銀河のプロムナード ガルガンチュアの名、銀河に届く
久々、銀河系のひとコマ。
フロンティアが出発して、太陽系では数千年が過ぎてます。
ここは、銀河系の太陽系。
フロンティアが太陽系を出発してから、もう数千年が過ぎているが、未だフロンティアに匹敵するような宇宙船を建造できる文明圏は出現していない。
しかし、緩やかではあるが確実な変化は銀河系において顕著なものとなっていた。
それは強力なESPを持つ生命体が少しづつではあるが確実に増加していったこと。
その原因は楠見。
彼が銀河系のあちこちで活動していくことで、その星域の生命体の、僅かな箇所の遺伝子スイッチが入る。それは最初、あまりに僅かな変化だからと見過ごされてしまうが、数百年も経てば確実な変化として統計上に出現する。
楠見の出現によるESP発現率の増加は、通常のESP発現率が0.001%以下にしか過ぎないが、これが0.01%となる。僅かな増加だろうって?いやいや、短期で見れば僅かだろうが長い年月で見ると無視できない増加率となる。
楠見が姿を消して数千年……太陽系は今やエスパーの星系となっていた。
楠見が現場に長くいた極東地域(特に日本区)では、その数が顕著である。
太陽系の登録エスパーの数は、そこに居住する生命体の数の1%。しかし、これが日本区だけに限ると1割!10%に跳ね上がる。地球に拡大しても未だ3%弱のため、日本区のESP能力保持者の数は異常である。
まあしかし、そこは平和と平穏、そして職人魂が共存する地域。
ESP能力保持者であろうと驕ることも差別することもなく、それぞれの得意分野で住み分けをしつつ、互いの成果を互いに取り込むようにして発展する。
10人に1人のエスパーがいるという日常は、それを受け入れることが普通となり、互いを排除するなどという考えは、もう起こり得ないほど当たり前になっている。
「よぉ、ご同輩!今日のコミケ、売り子として参加するんだって?コスプレに伝説の人物を選んだと聞いたけど、大丈夫なの?」
〈大丈夫だよ、ご同輩!伝説のトラブルバスターの衣装は今じゃ教科書にも載ってるからね。一般受けするんで人気なのさ〉
などと、もう会話なのかテレパシーなのか、どちらか分からないほどになっている。
ちなみに、生命体(機械生命体も含む)であればテレパシー受信は普遍的に可能だと言うことが数百年前に分かってからは、あらゆるメディアも音声と文字にプラスしてテレパシーも同時に放送するようになっている。
これが思わぬ恩恵となったのは、見知らぬ星、星系、銀河からの訪問者への対応時。
言語は理解できなくても、ファーストコンタクトでテレパシーを使えば意志の疎通は可能。
敵意も害意も無いことを理解してもらってから、ゆっくりと相手の言葉を翻訳していけば良い(とは言うものの銀河系を中心とする300万光年ほどの宇宙では翻訳不可能な言語は無くなっているが)
今日も今日とて周辺銀河からの訪問者が太陽系詣でにやってくる。
フロンティアの出発地点、伝説のトラブルバスター、楠見の出生地だということで完全に聖地扱いされている。今では「一生に一度は太陽系を拝みたい」などという、太陽系観光を中心とした銀河一周観光ツアーまで組まれているらしい(それが人気がありすぎて、プラチナチケットになっているという話も)
現在の太陽系は宇宙空港というものは存在しない(宇宙船は全て、軌道エレベータの頂上にある宇宙船発着場で乗り降りする)ちなみに太陽系で運用されている宇宙船は、ほとんどが中・小型艇ばかり。転送装置の性能が向上し、銀河系のみならずアンドロメダ含めた周辺銀河すらも転送可能宙域となったため、大型宇宙船で銀河を渡るようなリスクを選ぶ必要がなくなったため。
現在では転送限界宙域まで身一つで行き、そこから銀河間渡航性能を高めた大型宇宙船に乗るという方法が一般的。
アンドロメダ銀河の外部宙域検問所より汎銀河評議会(銀河系を中心とし、転送装置が機能する銀河を全て含めた宇宙評議会。拡大の一途を辿っている)に至急の連絡が入る。
「史上初です!宇宙嵐で跳ばされてきたと思しき異銀河団の宇宙船が救助されました!」
評議会議長を始めとする議員団が、思いもかけないチャンスとばかり、事故船が収容されたアンドロメダ宇宙港へ至急転送で到着する。さぞかし、変わったデザインの宇宙船だろうと思っていると……
「君、これ何かの冗談かね?」
評議会議長の目の前にあるのは、直径300mあまりの球形船。銀河系のみならず、この周辺銀河を含めた宇宙空間で普通に使われている、当たり前とも言える規格の球形船だ。
そこへ、通訳を兼ねたテレパス能力者が転送されてくる。議長は、ファーストコンタクトを望み、テレパスへ親愛の情を送ってくれと指示する。すると、通訳を兼ねたテレパスは、
「議長、先程から相手方より親愛のテレパシーと同時に、ここが「ガルガンチュアの故郷か?」という質問が。ガルガンチュアとは何でしょうか?」
議長も議員団も、フロンティアなら知っているが、ガルガンチュアなどという宇宙船など知らないので詳しいことを聞くために、新しい言語のデータが集積されるまで待つ。
「ガルガンチュアとは巨大宇宙船が合体した想像を絶する超巨大船。我々はガルガンチュアと、そのマスター、ジェネラルクスミにより多大なる恩恵を受けた」
この言葉を聞いて議長や議員たちは、フロンティアが進化し、あの巨大な宇宙船が少なくとも二隻合体して、その名もガルガンチュアと変わったのだと、ようやく理解した。
「やれやれ……お隣の銀河団とは、また遠いところへ……いつになったら銀河系へ戻ってこられるんでしょうか、あのお人は」
ため息をつく議員に対し議長は一言。
「お隣の銀河団に今もいるとは思わんほうが良いな。あの伝説の宇宙船と伝説のトラブルバスターは銀河団を渡り歩いているのだろう……もしかすると、もう一つ上位の超銀河団すらも……」
この言葉に銀河団すら異なる異種族同士が、うんうんと頷くのだった……
今日も宇宙は平和になっていく……平和の使者は今日も超銀河団を渡っていく……




