聖地へ来た! M87星雲 その十五 その後の話
これで、めでたくMー87星雲での話は終わりです。
何とか収拾できた……一安心。
異次元生命体との和平が成立して数年後……
まさか、こんなに早く一般大衆に異次元生命体の存在と、その力、その隣人としての友好を発表するとは想像もしなかった。
「皆さん!太古の昔より邪神だ怪物だと恐れられ、恐怖の対象となり、なおかつ狂った教祖による邪教の神として人類のみならず人類以前の知的生命体全ての恐怖と憎しみの的となっていた異次元生命体は実は友好的な知的生命体だったのです!では詳細を、ここにおられますジョン教授に語っていただきましょう」
MCが仕切る、特別番組の主賓として私は、ここにいる。
本来ここに座るべきなのは提督がふさわしいのだが、提督には固辞された。
「まあね、他の銀河の住人である私が関わるのは、ここまで。これ以上は、この星の人間がやることだよ。君の双肩に君たちの星の未来がかかっていると思えば、やる気になるだろ?頑張ってくれ」
そう言われて私が大衆啓蒙番組に召しだされた。
こんなの、体の良い生贄じゃないか!
後で提督には散々文句を言ってやるとしよう。
ここで異次元生命体達を一般大衆に受け入れさせなければ超光速の未来が一気に遠のくこととなりかねないからな。
腹をくくろう。
「ご紹介にあずかりました、J・カーターです。専門は超古代から古代の歴史探究と発掘、探検です。では今回の異次元生命体との友好同盟締結に関する詳細説明を行いたいと思います……」
「彼も見事に自分の役割を演じられるようになったじゃないか。そう思わないか?プロフェッサー」
俺はフロンティア本体に戻っている。
事態が解決したため、フロンティア本体はMー87銀河の外から、この星系の外まで入ってきた。
もちろん騒動を避けるためにステルス機能全開である。
いつの間にか、フロンティアは、また大きくなっていた。
俺が潜入工作してる間、様々な星系からデブリやゴミ、放浪衛星、浮遊小惑星などを拾ってきて自分を大きくしていたらしい。
もう、現在は直径3000km超。
あと少しで目標の5000km超になり主砲を乗せられるとフロンティアは意気込んでいる。
「そうですね、我が主。現地人にしては、かなり優秀な人材だと思いますよ。しかし、どこまで行けるやら……潜在意識にまで刷り込まれているであろう邪神の、いえ異次元生命体の恐怖というものは、そう簡単には拭い去れないと思われます」
「マスター、私も同じ考えです。いくら太古からの誤解が招いたこととは言え、マスターが挑戦するまではコミュニケーションどころか相互理解すら不可能だった種族ですからね。10年や100年で誤解と恐れが解消するとは、とても思えませんよ」
「でも、キャプテン。同じような境遇の不定形生命体である私達さえ銀河系では尊敬の念を込めて扱われるようになりました。まあ長い年月が必要だったことは認めますけれど。異次元生命体も同じ道をたどることにはなると思いますが将来は明るいと思います」
「私も同じです、ご主人様。精神生命体として同感できるところです。全く違う存在形態であっても、どんなに思考形態が変わろうが思考次元が違おうとも、いつか分かり合えると思いますわ」
皆が好意的な回答だな。
まあ同じような存在やら、同じように迫害されてきた(迫害するか迫害されるか表裏一体であり、立場はコロッと入れ替わるものだ)歴史を持つ存在だ。
ここは、もう心配ないだろう。
俺がいた潜入拠点ビルも全ての学術資料も技術資料(搭載艇の設計データ含む)も全て彼、J・カーターに譲渡する手続きは済ませておいた。
まあ超光速のロックは、そんなに早くは解けないだろうが、ゆっくり大衆を啓蒙してもらいたい。
「さーて、と。次、行ってみようか!」
「はい、マスター。ではMー87銀河を離れるコースに入ります」
「さて、次は何処になるかねー。トラブルが俺を呼んでいるぞー」
「キャプテン、これから出発って時に、お先真っ暗みたいな台詞は止めてください。希望のある言葉とか聞きたいです」
「そんな事言われてもな。俺にはトラブルが必要なんだ」
「何を言ってるんですか我が主。無茶苦茶ですよ、その論理」
苦笑が絶えない船内。
ステルスも解除してフロンティアは徐々に加速していく。
一方、こちらはJ・カーター教授。
特別番組(なんと4時間生放送!)が終わって、へとへとになって拠点ビルへ戻ってきたら提督の姿なし。
提督が座っていたデスクの上には分厚い封筒と一通の手紙が。
手紙を開けてみると……
「提督!私に全て押し付けて自分は一人で気ままに宇宙放浪の旅ですか?!恨んでやる、絶対に許さんぞーっ!」
と、虚空に向けて吠えるJ・カーター氏の姿を見た者があったとか無かったとか……
ちなみに異次元生命体との本格的な友好は、まず宇宙空間から始まった。
おっかなびっくりで宇宙船と光速度までの足を手に入れた人類。
宇宙へ乗り出すにも手探り状態である……
はずだった。
「宇宙の水先案内は我々にやらせてくれたまえ。我々は次元断層も越えて来たのだ、宇宙空間なら、お手の物だよ」
そんな異次元生命体たちからの申し出に、これ幸いと乗っかる人類。
それからは安全にして快適な宇宙の旅が始まる。
とある未探検の星に来れば凶暴な暴力衝動に満ちた生命体だらけ……
そんな場合でも異次元生命体達が強力なテレパシーで相手を無力化あるいは平和的な探検旅行だと説得し、生命損失無しの宇宙旅行が実現する。
これは思いがけない副次効果をもたらした。
宇宙旅行に異次元生命体達の恩恵をこうむった者達が口コミで異次元生命体の見た目と違った優しさと力強さを伝え広めていった。
これより数10年後、思いもかけぬプレゼントを、この星の人類は受けとることになる。
「な、何じゃと?!超光速のブラックボックス部分が解除されているじゃと?!信じられない……数100年はかかると思っていたのに……」
老いてなお盛んなJ・カーター学長は、さっそく星系統一政府にロック解除の報告を上げる。
これより数年後Mー87銀河に名を轟かす、誠に奇妙な人類と異次元生命体との共存文明が花開く事となる……
今日も宇宙は平和である。
これをもたらした張本人が知ったか知らずかは別として……




