宇宙を駆ける派遣社員、誕生! その2
この話では、まだ宇宙へ出られませんでした。
次の話では、やっと宇宙へ出ますよ。
次の日。
買い溜めてた食料を消費するため豪華な(?)一人鍋を作って食べていると趣味仲間から連絡が入った。
俺のアイデアだが実現可能とのこと。
宇宙ヨットの船体部分が倍以上に膨れ上がり、それなりの重量増加になるようだが、それでも4人乗りとかに比べればはるかに軽い物になりそうだ。
作業時間を聞いてみると出来合いのユニットを船体に着けるだけなので、そんなにかからないと。
俺は友人にGoサインを出す。
詳しい設計図と加工後の重量を見積もってもらい、現在の帆では推進力が足りなくなる恐れがあるため、4人乗り用の帆に交換してもらうよう交渉する。
今の世の中、交換する部品もパーツも全てリサイクルされるため、カスタムしても、そんなに高くないのが良い。
ちなみに交換する帆も装着されるユニットも中古部品である(品質は地球製で最高級。昔は地球でも国家によっちゃ品質に差があり、日本という国の部品やパーツが最高だったらしいが今は星ごとに徹底管理されているから地球製を買っておけば間違いがない)
とは言っても俺の預金残高の30%以上が消えてしまった……
他に趣味がないから良いようなものの、俺など想像も出来ない部類に入る高尚な「ヲタク」と呼ばれている一部の人たちにかかりゃ、俺の預金残高など一瞬で消える世界もあると聞く……
あー、世の中、不公平だよ全く。
その日の夜には改造終了の連絡が入り、最終的な宇宙ヨットの詳細と写真、改造箇所の保証書が送られてくる。
ふむふむ……
居住区画の拡張と宇宙線や宇宙塵からの防護のために薄い水の膜をサンドイッチしたチタン合金船体。
そして、中古ながらもきれいにリサイクル&リフレッシュされた冷凍睡眠装置、そして、ここが肝心の無人航行設備&生命維持設備の同時管理用人工頭脳の強化なんだが今までと違って大幅な改造になってしまった。
俺は補助的な人工知能しか計画していなかったんだが、それでは検査が通らないということで中古ながらも高性能の人工知能システムが売りに出されていたので、それを今までのシステムと交換したとのこと。
大幅に人工知能の性能が上がっているため俺が不審がっていると、出処は言えないが元は中型貨客船用人工知能で、船体そのものがスクラップになりかけていたので人工知能部だけ外してスクラップヤードから買ってきたらしい。
ほとんど捨て値だったぞ、良い買い物したな。
と言う友人に、そういうジャンク運だけは良いんだよな、俺、と答える。
子供の頃からスクラップヤードの常連だった俺はスクラップヤードのおやじさんに「この子は目利きだな」と言われていた。
ジャンクを見ると、使える物、高く売れそうな物の匂いがする。
それに加えて使えそうなジャンクが俺の元へ何故か集まってくる不思議な体質がある。
ジャンク運と俺は呼んでいるが、そうとでも言わねば理解しがたい。
宇宙ヨットの場合も、ほぼ同じ。
いくら中古で安いとは言え趣味の部類に入る宇宙ヨットの部品やパーツの中古が、こんなに安いはずがない。
まあ、それを言い出せば宇宙ヨットそのものの購入経緯が、それに近い。
「耐久年数はまだなんだが、この形やデザインが古くなってな。それに趣味関係の品物は中古屋へ売ると二束三文で馬鹿らしい。誰か買いたい奴がいたら格安で売るよ」
昔に契約社員で勤めてた頃の同じ会社の友人が言うので、
「俺が欲しい。でも金は、そんなに無いぞ」
と言うと昔のよしみだからと現在の手持ち金だけで譲ってくれた。
権利書類や名義変更だけでも、そんな金額じゃ足りなかっただろうが、その友人は、
「知らない奴に買われてボロボロにされるより、お前なら大事に使ってくれそうだから良いさ」
と、こともなげ。
まあ、そいつの親は、その大企業の専務取締役。
その友人も、
ヒラから上がってこい!
と親の会社に入れられたが、もともとが優秀な奴だけに宇宙ヨットを譲ってもらった頃には課長になっていた。
俺と一緒にヒラ社員の頃は二人して馬鹿をやったもんなんだが……
ここで一つ、ご注意を。
宇宙ヨットを使用するには宇宙へ出ないといけない(当たり前だ)が、それには免許が必要。
惑星近傍空間だけを航行するなら自動システムに任せてやればいいので許可を取るための講習数時間だけで良いのだが、惑星間を航行するとなると次元が違う。
大型貨客船などの操船・航行免許とは違うが、航行する速度が格段に上がるため、免許を取るのも一苦労。
シミュレータなどで様々な事故対応訓練を積んだり宇宙航行用の無線設備に習熟したり、様々な事を習い覚えた末、2ヶ月近くもかかって宇宙航行2種免許を取ることができた。
実は内惑星系の航行なら3種でも良かったのだが外惑星系へ行くためには2種免許が必要ということで、行く予定はなかったのだが頑張って2種まで取った。
まあ、その甲斐はあったということだろう。
休暇の間に様々な雑事を片付けて。
実家へ帰って火星からの帰着報告と、またすぐに木星へ行くよ、との現状報告も兼ねておいた。
親は呆れていたが、もう何も言わなかった。
数年前までは結婚しろとか、あそこの娘さんはどうだとか、やかましかったが……
休暇終了後に事務所へ出社。
「で、次の出張先なんだがね……」
所長が切り出してくる。
人材派遣は大変だ、ここの会社のように、いくつもの派遣先があった場合、普通は一つに絞って派遣先を決めるのだが、ここでは少しでもバックマージンを稼ぐために数ヶ所の派遣先を全て受ける。
受ける会社は書類上の操作だけなんだろうが実際に現場行くのは俺だ。
従って現場を飛び回って作業することになる。
疲れるのも当然だろう?
でも、ブラックじゃなくても企業なんてのは、そんなもんだ。
金を稼ぐのは大変。
「はい、今回は衛星4箇所と木星内の企業事務所での仕事の計5箇所ですね。期間は、それぞれで3ヶ月ずつ、向こう様の事情で延長あり。了解です」
書類を確認して俺は支度ができていると所長に告げる。
「では、これが費用の前渡し分。帰りの費用は悪いけど後で精算ということで。それじゃ行ってらっしゃい。向こうさんには到着は一ヶ月近くかかるよとは言ってるから」
一応、最悪の行程で行くと木星事務所に到着するのが一ヶ月近くかかるので、そこは交渉してくれたらしい。
俺は所長の言葉を背中で聞きながら今回の派遣先、仕事へと思いを馳せるのだった。