滅びた星の生き残り達 その四
もっと色々書きたかったのですが、さすがに有線も無線も通信機器が全くない状況での試行錯誤は、作者には無理でした。
ということで、今回は異星人とのコンタクトを目指す話です。
俺達は、昼でも見える時があるくらい巨大な宇宙船を頭上に見ながら、まずは倒木を組み合わせて巨大文字絵を作ることにした。
1日や2日で完了する話ではないが、一週間もすると追加の地上探索班(?どっちかというと、地上帰還班というべきじゃないか?)のヘルプもあり、10日間で巨大な文字絵が完了する。
一辺が数100mにも及ぶものだったが、これで衛星軌道にある宇宙船から見えるかどうかは分からない。
だいたい、宇宙船の主が、こちらとコンタクトを取る気があるのかどうかも分からない。
なにしろ、この星を生き物の住めない地獄の地上と化してしまったのは、我々の祖先。
そして空高く見える宇宙船は、その地獄から、いともあっさりと我々を開放してくれた存在。
まさに「神のごとき存在」であり、この星では塵芥というより邪魔な存在でしかない我々は無視されても仕方がない。
地上の清浄化情報でさえ、あの声の主(宇宙船の主と同じ存在だろうな、絶対に)の放ったテレパシーが届かなければ、いつまで経っても我々自身で気づくことは無かっただろうと思う。
今さらながら、そのことを思い出すと無謀なことをやっていると自分でも思う。
我々のような極小数の人類を除いて我らが祖先は、この星の全ての生命を一度根絶やしにしてしまった。
それから千年あまり、この星には雑草しか生えるものはなく昆虫も含めて動物も、微生物すら一度は根絶してしまった。
地下都市からの循環空気口から我々の呼吸した空気を排出することにより、ある程度の微生物や雑菌は回復したようだが、それでも今、この星に我々以外の動物はいない(遺伝子保存のため地下都市には戦争前に万が一の事を考えて、この星の動植物の遺伝子標本は残されている。家畜として地下都市で飼われている動物はいないが)
光を利用したデータバンクで保存に電力が必要なかったのが幸い。
今現在でも、その遺伝子バンクは残っている。
俺は、できることなら土下座してでも宇宙船の主に頼み込み、地下都市の遺伝子バンクから動植物を蘇らせてもらいたいと思っている。
人類は、今のままでいい。
星を一度殺してしまった深い、重い罪を背負いながら生きていかねば償いにならないだろう。
しかし、このような超絶テクノロジーを駆使する存在が、もしも核戦争前に到来していたら……
たらればの話などジョークにもならないだろうが、そういった存在なら核兵器を全て無効化するとかも自在にできたのではないだろうか?
宇宙の無限とも言える大きさを思うと、あの宇宙船が、この星に飛来する可能性は無限小に等しくなる。
千年経過したとは言え、巨大宇宙船が来てくれたことにより星は生き返った。
我々は自分達が、いかに思い上がっていたか、いかに自分勝手な生き方・考え方をしていたか、この光景で思い知らされる。
我々は星を殺すことは出来たが生き返らせることは不可能だった。
空に浮かぶ巨大宇宙船は、それをいとも簡単にやってのけた。
我々には、あの宇宙船の主と同じ存在になろうという希望、あこがれも持てないのか?
まあ、その前に同じ同族同士のいがみ合いやら反発すら克服してない段階で、そんな望みを抱くほうが間違っているとは思うが。
巨大な文字絵の次は、狼煙だ。
全員で数日かけて大きな穴を掘り、そこへ倒木や鉱石を砕いた粉などを入れこむ。
わざと燃えにくくするために水も播いて、火をつける。
煙が上がったら大きな布を被せて、煙を出したり抑えたり。狼煙の信号台の出来上がりだ。
できることなら、初期の電信でも良いので無線通信ができたらなと思う。
地下都市でも有線・無線の通信機は全て核パルスにより使用不能となり、修理も出来ないまま、ずっと放ったらかし。
近代・現代に通信手段が無いというのは、こんなに不便なのかと思い知らされる。
狼煙は2日間で取りやめ。
布に火が回ったのもそうだが、大勢での煙の出し入れのタイミングが、あまりに取りづらい事が判明したから。
最後に物理的じゃないが思念を送る事を思いついた奴がいて、皆で手をつなぎ大きな輪になって、同じ意思を送ることにした。
「貴方達とコンタクトが取りたい!」
ただ、それだけ。複雑な思念じゃ、互いの常識の違いで無視される恐れがあるためだ。
で、最終的に返答が来たか?というと……
〈君たちの集合思念は受け取った。君たちのいる地点も判明しているので、こちらから出向こう〉
相変わらず、強いテレパシーだ。
おまけに、こちらの事情をある程度理解してくれているようで、巨大宇宙船からこちらへやって来てくれるとのこと。
しかし、こちらは何の技術的手段もないので、空を飛ぶことはもちろん、宇宙へなんて出られないから助かるんだが。
その返答から数分後……
大空に黒い点が現れたと思ったら、ぐんぐん大きくなる。どんなスピードだ。
あれじゃ着地が胴体着陸になりそう……
などと思ったら、地上数mでピタッと止まり、それからは微速で地上へ。
どこまで進んだ科学力なのか?船体は直径数10mある球形船。傍で見ると、でかい……
着陸用の接地脚のようなものもなく、だけど不安定さは全くない。
球体の底の一点で接地しているが、球体というより円筒形の接地面のように、雑草は円形に沈み込んでいる。
球体の底の一画が開き、乗員が降りてくる。
一人だ。人類のように見える。体つきも、我々と変わりない。
顔の作り、様々な器官の位置も同じ。
声をかけようとして、俺は思い出した。彼は異星人。
どんな言語を使うのか?それさえも分からない。
〈高性能な異言語翻訳装置がある。辞書を作るために、しばらくそちらの会話を聞かせて欲しい。数時間後には相互会話が可能となる〉
こちらの戸惑いを見透かすかのように、テレパシーが送られてくる。
それから数時間、こちらの一方的な会話と仲間たちとの相談事まで、ずっと彼に聞かせる事となる。
それが終わると、彼の話す言葉は理解不能だが、身につけた翻訳装置のスピーカーから流暢な言葉が流れてくる。
「お待たせしてしまったようで。もう通常の会話は大丈夫だと思うので、これからはテレパシーではなく、こちらで会話しよう」
異星人とのコンタクトは意外にも簡単に始まってしまった……