滅びた星の生き残り達 その五と、その後
この話、ついに終了。
さて、次は、どんな話にしようかな?
会話と交渉は順調すぎるほど順調に進んだ。
「あのー、こう言ってはなんですが、我々は自分の星と生命を一度は根絶やしにしてしまった者たちです。ここまで親身にしてもらう資格などあるのでしょうか?あまりに、そちらの支援提案が凄すぎて、かえって恐縮してしまうのですが……」
そう、そうなのだ!あまりに親切、あまりに贅沢とも思える支援の内容だった。
※地下都市にいる者達全てが地上に出てすぐに生活が可能なように簡易的な住居と保存食料、そして地下都市に保存されている全ての遺伝子サンプルの生物、植物の再生と増殖の実行支援
※生活上、欠かせないエネルギーの支援。
(詳細は、今までの核エネルギーや水力や火力の発電ではなく全く放射性物質を出さないE=M・C2乘炉という、エネルギー炉としてもエネルギーの物質転換炉としても使用可能な超高性能炉の提供)
※数年間の、生活と安全の保証
※光速まで出せる宇宙船の資料提供と、資材提供
最後について、宇宙船の実物提供は可能ですが、それではトラブルがあった時に対応できないでしょ?だから自分たちで造れるように造船所も建てられるだけの資材とデータを提供しますね……と、将来についてまで配慮してくれた。
後で地下都市の高官たちには、
「あまりに好条件すぎないか?こちらから提供するものについての条項が全くないのが気にかかる。もしや人体実験や奴隷化する裏条項とかあるんじゃないのか?」
と、不審がられた。
無理もない、同じ星の生命体、同種族にも不信の目を向けて、お互いに殺しあい、星を殺してしまった過去がある我々に、こんな好条件(相手の持ち出しばかりで、こちらの支払いが全くない一方的な援助)など信じられるわけがない。
まあ、その返答には俺個人の見解として、という一文をつけてだが、
「じゃあ、こちらは何を提供できるんでしょうかね?あらゆるものについて技術、精神、資源の活用についても圧倒的に進んでいる異星人なんですよ。だいたい、あの空に浮かぶ巨大な宇宙船を見たら、こっちが何しようと無駄だと思いません?」
この一言で地下都市高官の全ての反論が止まった。反論なんかできるわけがない。
こうして星の復興が始まった……全てが異星人に、おんぶにだっこという形で……
数日、数カ月で1つの滅びた星が復興できるわけがない……とか思ってるでしょ?
違うんだなぁ、そんな時間のかかる自然任せのテクノロジーなんて地球人(後でわかった、異星人の故郷の星の名前は地球というらしい)が取るわけも無し。
数日で俺達の地下都市の他にも地下都市が数カ所あることを確認した上で、俺達と同じようにテレパシーにて呼びかけを行い、地上はきれいになったよと教えてやる。
10日も経つと他の地下都市からの合流組が俺達のグループと合流し、とりあえず一箇所に集められることになる。
2週間後には全ての地下都市住民は俺達の地下都市近くに全員が集合。
異星人が作ってくれた簡易住居に入るということになったが、ドームのデカイ物を想像していたら全く違った。
個人単位では、さすがにないが、家族単位やグループ単位、最小は2人ペアという形での住居を割り当ててもらえる。
地下都市の狭い住居空間を考えると夢のような家。
簡易住居とは言うものの、この住居そのものが天災にも強い設計になり、大津波や大地震が来ても安心だという。海の上に住居ごと放り出されても数年は大丈夫という、度を超えた安全住宅である。
エネルギー供給炉もサンプルの一基は作ってくれたが、後は自分たちで……まあ、最初の一基を作るのに、詳細なデータと資材があっても数年かかったけどね。
後の量産は楽だったけど。
大問題だったのは、海上に浮かぶ船を作るんじゃなくて一気に宇宙船だったために、あまりの基礎技術力の無さにデータも理解できなきゃ、理論すら理解不能だったこと。
まあ、この辺りは地球人のほうが我々の宇宙船技術のあまりの程度の低さに気付いて、後から教育機械なるもので一気に知識レベルを引き上げてくれて解決した。
ただし、宇宙船の製造に関してのノウハウが全くない状況での工廠建設やら資材配備やらが非効率極まりないものだったことは、後日、本格的に宇宙船が量産されて赤っ恥ものだった事に、ようやく気付いたのはご愛嬌だろう。
で、なんやかんやで数年後。
衛星が無かったおかげで、宇宙船の開発技術が進歩しなかった我々も、ようやく他の惑星へ開拓団を送れるようになった(ここまで引っ張りあげて、手取り足取り懇切丁寧に指導してくれた地球人の努力は凄いと思う。あまりに知恵遅れのようなワガママな我々に、よくもまぁ呆れること無く忍耐強く指導してくれたものだ)
ちなみに、我々の宇宙船に、武器などというものは装備されていない。
レーザーカッターはあるが、これは完全な開拓用。
防御用に、恐ろしく強度のあるバリアシステムはあるが攻撃用の武器などは全く無い。
その理由を地球人に聞いてみたことがあるが、そこで返ってきたのは、
「ああ、今は使えないだけで宇宙船内に装備はされてるよ、隠されてるんだ。使えるようになるのは君らが精神的に成熟してからね。多分、超光速エンジンと同時くらいには武器も使えると思う。それ以前には危なくて許可できない」
今の我々の精神的な発達度で他の恒星系へ行けるような行動性を持つと、必ずと言ってよいほどに他種族や他の生命体を攻撃するという。
俺は自分の行動を想像してみて、例えば自分と全く違う生命体を絶対に攻撃しないか?という問題に、攻撃しない自分が想像できないということを思い知らされて反論できなかった。
あ、遺伝子バンクに保存されていたサンプル生命体は全て開放されて、今では死の星だったことが嘘のように、にぎやかな星となっている。
まあ、これでも無数の生物種が、遺伝子バンクに残ること無く、再生もされなかったのだが……
地球人に対する感謝を表すため、巨大な像を建てようかという話にもなったのだが、地球人の強硬な反対にあい、実現しなかった。
そこで我々は子孫への教育課程として、異星人の偉大なる援助を学ぶ事にした。
それこそ、この恩を忘れることがあるなら我々は滅びるだろう。その滅びは今度こそ再生しない、滅亡への一方通行。
忘れるな!地球人が助けてくれたのは、奇跡的なことだ。2度めはない……
今では巨大な星間帝国の、その名も忘れられている故郷の星に置かれた、巨大な石板に書かれた歴史書の一部より……
帝国とは言うものの、その統治は「愛」と「恵み」であったという。
武器は使わず、ただ、貧困にあえぐ星、生命体が増えすぎて食料すら不足する星に無償の援助を惜しみなく行う、それだけで星間帝国を作り上げていった者たちである。
圧政者からの攻撃にも無敵のバリアシステムを張り、ただ耐える。
攻撃用のシステムは宇宙船に装備されているが、決して使うこと無く、ただ宇宙震の災害救助用に、様々な資材の1つとしてレーザーや熱線銃を使うのみ。
徐々に、この愛と恵みの星間帝国は同調者と星系を増やしつつ、巨大なるネットワークを構築していく事になる……
ただし、あまりに距離があるため、銀河系を含む銀河団との連携を取ることは、ついに無かったという……