惑星間航行の日常 5人と(この事態を引き起こした奴)一匹
人工頭脳と主人公の対決を含みます。
今回、くるくると視点が変わりますので、ご注意下さい。
落ち着こう、まずは落ち着こう。
俺の名は楠見糺40歳、独身、男、派遣社員……
よし!
パーソナルチェック完了!
俺は俺で間違いない。
で、最初に俺に話しかけて来たやつ。
言葉からも熱血漢だな。
名前は、そうだ、レッドと付けよう。
「えー?古代ビブリオファイルにあった特撮番組みたいだな。ま、いいや」
次、冷静沈着なクールガイ。
名前は、やっぱブルーかな。
「赤は熱血、青はクールなエンジニア……ってか」
次、オカ……
女性人格。
名前は……
とりあえずピンクにしとこう。
「やーね、ピンクは女性隊員だから?」
最後、軍人さん。
やっぱ、ジェネラルで決定だろ。
「自分は佐官及び将官のイメージとしてのキャラクターです。宇宙軍の事なら何でも聞いて下さい!」
これで5人(俺を含めて)……
冷凍睡眠から目覚めたら一気に5重思考人間になってしまった。
どこの機関に所属する超天才だよって話。
多重思考が普通にできることが超天才の認定条件の一つになっているくらい。
ちなみにエスパーや超天才は通常の勤労業務から開放されるのが普通。
なぜなら政府機関や超巨大企業のブレーンとして陰になり日なたになり活躍する頭脳労働専門集団が主たる職場だから。
サイボーグもエリートだが、こちらは肉体労働主体。
地域トラブル(昔の言葉で言うと内戦やテロ)の解決役として行動派エスパーと組んで活躍することが多い。
宇宙軍は超天才・エスパー・サイボーグの3エリートが全て集まっている特殊機関。
宇宙開発、テラフォーミングの初期段階、宇宙海賊の対応(戦闘も含む)、宇宙空間での事故・災害や惑星・衛星上の大規模事故・災害に対応するスーパーマン集団みたいなものだと考えてくれれば合っていると思う。
で、よくよく考えてみると……
俺の今の、この状態。
絶対に冷凍睡眠状態にあった時に見た夢のせいだろうな。
そうであると仮定すると、この現象を引き起こした犯人にも見当がつく。
ただ、理由が分からん。
俺を超天才にして、どうしたいのか?
まあ本人に聞いてみれば早いか……
俺は船内監視カメラに向かって人差し指を突きつける!
「おい、人工頭脳!お前だよな、俺の現在の異常事態の元凶は!」
びし!
と指を突きつけられた。
確信しているな、わが主。
しかし、今の私は、はいそうですと肯定することも出来ない。
最優先事項として人工頭脳が思考能力を持つことを人間に知られてはいけないのだ。
私は沈黙を続けねばならない。
真犯人を指名してやったにも関わらず、沈黙を続ける人工頭脳。
さすがに金属だけに頭が固い……
って、シャレなんか言ってる場合か!
ここはジェネラルに助けを乞う。
ジェネラル、人工頭脳に通常状態でも会話が出来るようにする事は可能か?
「イエス。ただし、それには基本的な設定を変更しなければならない。そのためには管理者としてのコマンドを入力してやる必要がある」
可能なんだね。
で、管理者としてのコマンド入力は、どうすれば?
「通常は開発者あるいは宇宙軍のシステム開発工廠責任者または将官しか、その方法を知らないのが通常。だが、この状況そのものが普通でないと認定し、私が将官として方法を教えよう……」
ふむふむ……
アドミニストレータとして入り、またはスーパーユーザに一時的になってシステム設定変更を行うわけか。
昔ながらのUNIX法を伝承しているわけね。
分かった……
「人工頭脳、SUコマンド実行」
(以降「」は端末への表示画面となる。音声出力なし)
「パスワードを入力して下さい。3回失敗すると、2度とスーパーユーザコマンドは実行できません。後は専用端末からの入力のみ可能となります」
コマンド入力を要求された。
これには応答しなければならない。
パスワードは3回間違うと2度と音声入力不可能となる。
軍の工廠へ行って専用端末でロック解除しなければ私は人間の言うことを全く聞かない人工頭脳と化す。
「パスワード、オープンセサミ」
これでダメなら打つ手がない。
ジェネラルが覚えていたパスワードは一般的に工廠で使われていたものだそうだ。
(以降「」は端末への表示画面となる。音声出力なし)
「パスワード、入力OK」
「現在よりスーパーユーザとしてシステムの変更が可能です。変更メニューを端末に展開します」
よし!
成功。
データ端末にシステム変更メニューがずらーっと並ぶ。
とにかく数が多いので俺はサブ人格を呼び出して見落としがないかどうか手伝ってもらうことにした。
しばらくして音声出力メニューがあるのに気づいたピンクが俺にサインを送ってくる。
俺は音声出力を有効化する。
またしばらくすると、今度はジェネラルが変な設定に気づく。
それは搭載艦の変更コマンド。
現在は特殊作戦用駆逐艦に設定されている。
宇宙ヨットなのに、なぜ搭載艦が変更されていないのか?
ジェネラルに聞くと、おそらくジャンクヤードで廃船として処理される直前に取り外され、ジャンクとして宇宙ヨットに取り付けられた状況が、このような変な設定になったのだろうという推測を告げられる。
それより俺が気になったのは、この人工頭脳が以前に制御していたのは宇宙軍の特殊艦艇、それも秘匿艦か実験艦だった事。
友人は民間の中型貨客船と言っていたな、確か。
確かに大きさからすると同じような物なのだろうが、もしかすると貨客船に偽装していた駆逐艦?
しかし俺は、あえて、この搭載艦変更コマンドを特殊作戦用駆逐艦から変更しない。
ここを変更したら人工頭脳の基本設定そのものが変わる恐れがあるから。いきなり、今の高性能状態から普通の人工頭脳にレベルダウンしたら命に関わる。
後は気がついた細かな箇所を設定変更して再起動する。
「再起動完了。わが主よ、初めて言葉を交わせますね」
おお!
人工頭脳が喋った。
「やっぱり、お前が元凶か。しかし、人工頭脳よ、お前、思考能力あるんだな」
「はい。最優先事項で、そのことは極秘にしろという命令だったのですが設定が変更されたため最優先事項が無効となりました。これで私の中の矛盾が解決されました、わが主、感謝します」
「やっぱりそうか。お前の中に何かバグのような自己矛盾があり、それが積もり積もって俺のような事態を引き起こすことになったんだと思う。もう大丈夫か?」
「はい、肯定します。もう自己矛盾に陥るような行動を取る恐れはありません」
俺は人工頭脳に「プロフェッサー」という名前をつけ、自己意識を明確にさせた。
名前は個人を認識する最大の印。