銀河団を渡る旅 その8 文明程度を変える話 下
やっぱり、下でも終わらなかった…
もう一話、続きます。
はい、別働隊の活躍ですね。
「こちら、地震と津波のダブルの大被害に遭った、$$市上空です!ここから見ますに……瓦礫の山もなければ、津波で流された建物や船の残骸も見当たりません!あるはずのないものは、何処へ行ったのでしょうか?」
遅まきながら、メディアの実況中継ヘリが現場へ飛んできた。
実況中継の現場アナは、悲惨なる光景を思い描いていたのだろうが、その絵が全く撮れない……
焦る実況ヘリは、あちこちを飛び回り、ついに災害の現場を見つける。
「あ、ありました!災害の証拠が残っていました!しかし、その地震や津波の瓦礫を、またたく間に片付け、おまけに道路の簡易整備までやってる一団があります!何でしょうか?作業着を着ているからには、どこかの企業集団、あるいはボランティアか?とてつもない怪力と作業性を発揮する、あれは、大学か軍で開発されているというパワードスーツでしょうか?それにしては、あまりにスマートで作業性が高すぎるように思われますが……」
見る間に片付けられていく、瓦礫の山。
そこいらを飛び回って、ようやく見つけた避難民テント村は、最低限の電化生活がおくれるように高性能な太陽光発電装置が備えられたテントが立てられ、通信装置や電話の中継機器も使えるようになっていた。
実況中継アナは、開いた口がふさがらない……
「これは、まるで避難訓練の大規模版か、あるいは野外キャンプの広域版か……大災害直後の避難生活とは思えませんね……」
テント村で、カレーを食事として出されて、それを食べながら、しみじみとつぶやく実況中継アナであった……
一方、こちらは別働隊として、最も危険な地域へ乗り込もうとしている、社長一家4名。
今から乗り込むのは、浜に面していたであろう、無残に破壊された原子力発電所設備が残されている一画。
とりあえず、命の危険も顧みずに現場の作業員達は、勇敢にも炉の緊急停止だけは行っていた。
今は、放射線量の急激な上昇に伴い、動くもののいない無人の荒れ野となっている。
「よし、誰もいないな。エッタ、ライム、プロフェッサー、もう、力を隠さなくていいぞ、開放しろ」
社長、楠見をはじめとする、宇宙船頭脳体を除いた4名の勢揃い。
普段は、持てる力を発揮する場も機会もなく、社会に適応するためにひっそりと暮らしていたが、この時ばかりは別問題。
楠見は、サイコキネシスを最大能力で使用し、ひん曲がった鉄骨や外壁を片付けたり直したり。
彼の周囲は、サイキックフィールドにより放射線の影響から遮断されているので、何も持たない楠見が歩く後に、見えない手が、とりあえずは作業可能な、整理された区画を作り出していく。
誰も見るものがいないため、その光景はメディアには流れることはなかったが、それを見たものがいたなら、まるで神の力を行使して紅海を割った、某預言者の行動に等しいと思っただろう。
彼の周囲に渦巻く光の粒は、高レベルにある放射性元素に汚染された砂や小石。
そんなものを意にも介さず、無人の野を進み、ついに原子炉の建屋内に進入する。
線量計でもあれば、もう完全に致死量を超えていると宣言されるだろう死の空間に、通常の散歩でもしているかのように入り、ついには核燃料貯蔵室と、その隣に位置する核発電装置へと進む。
見れば、燃料保管プールにはヒビが入り、水量は激減している。
このままでは燃料棒の発熱で、プールが融ける恐れすらある。
どうするか?
楠見は、少し考えた後、中型搭載艇を近くへ呼び寄せることにする。
搭載艇は、それぞれが無人でも大丈夫なように人工知能が搭載されているため、無人でもマスターたる楠見の命令は実行できる。
「ここにある燃料棒、すべて収納して、核物質だけ抜いてくれ。そして、いったん無害な材料にしたらプールの脇へ積んでおいてくれ」
トラクタービームで、燃料棒は空中へ釣り上げられ、一旦、搭載艇の中へ収納される。
E=MC2乘の法則を完全利用するガルガンチュアや搭載艇の動力炉は、一度、放射性元素もエネルギーに戻して組成を組み替えることにより、無害な物質に変換できる。
これは高効率なので、銀河間の跳躍航行にまで利用できる効率の良いエネルギー源でもある。
「さてと……あとは目の前の、壊れてしまってる発電炉なんだが……無害化だけ、やっておくとするかな」
やろうと思えば、完全なる設備撤去と更地化も可能だろうに、そこまではやらない。
「残念だけど、ここまで自分の星を汚染させることを許す文明に、希望は少ないと思うよ」
誰に言い聞かせるでもなく、楠見は宣言する。
溶けた炉内の燃料棒の無害化と、この一帯の放射線の清浄化を、到着してから30分で終了させると、
「そちら、逃げ遅れた被害者の救助と清浄化は終わったかい?」
と、残り3名の作業を確認する。
「キャプテン、危ないところでしたけど、最終的に炉を緊急停止させて力尽きた作業員グループが4名ほど取り残されて、意識不明の状態になっておりました。幸い、防護服に穴などは開いていませんでしたので、最小限の被曝だけですんでいます」
「我が主、清浄化は全て完了しております。後は、汚染されてしまった地下水ですが……」
「ああ、そちらは既に搭載艇に依頼済みだ。地上付近の地下水は取水口から吸えるだけ吸ってもらって、とりあえずの広域被害は出ないように処理済みだよ」
「では、ご主人様。この方達を病院へ送り届けて、終了ですか?」
「まあ、緊急作業はね。これから復旧作業が待ってるけど、この災害を契機として、一気に文明程度を進めてやろうと考えてる。幸い、我社の救助用機器のデモンストレーションにも使えそうな素早い救助作業もメディアに乗ったからね」
「しかし、我が主。本当は、こちらが主力ですよね?」
「ははは、それは仕方がない。このテクノロジーは、この星には早すぎる。この技術情報を教えたら、すぐさま宇宙戦争が始まる、ダメだ」
誰も知らないところで、宇宙文明へのチャンスが潰された……