聖地へ来た! M87星雲 その四
地底探検か、あるいは、クトゥルー神話の様相を呈してきましたが、まだまだ続きます。
当分、宇宙とは全然関係ない描写が続きますが、ご勘弁を。
「失礼ですが、よく、この辺りの土地が買収できましたね。たしか、邪教と言われる古代宗教集団が根城にしていた土地なんじゃありませんか?」
私は一番の疑問をぶつけてみる。
そうなのだ、この周辺の土地が物騒なのも、いわくつきなのも全て、その古代宗教集団が、この辺りに根城を構えているせい。
この辺り人間蒸発や誘拐など、あまり良くない噂でいっぱいなのだ。
「はっはっは、そんな事か。お馬鹿な宗教集団など数日で壊滅だよ。もっとも、あいつらのおかげで、この周辺の土地は、ものすごく安く買えたがね」
ものすごいな、殺人教団と言われる宗教集団まで、さっさと壊滅させるか。
目の前にいる人間が私と同じ種類の人間だとは到底、思えなくなっている。
「遺跡の上に、このビルを建てたと言われましたね。そうすると、このビルの地下は遺跡が保存されているのですか?」
「お、察しがいいね。そうだよ、小さい遺跡だったからビルで囲むようにできたのさ」
小さいとは言うものの小さな闘技場ほどの大きさの遺跡だったはず。
まあ、あの滑走路の広さを見れば、こんなビルの土地など狭いものだろうが……
「地下の遺跡や遺構は、そのまま残っていたよ。まあ邪教集団が根城に使っていたので、色々と摩耗していたり別の用途に使われていたりして遺跡の文物の保存状態は、あまり良くなかったがね。君も見ただろ、ビルの入り口から1階部分にある様々な芸術品」
「も、もしかして……あれは……」
「ご想像通り。遺跡の中にあった比較的、保存状態が良かったものを展示してあるんだ。この星……いや違った、人間には理解し得ない芸術品が、いくつもあっただろ?あれは、どうやら今の人類の発生前に繁栄していた生命体の作品らしいのだよ」
数100万年どころじゃない数字を、さらっと口に出す主人。
しかし言われて始めて理解できる。
とてもじゃないが、あんな彫刻や壁画、絵画など、どのような思考形態をした生命体が造ったのだろうか?
「私も、ここの遺跡を研究し始めて数カ月だ。まだまだ分からないことが多いのが実情だよ。もし、よければだが、君も、ここの研究をしてみないか?衣食住と、ある程度の給与は保証するよ」
うわぉ!これだけのものを見せられて食指が動かない考古学研究者がいるだろうか?
断れると思うかい?いーや、無理だね絶対!
「ぜ、是非ともお願いします!とてつもない考古学的な発見が待っているに違いありませんから!」
私も、その口だった。
この目の前に広がるだろう遺跡の宝物群を前に断るなど研究者として言語道断!
こんなチャンス、絶対に逃さないぞ!今の糊口をしのぐような調査など、やってられるか!
「では契約成立だ。後で秘書に文書で書いた契約書を持って行かせるからサインしてくれたまえ。ここの遺跡は機密事項に当たるものも多いので、その辺りの機密保持契約も含むからね」
「分かりました、大丈夫です。で、貴方のことは何と呼べばよいのでしょうか?あと、どうでも良いといえば良いのですが私のトラックはどうします?」
「その辺りは抜かりはないよ。今、トラックは、こちらへ輸送中だ。あと、私だが「提督」と呼んでくれれば良い。わかったかね?」
「了解です、提督。トラックの件は感謝いたします」
「ははは、そんなにかたくならなくても良い。退役、とも言いがたいが私の任務にも関わる事が、この遺跡に隠されているようなのでね。資金は心配しなくていいよ、一国の国家財政を超える資金があるから」
提督は簡単に言うが、この一言で私はこの研究の背後に、とてつもない巨大組織があると感じた。
そんなものを、いともたやすく扱う提督にも驚く。
超古代の遺跡に超科学をもって当たるようなものだ。
どちらが強いとかの話じゃない、もう人間の、個人の研究や探索の範囲を超えてしまっている。
こうして私は一研究者として、この超古代に作られたであろう今は忘れ去られた遺跡を研究・探索することとなった。
それから数カ月、私は他の研究者たちと共に地下遺跡の探索を行っている。
驚くべき遺跡であった。
地表に出ている部分(邪教集団が根城にしていた大部分)は一番新しい遺跡だということが分かったのだ。
つまり、地下に行けば行くほど旧時代の遺跡ということになる。
こんな研究者の興味を引く遺跡もないだろう。
そして、この遺跡、地表に出ている部分よりも地下のほうが巨大だとの調査報告が上がる。
地下深く、それこそ地表部分を突き抜けそうな勢いで、この遺跡は地下へ行けば行くほど巨大になっている。
深さも、いまだに不明。
おそらく数100mどころじゃない地下深くに、この遺跡の底があるのだ。
私達は無線電話と有線電話の2種類を持ち、地表にいる提督と連絡を絶やさぬようにしながら地下深くへ潜っていく。
ある程度(数10mくらい)降りると、そこからは地下に大きな穴が開いている。
この穴を塞ぐように、ある時代からの遺跡は造られていたようだ。
穴の回りには宗教的な意味があるのだろうか、五角形を示すようなサインを刻んだ柱が五本、立てられていた。
長い年月が経っても、この柱は頑丈なようで、サインは薄くなっているが視認はできる。
我々は穴の傍に据え付けられた即席のエレベータにより、穴の中へと降下していく。
これからは常闇の世界だ。一応、有線と無線電話の接続を確認しておく。
一抹の不安とは別に両方共、会話に問題はなかった。
穴の縁に有線と無線、両方の中継器を取り付けてあるからだ。
中継器は荷物の中にいくつもある。
今回は通信回線の確保もあるので、行けるところまで行く予定だからだ。
穴は地の底まで続いているかと思われるほどの深さだ。当然、光を底に向けても何も見えない。
我々は簡易エレベータで降りられる限界まで降り、そこから壁面に開いている横穴(大穴)に入る。
しばらく進むと先に明かりが見えてくる。
地底世界に明かりだと?いぶかしみながら我々は進む。
突然に暗闇の洞窟を抜ける。薄明かりではあるが壁面が輝いている広大な場所に出る。
暗闇に慣れた目には、これでも十分に明るく感じる。
これはヒカリゴケ?それとも鉱石が発光しているのか?
壁面をこすってみたが光は変わらない。鉱石発光のようだ。
今まで、こうやって探査してきているが、生命体には全く出会わない。
おかしい。ここを建造した生命体は滅びているだろうが、地中に生きる生命体は多い。
それなのに、虫一匹、見つからないとは。
私は、一休みして、報告を入れようと提案する。全員の賛同が得られ、小休止。
私は、提督に、この光の広場のこと、生命体には出会わないことを告げる。
虫の一匹もいないと報告すると、提督は興味を惹かれたようだ。
充分に注意しながら、探索を続けるように指示される。
我々は、気力や体力が回復したと確認後、探索を続けることにした。




