当に一発でエンジン部の分厚い装甲板も、古くて重いが、それなりに頑丈な跳躍エンジンも撃ち抜かれ)宇宙に漂うデブリと化した。
この事態には、さすがの提督も旗艦艦長も、戦場をリアルタイムで見ていた星系軍参謀たちも各星系の支配階級にある者たちも絶望という言葉しか選択肢が無く反対なしの全会一致で無条件降伏を選んだのだった……




