未だ、目的地は見えず
本編ではありますが、まだまだガルガンチュアは跳んでます、超銀河団間を。
銀河団と銀河団にある宇宙空間もそうだったが、超銀河団間空間の場合は……
「本当に、何もない宇宙空間という感じだな、これ。4隻もの巨大合体宇宙船になって、超銀河団を渡る性能は以前より遥かに向上したんだろうが……何と言うのか、これ、本当に宇宙を跳んでるんだろうな?スタート時と、ほとんど何も変わらない空間を跳んでいるような気がするんだが」
楠見の感想も、もっともである。
あまりに何もない宇宙空間ばかり続くのは、はっきり言って、飽きる。
銀河団というか、超銀河団の端っこにあたる銀河を旅立ってから、もう10年以上が過ぎた。
その間、何もなかったのかという、まあ、これが結構、色々色々あったりするのだが、これはそれ、また別の話として語るかも知れない。
トラブル解決宇宙船が自らトラブル起こしてどうする?とか言われそうだが、トラブル内容は概して4隻合体に起因していた。
3隻までの合体時には無視しても良いようなエネルギーの脈動や、各宇宙船のセンサー同士の干渉による性能低下、あまりに速くなった巡航速度のせいで顕になった防御フィールドの性能限界……etc,etc……
「それは贅沢すぎるというものよ、チーフ」
答えたのはフィーア。
ちなみに、楠見をどう呼ぶか、それぞれの個性で別の呼び名をしているが、フィーアも例に漏れず、誰とも重ならない呼び名として、チーフを選んだ。
楠見としては、もう少し別の呼び名にして欲しかったが……
「未だに慣れないなぁ、そのチーフってのだけは。地球で数世紀も続いたスペースオペラみたいだ」
「ん?地球?それは、どこの銀河団に?寡聞にして私は聞いたことないけど」
「あー、まあね。地球を直に知っているのは、フロンティアとプロフェッサー、そして俺だけ。知識として知っているのは、エッタとライムだけか……最初の頃からすると、ずいぶんと仲間が増えたからなぁ……」
「そう言えば、チーフの出身星系、銀河系の太陽系だっけ、もうずいぶんと経ってるんでしょね、チーフが旅立ってから」
「まあね。俺も宇宙での暮らしが長くなって、1世紀や2世紀くらいじゃ、ちょい前のことなんて感覚になってるが。とりあえずは平和になってるだろうな。故郷が戦争や天災で焦土と化したり無くなったりしてたらショックだけど……少し前、2千500年くらい前に帰ったときには繁栄してたから大丈夫だろ」
もう、言葉の端々が仙人を超えているような楠見である。
「ところで、フィーア。ちょこちょこ停止して、何やら測定してるようだけど、あれって何やってる?」
「私の生まれにも関係してくるんだけどね、あの定期作業。ちょっと説明すると、銀河団間空間と超銀河団間空間の宇宙空間の構造やらエネルギー密度を計測してるの」
「ほぉ……あの鋭敏すぎる特殊センサーは、そんなことが可能になるのか。もしかして、ダークマターやダークエネルギーの計測も可能になるとか?」
「いえいえ、そこまでは。ダークマターやダークエネルギーを測定しようと思うなら、基準点を、この3次元宇宙と違うポイントに置かないとダメだから。ということで、私にはダークマターの密度や分布、ダークエネルギーの量や強さを測定するような機能は無いの」
「ん?それ以外なら問題ないような言い方だな。フロンティアも銀河団空間の計測が主たる任務だったが、それとの違いは?センサーの鋭敏さだけじゃないみたいだけど」
「はい、チーフ。一番の違いは重力センサーね。これで、同じように見える宇宙空間にも微妙な重力差があることが分かるの。フロンティアのセンサーは通常の宇宙空間や銀河団空間なら良いんだけど超銀河団空間のようなノイズの少ない、言い換えると宇宙空間が微妙に波打つような変化を起こしていても、その微妙な変化や差を検出できないのよ。それが可能なのが私という船の特徴。つまりは銀河団空間以上の密度のある宇宙空間ではセンサーがノイズに埋もれてしまい使えないという事でもあるんだけど……」
あ、そういう事か。要は必要とする実験フィールドの違いってことなんだなと納得する楠見だった。
そんなこんなで、色々色々ありつつも、まだ見ぬ目的地を目指して超銀河団空間を疾駆する、ガルガンチュアだった……




