お仕事の毎日です。 2
宇宙の話は、まだです。
しばらくは、お仕事モードになります。
数日後。重力変動が原因かどうか、まだ分からないのだが、また小事故が起きた。
俺は今までの事故報告をアーカイブで取り寄せ、チェックする。
今は省エネモードとは言え脳領域が普通よりも解放されている状態なので記録のチェックと関連付けも瞬間的に行えるのは便利だ(ただし、これをやると通常よりも脳内のエネルギーを多く消費するようで……結果として少しでも甘いものを多く食べるという所業になる……職場内で「甘味大王」という渾名がついてしまった)
しかし、そのかいあって傾向と種別が判明。
小事故のほとんどが無人の自動工作機械での作業中だった。
人間が介在している事故物件もあったが、その時には不注意だとか視線を工事以外に向けていたことが判明。
これで対策を取りやすくなった。
一応、現場の上司に当たる人間に、とりあえずの中間報告を行う。
主たる原因は、まだ不明だが、無人なのが原因らしいということ。
主原因は調査中ではあるが推測では瞬間的な重力の微小変動かも知れない事。
中間報告では、この2点のみにとどめる。
対策としては、なるべくなら重要な工事は自動機械任せにしないことくらいか……
また、それから数日後。
打ち合わせの時に、重力変動かも知れないという現場からの報告を上げた人たちの書類が、ようやく出来上がってきた。
これは貴重な現場の声。
俺は数枚の報告書を、じっくりと時間をかけて読み込む……
そして確認を取るために各衛星の軌道、木星との位置関係をシミュレーション。
そこへ報告書にあった変動したと思われる時間を重ねてみると……
俺は小事故が大事故へ繋がる、このシミュレーションを予想して、冷汗をかきながらも正式な報告書を作成。
数時間後、俺は現場監督始め、開発・開拓・移民作業に関わる人たちの前に立っていた……
「結果として大変な事が判明しましたので報告します。今までに起こりました作業時の小さな事故。実は大きな災害の前触れであることが判明しました」
俺の説明。
当然、周りからは詳細な説明を求める声が……
「落ち着いて下さい、今すぐに災害になることはありません。まず事故の主原因から説明します。今までの事故の主原因は、この衛星と木星の位置関係による重力変動が原因です。これは、この現場だけではなく各衛星にも言えることですので、この書類は全ての木星を回る衛星へ送って下さい。では百聞は一見にしかず……このシミュレーション映像をご覧下さい」
俺が原因を突き止めたシミュレーション映像を公開する。
「通常、各衛星は円軌道を描いて惑星……ここでは木星ですが……の周りを回っていると言われますが正確には少し楕円軌道になっているのです。地球ですと月の影響で潮の満ち引きがあるので簡単に分かりますが、こちらでは海が無いために実感に乏しかったのかも知れませんね。さて、ここで肝心な事。木星は巨大惑星ですから、それが衛星に引き起こす影響は地球と月の関係どころじゃありません。楕円で周回していることにより、各衛星は木星の重力の影響を受け続けていますから、強く引っ張られたり、比較的弱く引っ張られたり……と、こういう事を延々と続けているわけですね。主原因は重力変動と言いましたが、正確には「木星の重力変動による」影響です。実は、この変動により各衛星には微小地震が起きています。これが、ほんの微小なら大したことではありませんが、たまに有感地震まで大きくなると、人間はとっさにバランスをとろうと動けますが自動機械のコンピュータは、この事態に対応したプログラムがないので事故を起こすわけです」
皆様、分からないながらも必死に理解しようとしている。
「ですから、この機会に建設機械の一斉検査を兼ねて自動機械のプログラムアップデートを行うことを強く勧めます。これは他の各衛星で巨大地震が起きた場合にも対応するアップデートにすべきです。ちなみに、これが拒否された場合は地球統合政府への事故管理不適当案件として報告する用意があります。これは、それほどの危険要因だと思って下さい」
まあ、これほどデカイ事故案件だとは俺自身も思わなかったが、ここで俺の持つ裏資格「地球統合政府 事故調査官」が生きる。
実は俺のようなトラブルシューティングを表の仕事とする裏の事故調査官は結構な数がいる。
でなければ地球の統合政府が、各惑星や衛星の勤労状況や労働環境などリアルタイムに近い状況で把握出来得るはずがないだろう。
まあ、これで事故が収束するならいいんだが。