銀河の社会構造革命 その六
次は動力革命だっ!エネルギー革命でもありますが……
ウスイ氏は、今日も小さな会社を中心に数社の営業まわりをしている。
噂が噂を呼び、零細企業や中小企業では幸運を運んでくる作業着姿の男ということでウスイ氏は大黒様のような扱いになっていた。
今日も朝から営業に入った小さな工場では事務所入口で名刺を出すと同時に社長から新入社員までがウスイ氏を一目見ようと押しかける騒ぎになった。
「参りましたよ、さすがに。私は、この会社の高い技術の評判を聞いて、今日は仕事のお話で来ただけなんですけどね」
ウスイ氏は神様の使い扱いされたのが苦手だったようで表情を曇らせている。
社長の方は、やりすぎてウスイ氏が気分害して帰られたら大変なので、あれやこれやで大接待中。
ウスイ氏は、この接待攻勢にも表情を濁らせ、
「社長、止めましょう、こんな事。私は純粋に御社の高い技術を買ってますが、こんなことで高い技術を地に落とすのはやめにしましょう」
社長、ウスイ氏に対する態度を改める。
正当に我社の技術を評価してくれている相手に接待攻勢は合わないと理解したようだ。
「では、すっきりしたところで、こいつなんですがね……」
ウスイ氏が持ちだしたのは例によってデータチップ。
そこに入っていたデータは……
「う、ウスイさん……あなた、これをウチに製作しろと?」
社長が驚くのも無理はない。
そこにあったデータこそ民生用に安全度を最大限に高めた「E=MかけるCの二乘」炉。
この会社、実は不要となった原子炉や旧式の原子エンジンの解体と無害化で、業界内だけではあるが、その高い技術と安全性で群を抜く企業だった。
社長にとって、このデータは会社の爆発的な躍進という中核技術になるもの。
「見てもらった通りの、エネルギーと物質の相互反応が可能なものです。こいつを使うのに遮蔽とか放射能対応とか考える必要はありません。ただし、エネルギーを取り出す場合には危険を避けるために数cm単位の遮蔽物は必要でしょうが」
ウスイ氏が、こともなげに言うのを遠い目で見ている社長。
「こ、これ、新発明というか、もう宇宙のエネルギー事情が変わっちまいますよ、いやマジで。今の宇宙船や飛行機械の三次元機動はもちろん、地上車やら水上・水中船も全てのエンジンやモーターを使う物の心臓部が置き換わります!」
そう、ウスイ氏が渡したデータは全ての人工動力の心臓部だ。
それも超小型から超大型まで自由に設計と製作のできる汎用性の高いもの。
こんなものを発表すれば数年で動力炉という概念すら変わるだろうことは容易に想像できる。
「個人で小型宇宙船すら所有できる可能性もありますよ、これ。ざっと見ただけでも超小型のものだったら同程度のエンジンやバッテリーモーターより安くできますな」
社長は興奮したように喋りまくる。
「ウスイさん!この話、他じゃ絶対に無理だが、ウチなら数カ月で製品にしてみせる!まかせてくれないか?」
ウスイ氏は、それを聞いて笑顔になる。
「その言葉が聞きたかった。お任せしましょう。ウチへのパテント料は……このくらいで」
社長が予想していた額の数%という安さに、
「え?そんな価格で大丈夫なんですか?そちらへ利益……まあ爆発的に売れるでしょうから、最終的に莫大な利益にはなるでしょうが……」
という言葉へ、ウスイ氏は、
「いえいえ、この星系だけのことじゃないですから。この銀河宇宙で考えれば……」
こいつは、俺なんかよりも一枚どころか百枚位、上の営業思考だな。
ウチじゃ、そこまで考えなかった……
社長は真剣に、この新型炉プロジェクトに社運をかけることにした。
数年後、小さな小さな辺境星系の、またその辺境にある小さな核エネルギー関係の技術会社から、驚くべきテクノロジーのエネルギー炉が市場にもたらされる事となる。
大型のものは、それこそ強大な宇宙空母から巨大輸送宇宙艦、小さな物は地上を走るオバサマ達の足の下にあるモペッドまで、全てが同じ理論で作られた革新的なエネルギー炉で置き換わる事になるのは時間の問題だった……
「あ、今回はエッタか。計画は順調だ。インフラは、順調すぎるほど順調に、こちらの予定通りに置き換えが進んでるよ。もう少しで、銀河を巻き込んだ社会構造革命の狼煙を上げる事となるから、数十年ほど待機してくれ……」
銀河単位の社会と経済の革命だ、100年単位のプロジェクトになるのは仕方がないだろ?




