地球良いとこ一度はおいで。 二度と帰らぬ故郷の星……
仕事に、けりつけてませんでしたね。
ちょうど地球の付近まで近づいてますので後腐れ無いようにします。
そんな話です、今回は。
あ、忘れてた。
太陽系を去る前に色々、仕事やプライベートに決着つけなくては。
フロンティアに一度、地球へ戻って太陽系にサヨナラできるようにしてくるというと了解の一言で送り出された。
すごいね、フロンティアの搭載艇。
俺の宇宙ヨットのサイズより小さいが、個人用の宇宙艇としては最高装備に近いものがあるぞ。
操縦系も、ほとんどロボット化されているが手動にもできる。
その場合、思考で思うとおりに動かせるという、ある意味、理想の宇宙艇だ。
FTL(超光速)駆動系こそ無いが、それ以外には、ほぼ光速に近い速度で航行できるし航続距離は1光年近くあるし。
ともかく、こいつでステルスしながら俺は軌道エレベータへ到着する。
ちなみに、不審がられるといけないのでフロンティア宇宙艇に俺の宇宙ヨットを接舷させて見た目には宇宙ヨットで軌道エレベータまで来たように見せかけている。
通常は宇宙ヨットの帆を折りたたんで駐機所へしまうのだが、俺は、あえて帆を畳むだけで軌道エレベータへ止めたままにする。
またすぐに戻ってくるからと言うことで駐機所の無駄な料金を払いたくないためだ。
そのまま軌道エレベータを降り、懐かしの地球へ降り立つ。
すぐに最終結果を携えて会社へ直行。
でもって用意していた辞表を社長へ叩きつける。
「な、なぜだ。なぜ辞める?君の実績なら、もっともっと仕事には困らないのに。木星企業からも火星企業からも、もう一度、今度は数年契約で来てほしいと懇願されているのに……」
と愚痴られたが、さすがに準ブラック企業で、これ以上働く気はない。
「宇宙ヨットで太陽系の果てまで行ってみたくなりましてね。さすがに地球にサヨナラしないと、こういう事は出来ませんので」
と、取ってつけたような理由で辞める。
会社も、あまりに激務で働かせていたのを理解しているために、あまり俺に強く言えないのを見越しての行動である。
会社を出ると、今までのホームにしていた部屋を解約する。
月極契約なので余った日数は請求しないことにして契約解除と前金を返却してもらう。
荷物は少なかったけど古いビブリオファイルなどのデータが入ったチップが大量に出てきたな、掃除が終わったら。
まあ、こいつは宇宙へ持って行くことに決定。
政府の方にも、
仕事をやめて太陽系を探検しますと言うと、
何を言い出す?!
と言われたが、このまま仕事だけで人生終わるより、好きなことやりたいんですっ、
と強引に政府調査官の仕事も公式に辞める。
さて、と。これで俺のしがらみは無くなったぞ。
色々なところからの退職金みたいなものが振り込まれたので、それで最後の贅沢とばかり友人たちと馬鹿騒ぎに興じる。
そのついでに、太陽系を遠くまで探検するという計画を話す。
引かれた。
分かってたさ、こうなることくらいは。
もういい年なんだからバカなこと考えないで、この金で事業やれよ!
とか、
俺の仕事手伝わないか?
腕のいいエンジニアが欲しかったんだよ。
などと誘われたが、こちとら、もう太陽系などに未練は無いんだよ。
笑みを浮かべながら、またいつか戻ってくるから、その時には馬鹿騒ぎしよう!
と言葉をかけておく。
ふっふっふ、今の俺にはフロンティアという、とてつもない船があるんだよ。
銀河系どころか、それを超えて銀河団の宇宙空間へ行くことも可能な性能の宇宙船がな!
とは言え、そんな事、口が裂けても言えないので微笑むだけにしておいたが。
次の日、政府の役所へ行って当分は地球へ戻らないことを告げ郵便物も全て送り返してもらうように言う。
住所も、もう引き払ったからと言うと、
大丈夫か?
と言われたが宇宙暮らしが普通になるので、と言うと納得された。
さて、と。
軌道エレベータに乗り、宇宙ヨットにいそいそと乗り込む。
帆を張り、出港準備が整うと、俺は地球を離れる。
地球管制から離れないと疑惑を抱かれるため、フロンティアには回収地点を遠目にするように指示する。
月軌道を離れてしばらくすると、フロンティアが回収に来てくれた。
「ただいま。さて、これからは俺の拠点は、この船だ。よろしく頼むぜ、相棒!」
「了解です、マスター。ところでマスターの宇宙ヨットの管制用人工頭脳ですが」
「ん?なんだ、プロフェッサーの事だな。それがどうした?」
「人類文明としては、かなり高性能な物ですが宇宙ヨットでは、これからの使い道が限られます。私の管理しているボディに載せ替えたいのですが許可を頂きたく」
「そうだな。あれほど高性能な奴、使わずに放っておくのももったいない。いいぞ、自由に動けるボディを与えてやってくれ」
「ありがとうございます、マスター。では、数時間後に」
おう、あのクラスの人工頭脳を載せ替えるに数時間か……
まったく、どれだけ高性能なのやら、この船は。
ステルス状態で地球文化を学びながらフロンティアは、それから数日の間、月軌道の外側で待機していた。
数日後フロンティアが、地球に代表される太陽系文明の学習は完了したと告げてくる。
俺は船に対して命令を与える。
「では、このまま太陽系を離れる。余計な混乱を与えないように、ステルスモードで静かに、しかし、なるべく速く、な」
船が動き始める。
木星に沈んでいた時より倍以上の大きさになっていた。
これで、まだ本来の大きさではないらしい。
これからは宇宙塵やデブリ等の排除を兼ねて、これらを吸収しながら船体を拡張していくそうだ。
俺の新しい旅、いや、人生が始まった。




