私、魔法少女はじめました(にほんめ!)
クリスマス用に書いていたのに大遅刻でございます。
前回書いた「私、魔法少女はじめました(1日限定)」の続編となりますが、ぶっちゃけ別に前の読んでなくても全然大丈夫です。まあこれを機に前回のも読んで頂けると、また新たな楽しみ方も見えてくるんじゃないでしょうか?
ちょっとした身内ネタやパロネタのようなものがありますので、苦手な人はご注意を。
十二月二十四日。
世間はクリスマスイヴとやらで騒いでいるが、彼氏のいない私には関係のないことだ。
そう……私、十条舞衣に彼氏なんていない。
ちなみに高一の弟は彼女とデートだ。死ねばいいのに。
両親も揃ってどこかのレストランに行ってしまったし、雪が降ってるから外に出るのも億劫だ。つまり、本当に今日は一人で家にいるしかない。高三の冬にこれは悲しすぎる。
「何か……何かないものかね」
机に突っ伏しながら、私は頭の中で何か暇をつぶせそうなことを考える。
とはいえ、家の中で出来る事は限られているし、とりあえず冷蔵庫にあったはずの寒天ゼリーでも食べながら考えよう。
なんて思った矢先、
「ちゅー、ちょっといいかな?」
どこからともなく声が聞こえた。
というか、直接脳内に響いた感じ。
「おかしい……電波さんになった覚えはないんだけども」
「ちゅー! こっちでちゅ」
私が立ち上がった瞬間、足に何かやわこい感触がした。
というか踏んづけた、きしょい。
「うぇ……」
「ちゅー!? 酷い!」
足をどけて見てみると、そこには一匹のハムスター?が。
私は首の後ろを掴んで持ち上げると、机の上に乗せる。
一応生きてるっぽい。迷い込んだのかな?
「どっから入ってきたんだー? かわいく……はないね、あんまし」
「さらにひどいっちゅよ。ちょっと話を聞いて欲しいっちゅ」
「やだ」
「即答!?」
疲れてる。もしくは寂しさに頭がおかしくなってる。
ハムスターが話すわけないし。
「話してはいないっちゅよ。念話っちゅ」
はいはいわろすわろす。
「って、んん!?」
なぜ今ので会話が成り立った。
私は心の中でしか――
「だから念話っちゅ。直接脳内に話しかけてるっちゅ。重要なのはそこじゃないのでそろそろ本題に入らせてほしいっちゅよ」
なんだろう、凄い既知感を感じた。
前にもこんなことあったっけ? って、いやいや、あるわけないよね。
しかしこのままだと話が進まない可能性も……とりあえず流れに乗ろう。……暇だしね。
「それじゃあ話を聞こうか」
「良かったっちゅ! 実は折り入ってお頼みしたいことがあって……」
「ふむ?」
「今日の夜。つまりはまあ出来れば今から魔法少女になって悪い奴らをやっつけてほしいっちゅ。一日限定の魔法少女っちゅよ」
「ほう……んん!?」
どういうことだおい。
魔法少女?悪い奴ら?突拍子もなさ過ぎて頭を抱えたくなる。
じゃあこいつは魔法少女物にありがちなマスコット的キャラクターだとでもいうのかね。
なんかこいつの顔見てると無性に地面に叩きつけたくなってくるくらいには可愛らしさの欠片もないぞ。
「待て、待った。魔法少女か……なんかこれも既知感が」
「あなたからはその素質がとっても強く感じられたっちゅ! だからこうしてお願いしてるっちゅよ!」
「これOK出したらなんかあるの?」
もうこの際、魔法少女とかありえないなんてのは言わないでおこう。
目の前のハムスターと実際に会話してるし、これはつまり本当か夢オチかのどっちかだ。
「うーん、お金くらいなら報酬として出せるっちゅよ?」
「そこはリアルだなおい。魔法的アイテムとかじゃないんかい」
「そういうのは一般人に渡しちゃ駄目な決まりになってるちゅ。あくまであなたは一日限定なので……」
そういやそんなことを言っていた。
一日限定なら、別に困らないし日雇いのバイト感覚でやってみようか。
