聖地へ来た! M87星雲 その十一
さあ、邪神か、はたまた眷属か、それとも……ついに怪物の登場!
でも、やっぱり本家と違って怖くないなー(笑)
それは工作班の潜入から始まった。
TNT爆薬数10Kgを持ち、遺跡を素早く降下し、竪穴にたどり着く。
竪穴の周囲に立つ5本の柱にTNT爆薬を仕掛ける。
「提督、遺跡研究を行う立場からすると、この破壊工作は見ていられないんですけど」
私は現場から送られてくる映像を提督と共に見ながら、そんな感想を漏らす。
「仕方がない。あの柱は、どうも穴蔵の中に居る怪物を眠らせておくための装置のようなのだ。紋様や素材、長さや高さ、太さなどは研究済だよ」
「太古の人々は、この怪物を退治できなかったんでしょうか?」
「分からないね、そのあたりは。ただし邪神や眷属、下僕達も含めて太古の様々な生命体や過去の人々には炎や爆薬・どんなに進んでも核兵器までが精一杯だったろうね」
「しかし、それでも倒せなかったと?今の我々でも核兵器が最大の武力ですよ?あ、いや提督の場合は別でしたね」
「その通り。私の手には過去にある兵器とは全く違ったものがある。今までは、それを使うことに対し私には躊躇いがあった。あまりの威力に自分が怯えていたのかも知れない」
「しかし今回ばかりは……」
「そうだ。しかし、この兵器群の封印を解くことは、ある意味、最終手段としたい。その前に怪物とコミュニケーションをとってみたくてね」
「正気ですか?!太古の昔から邪神や眷属、下僕たちと交渉を持つこと自体、正気の沙汰ではないと様々な警告がなされていたではないですか!」
「それは今までの生命体、人間も含めてだが彼らの思考領域に近づける者が一人もいなかったからだと思う。君は邪神とか怪物とか言われている存在と我々の最大の違いは何処にあると思う?」
「そ、それは異次元断層さえも越えて来る能力、ですか?」
「違う。それなら精神生命体とかエネルギー生命体ならば、こちらの宇宙の生命体でも可能だ。彼らと我々の違い、それは……思考する次元の違いだ」
「思考する次元?存在する次元が違うというのは理解できますが思考の次元とは?」
「彼らが思考する際の周波数のようなものだと考えれば良い。まあ細かい点は色々違うが。ともかく彼らとコミュニケーションを取れるくらいに思考するためには、こちらの脳が焼き切れるくらいの高い周波数で思考する必要があるということだ」
「え?そんな事、生物に可能なんですか?言っては何ですが私から見たら超人に近い提督でも、そんなことをすれば脳細胞が焼き切れますよ」
「しかし、やらねばならないだろうな。宇宙の管理人すら放り投げた事態を収拾するには、そこまでやらないとダメだろう。それで交渉も不可能だと分かれば殲滅戦になるだろうが」
「そこまで外部の力に頼るとは……我が星ながら生命体の一人として情けなくなります。そこまでやっていただく必要性が提督には全く無いでしょう」
「はるか遠い星雲の彼方にある星の住人だから?やめ給え、そんなことを考えるのは。同じ3次元宇宙の同じ銀河団に属している仲間じゃないか。仲間がピンチにあるなら助けに来るのは当たり前だろうに」
私の目に涙が浮かぶ。
そうか、この人は命をかけてまで……
「提督、この星の全生命体を代表して感謝を述べたいと思います。ありがとうございます!」
「いいさ、もともとは、ただのトラブル発生の事前防止だったんだから。しかし、ここまで話が大きくなるとは思ってなかったが」
唖然とする。
こ、この人は、この星が砕けるかも知れないような事態を前に、これがトラブル発生の事前防止策だと、こともなげに言っている。
怪物というのは、この人の精神なのかも知れないな。
「ん?私の精神がどうだって?」
「あわわ!勝手に心を読まないで下さい!プライバシーの侵害ですよ」
「意識的に読まなくとも強い感情だと勝手に受信してしまうんだよ。普通は他人の心など読まないようにしているさ。どす黒いものばかりで嫌になるからね」
そうか、テレパスは好むと好まざるに関わらず他人の感情や思考が飛び込んでくるのか。
ESPとは厄介な能力だこと。
私は自分がテレパスでないことに対し、神に感謝した。
英雄や救世主という歴史や伝説に残る者達の中にも、こういう能力者がいたのかも知れない。
その場合、民衆の期待や憧れなどという感情の爆発で、のっぴきならない事態に放り込まれた奴も相当な数、いたんだろうな……
かわいそうに。
そんな思いに囚われながらも、私と提督は柱の爆破作業を見ている。
もう現場にはカメラとマイクしか残っていない。
大量の爆薬が5本の柱に巻きつけられ、そこから有線が伸びている。
もうすぐ、ここに工作班が戻ってくる事になっている。
その手に持つ有線を爆破スイッチに取り付けたら準備完了だ。
今のところ竪穴からは何の音も無い。
数10分後、工作班が戻ってきた。
さすがにエキスパート部隊、我々が数時間かかる道を、この時間である。
持ってきた有線の端を爆破スイッチに接続する。
我々は万が一の事を考え、ビルから離れた場所へ避難している。
研究者も全て、ビル内にあった絵画、壁画、美術品(?)から黒い柱まで全て撤去されて別の場所へ運ばれている。
秒読みが始まる。
さあ、これからが邪神群への人間、いや、この星の生命体達の反撃の狼煙となる。
提督がスイッチをひねる。
一瞬遅れて、鈍い爆発音。
地下深くだからな。
マイクは吹き飛ばされて音は拾えないが、カメラは奇跡的に生きていた。
地下からの映像を伝えてくる。
映像がブレる。
カメラの異常か?
と思ったが、地表にも異常な振動が伝わる。
これは?!
怪物が目覚めたか。
咆哮が振動となって伝わってきているのか。
数分後、カメラはブレながらも、なにか大きな物体が穴から出てくるところを捉えていた。
その数秒後、突然、映像が途切れる。
怪物に踏み潰されたか。
ビルの土台が揺れて、巨大なビルが倒壊する。
その後、ゆっくりと瓦礫が持ち上がり、巨大なる怪物が太陽の光を浴びて咆哮する。
闇の生物だな、太陽を嫌うとは。
攻撃隊が各自の兵器の照準を怪物に合わせる中、提督は、ゆっくりと、怪物の元へと近づいていく。
兵器は嫌いだと言っても拳銃1つ持たないとは……
しかし、提督を止める者はいない。
予め提督が計画を話しておいたからだ。
まず、提督が怪物とコミュニケーションをとってみる。
それが破綻するか、そもそもコミュニケーションが取れない場合、提督からの攻撃開始の合図があるので、それから全面攻撃開始だ。
提督が怪物と、わずか数mの距離にまで近づく。
正念場である。




