戦いの銀河 その三
戦いに明け暮れた銀河宇宙に、平和の種が蒔かれようとしてます。
この平和の種、静かに開花を待つなどということはしない、食虫植物のようなもの(笑)
無事に跳躍ポイントへたどり着いた。
実空間へ復帰は出来たが……あー、やっぱり戦争状態だったなー、悪い予想ほど当たるのか……
とりあえず、このポイント防衛要塞の最高指揮官と連絡を取る必要があるか。
問答無用で攻撃されないことは、ひとまず安心かな?
「こちら、銀河団を超えてきた宇宙船ガルガンチュア。ここの跳躍ポイント防衛要塞システムの最高指揮官と話がしたい。通話を求める」
とうとう、来るべきものが来た。あの超巨大宇宙船に対し、どのような戦略と戦術をシミュレートしても勝つ手段が見つからなかった。
戦力差、およそ1対10000以上。もちろん、1がこちらの戦力。
こんなもの、ファンタジーの龍のほうが相手にしやすいくらいの戦力差ではないか。
初期の機械知性であるフェードラ要塞のメインコンピュータは、対応に苦慮していた。
呼びかけを、こちらからすべきかも判断できない。
少しでも対応を間違い、相手の怒りを買えば、その瞬間に、この要塞システムごと消されても不思議じゃない。
逡巡していると向こうから通信が入る。こちらの予想の上を行く銀河団すら超えてきた宇宙船?!
科学技術のレベルが数千年単位で違うんじゃないか。
「宇宙船ガルガンチュアへ、こちら跳躍ポイント防衛要塞フェードラのメインコンピュータである。あいにく、ここに最高指揮官は不在だ。もう10年以上に渡り、ここは最高指揮官の遺言により、どの勢力にも属さず、どの勢力にも進入ポイントとしての使用を断っている。貴船のように外部からの出現ポイントとしては開放しているため、貴船は自由に出て行って構わない。こちらは貴船の行動の邪魔はしないと約束しよう」
ここまでの条件を提示すれば、さすがに武力行使はしてこないだろう。
触らぬ神に祟りなし。恐怖の対象に出て行って欲しいだけだ。
「了解した、防衛要塞フェードラのメインコンピュータ。ややこしいので、そちらをフェードラと呼称する。攻撃を控えてくれたことに感謝するが、そちらにも問題がありそうだな。良かったらトラブルを解消してやることは可能だが、そちらはトラブル解消を望むか?」
おや?攻撃の意思もなさそうだし、えらく親切な異星人だ。
「もし可能なら、ではあるが、お願いしたいことがある。我が要塞周辺宙域には、どの勢力からもはじかれた民間人達が貧相な生活と、なけなしの物資で暮らしている。こちらより彼らを救ってやって欲しい。これは亡きハヤシ提督の遺志にも沿うだろう」
「分かった。ついでに、そちら、フェードラのシステムも骨董品のようなので、こちらで新しくできるが、どうする?管制システムとかをいじるわけじゃないから、メインコンピュータから管理権限を奪うこともしないと約束しよう」
なんだと?!古いとは言え建設当時は最新式の管制システムを備えた巨大要塞だったんだぞ、こちらは。しかし、あの超絶科学で最新化か……
「できうるなら頼みたい。民間人の方を優先してもらっても構わないが。代価はどうする?」
とんでもない要求をしてくるかと思ったら確かに、ある意味「とんでもない要求」だった……
「こちらガルガンチュア、了解した。代価は、この周辺宙域にあるデブリで良いか?周辺宙域の清掃も兼ねてデブリを全て貰いたい」
は?デブリは危険なので撤去したいが、あまりの量に手付かずだった。
これで良いのなら、こちらとしても願ってもないのだが。
どのみち民間宇宙船の航路安全のためデブリの一部清掃をお願いしたかったのだ。
「願ってもない、こちらからデブリの撤去と宙域清掃は願い出るつもりだった」
「では交渉成立だな、フェードラ。トラブル解決のための人員と機器を、そちらへ移送する。武器は持たないので、よろしく」
おおお?なぜ?なぜ、こんなに簡単に非武装で来ると?異星人の思考回路が理解できない……
「さーて、と。まずは、こちらの手勢を確実に増やしていくか。戦争しか知らない奴らに平和の味を知らせてやるとしよう!」
大型搭載艇に6名全員が搭乗し、工作機械やその他の機器と共にフェードラに向かうことにする。
ガルガンチュアには最高度のバリアを張り、どんな物も進入不可能にしておくことは忘れない。
ここより宇宙の歴史は新しい物語を描いていくこととなる……
長く分厚い戦いの歴史が崩れていくための蟻の一穴が今、開けられようとしている……




