惑星間航行の日常 再度、冷凍睡眠(コールドスリープ)へ
また冷凍睡眠に入ります。
しかし、今回のコールドスリープは、ちょっと毛色が違うようで……
「それじゃ、頼んだ、人工頭脳。アステロイドベルトまで何もないとは思うが、まあ、何かあってもプロフェッサーなら大丈夫だろう」
「はい、わが主。承知しております。宇宙軍へのバグ報告も、きちんと足がつかないように行っておきますので、ご安心を。では、良い夢を」
「おいおい、睡眠教育なんだから良い夢ってのも変だろ……そう言えば冷凍睡眠状態で睡眠教育って例は聞いたことがないな。俺くらいのものか?」
「はい、肯定します、わが主。普通は身体も脳も最低限のエネルギーで生存できる、つまり成長も止まるギリギリまで代謝を下げるのが基本ですので。これが、わが主の場合、脳の血流だけ通常状態とする微妙な温度のさじ加減により、通常の睡眠教育よりもはるかに効率的に知識の叩きこみが可能となったと思われます」
うわ、知識の叩きこみって白状しやがった、プロフェッサー。
まあ俺自身が負担と思ってないから大丈夫なんだけど。
「プロフェッサー、後ひとつだけ聞きたい。今お前が知識の叩きこみと言ったが、そんなことして人間の脳は大丈夫なのか?確か睡眠教育で無理をして詰め込み過ぎた子供が発狂状態になったというのをビブリオファイルで見た記憶があるんだが……」
「はい、その危険はあると肯定します、わが主。しかし貴方の脳は特別製らしく通常なら、とっくの昔に発狂していてもおかしくない速度での詰め込みを行っても平気で全ての知識を吸収していきます。少し前に普通の4倍程度の脳の開放度を目指す予定と言いましたが訂正させていただきます。やはり行けるところまでは試したいなと。変更許可いただけますか?」
「また物騒な話だな……面白いじゃないか。あまりに負担となるようならプロフェッサーが中止してくれるだろうし。信用して、まかせるよ」
「ありがとうございます。私も未知の領域となる予定の開放度となりますからね。宇宙軍レベルの超天才たちが到達しているのは、せいぜいが普通人の4倍程度の脳解放度です。しかし、この計画では、その倍以上、普通人の10倍以上を開放する予定です。どんなものになるのか?機械知性が言うべきではないのでしょうが恐らく「神」の領域へと到達することも……」
「え?何だって?何と言った?」
時間だった。
カプセルの蓋が閉まっていく……
俺はプロフェッサーの最後の言葉が聞き取れなかった事に大きな不安が。
最後にあいつ何と言った?
宇宙軍の超天才レベルじゃない、それ以上の脳開放度を目指すと言ったのは確認した。
機械知性が言う言葉じゃない……
その次が、大きな不安。
何とかの領域へ到達とか言ってなかったか?
シュウシュウ言う音と共にカプセルの中が霜に覆われていく。
ここに人類の目指す種族的目標、神に近づく、を実際にやろうとする人間が誕生する……
それが、その人間の望んだことか、そうでないかは別として……
宇宙ヨットは日常のように火星管制宙域から離れ圧縮空間ゲートへ向かって、まっしぐらに宇宙を飛んでいく。
その胎内に、やがて人類を超える者を抱えているのも知らぬげに……
ちなみに、プロフェッサーからバグの件を知らされた宇宙軍では、その対応と改修作業に、とてつもない時間と金額、労力を費やした。
また、その情報がもたらされた人物に、どうやっても辿りつけなかった宇宙軍情報部が無能の誹りを受けたことも追記しておこう。
そして、あまりに重大なバグ情報のため、秘密裏にではあるが、これをもたらした人物に期間は定めずに追跡命令が出たことも。




