古代宇宙船、登場!
スペースオペラでもなかった仕事SFなどブックマークしていただき、まことにありがとうございます。
いよいよ、物語は核心へと動き出します。
主人公も、ついに太陽系の縛りから解き放たれます。
でも、太陽系周辺で少し色々やりますけどね。
古代の巨大宇宙船は静かに動き出そうとしていた。
探査船のサーチライトのみのエネルギーで、あの巨大宇宙船が動く。
ものすごい効率的なものか、あるいは主たるエネルギーは別にあるのだが補助機関が動かないとメインエンジンが点火できなかったりするんだろう。
多分、補助動力の方だろう、あの動きからして。
《ありがとう、もう大丈夫だ。ワタシは、このメタンの海を抜けだして、とりあえずこの星の周回軌道に乗ろうと思う。君とは、いつごろ合流できるか?》
思考もテレパシーも流暢になったな。
俺の都合を聞いてきているが、
《少しの期間、周回軌道で待機していて欲しい。俺にも仕事があり、今すぐには宇宙へ出ることは出来ない。まあ、そんなには待たせないと思うけど。ここでのトラブルが原因から解決したみたいだから》
《了解。では待っている。少々の時間、待機するなら平気だ。この海の底で数万年、待っていたのだから》
うぉっと、とんでもない待ち時間。
しかし、そこまで待たないと人類が木星に来ることもなかったし人工的に開発されたエスパーでもある俺が、ここへ来ることもなかった。
では木星軌道で会おう!
と、一時の別れの挨拶を送り、俺達は別れた。
俺は木星開発機構の事務所へ戻ると報告書を書き上げる。
一応は本当のことも混ぜるが、まさか全くの異文明が作った超古代の巨大宇宙船が木星で起こったサボタージュ以上破壊工作未満のトラブルの原因だったとは、とても書けなかった……
あれは未発達のテレパスに向けての異文明の救助信号テレパシーだったが、どちらも相手のことを知らないでテレパシー送受信をしてしまったため、受けた人間の脳が救助信号だと認識せぬまま何か強迫じみた感情に迫られて行動したがゆえの勘違い行動だった。
しかし、こんな事実、そのまま書いても信じてもらえないので、テレパスの脳波を乱す異常空間が、なぜか存在し、それを探査船の強力サーチライトで無効化したら全て解決って話に持っていった。
普通こんなの信じてもらえないが、俺には火星での信じられないが事実のトラブル解決の実績がある。
今回それで押し通そう。
物的証拠も何も残っちゃいないんだから俺の報告書と探査シップの行動記録だけが証拠。
それから予想通り見事にサボタージュも備品盗難も破壊工作もどきも無くなった、綺麗さっぱりゼロ件だ。
予定通りの日程で木星企業での仕事は完了する。
今回、どえらく高評価されてしまい、ぜひとも木星周辺の企業代表として残ってほしいと、すっごい上の方たちからも要請されたが、俺は残念ながらと断った。
まあ提示された報酬額と待遇に少しは心が動いたんだが、それよりも、あの古代宇宙船に心を奪われていた俺がいた。
もう、俺の関心は木星にはない。
今現在、木星軌道上にあるであろう古代宇宙船とランデブーする事だけに心は向かっていた。
木星のステーションに預けてあった宇宙ヨットを受け取り、俺は再び宇宙に飛び立つ。
久々に宇宙ヨットが美しい帆を張り制御を司る人工頭脳が目を覚ます。
「よっ、久々だな、プロフェッサー。早速だが俺が今から言うポイントへ行ってくれ」
「お久しぶりです、わが主。その指定されたポイント、何も探知できませんが、よろしいのですか?」
「ああ。そこで待ち合わせしてる奴がいる。さて到着してから驚くな」
「驚くような感情、私は持ちあわせておりませんが。コース変更、完了しました。木星軌道の指定ポイントへ向かって発進します」
宇宙空間だけに音もなく宇宙ヨットは華麗に太陽風を受けて進みだした。
もうすぐ彼に会える。
どんなデータや知識を持ってるんだろうな?
今からワクワクだ。
ちなみに今の俺は脳領域解放中。
木星での仕事終了時に糖分や食料を、ごちゃまんと買っておいた。
まあ別ブロックでヨットに繋げてあるから、すぐには手に取れない状態ではあるが当分は食料や脳の糖分補給に影響はない。
さすがに宇宙空間で、この距離でテレパシーが届くとは思えないが……
《ようやく会えるか。待ち遠しかったよ》
おっ?
おお、彼のテレパシーは届くか。
当たり前だな。
出力が違いすぎる。
もしかして受信の方も段違い?
なら、
《俺の思考、届くかい?こんな遠距離、届くかどうか分からないが》
《届いている。はっきり受信できるぞ。君のテレパシーは私の昔の主人達並である。とても強い。君は君の周りにいた同種の生命体と同じとは私には思えない。それほど君の力は強く感じる》
《まあ、それには理由がある。ま、詳しいことは、そちらとランデブーしてからだ。ところで、こちらの宇宙ヨット収容は可能か?》
《それなら安心して欲しい。格納庫も充分な広さがある》
しばらくして指定ポイントが見えてきた。確かにプロフェッサーが言うように何も存在しているとは思えない……
が?!
目前の空間が揺らめいたと思ったら見たこともない物が現れた。
そいつはクジラのようにパカッと下面の開口部を大きく開け、そこへ止まりきれない宇宙ヨットは飛び込んでいった……
俺の記憶は、そこで止まっていた。
次に目を覚ました時は見たこともない医療施設の中で医療ベッドの上にいた……