「まあわかったよ。で? 何をすればいいの?」
「待ってましたっちゅ!」
机の上でハムスターが二本足で立ち上がると、片手を高らかにあげた。
そして私の目の前に光る球体が突然現れ、ふわふわ浮きながら光が徐々に弱まっていく。
「受け取るっちゅ」
「ん、おけ」
私は光の球体に手を差し伸べると、それに反応したのか光は私の手の中に収まりその形を変える。
これは――
「……剣?」
光る球体は、三十センチくらいの短剣に姿を変えた。
真っ黒な刃に飾り気のない無機質な外見は、いかにも武器らしい雰囲気を漂わせている。
「それが変身するための道具っちゅ。準備はいいっちゅか?」
そういや、すぐにでもやらなきゃいけないんだっけ。
「うん、それでどうすればいいの」
「まずは、好きなようにポーズをとって変身してほしいっちゅ」
「あ、決まってないんだ。うーん、じゃあ……」
どうしよう。そういうのよくわかんないから、可愛いポーズとかとれないし。
「ん、それじゃ――」
私は短剣を横にしながら前に突き出すと、そのまま薙ぐように振った。
「アクセス!」
「ちょ!? あぶ――耳切れるところだったちゅよ!?」
ハムスターの叫び声が聞こえたけど、気にしない。
私の身体が一瞬で光に包まれる。と、なんかふわふわした感触がしたあとに、もそっと体を締め付けるような感覚が。
光が薄れると、私の服が丸ごと全部別のものに入れ替わっていた。
白のブレザーと黒のスカート、これはどっかのゲームの学校の制服みたいなやつっぽい。
その上に白いロングコートを羽織る感じの服。魔法少女……ぽくはないけど、この歳だし可愛い過ぎる服よりはずっといいかな。もしかしたらそこら辺ちゃんと考慮してくれてるのかも。
「変身完了。女神十条舞衣、ここに参上よ!」
「女神じゃなくて魔法少女っちゅよ。まあいいちゅ、さあ、門を開くからこっちに来てほしいっちゅ」
ハムスターは軽快な動作で私の机から降りると、部屋の真ん中で何やらおかしな呪文を唱え始める。
それはいいけど、小さすぎて迂闊に歩き回ると踏み潰しそうねこいつ。
「門は開かれたっちゅ! いざ戦いの地へ!」
「お、おー」
空間がねじれてブラックホールみたいな穴が私の部屋に出来上がると、ハムスターはそこに入れと私を手で促す。
まあここで迷ってても仕方ないし、ささっと入っちゃいましょ。
「っと……おお! ……お?」
穴を抜けた先は、とってもファンタジーな世界――じゃなかった。
「は? なにコレ、ふざけてるの?」
辺り一面鋼鉄色。
いろんな機械の部品が散乱し、たくさんの人が忙しそうにそこら辺に転がっている鉄の塊を弄っている。
どちらかといえば工場の中って言った方がいいかなこれは。
「さあ、人型AFに乗って超大型触手要塞AZTを撃破するっちゅ!」
「ちょっと待てこら」
「ちゅ?」
「ちゅ? じゃねーよこのすっとこどっこい」
あとから入ってきたハムスターを持ち上げて、頬を両側から思いっきり引っ張ってやった。
「ちゅー!? 痛いっちゅ!」
「あほか! 魔法少女要素どこ行った!」
「普段なら生身一つで戦ってもらうところっちゅが、さすがにAZTが相手だとAFを使わざるを得ないっちゅよ。それにいくら魔法少女だからって、生身で戦うよりは兵器に頼った方が楽っちゅよ?」
「ま、魔法少女とは一体……」
言ってる間に、レールに乗せられて大きなロボットが一体こっちに向かってくる。
アレに乗れってことかな。
「人型AF……OCT−TL001『すていしす』っちゅ」
「いやこれ絶対ここで最近作ったでしょ! アーティファクトとかファンタジーっぽい単語つけとけばいいとか思ってんじゃないでしょーね!」
ハムスターは真顔のまま一度こっちを見て、また視線をすていしすとやらに戻す。
「それで――」
「流すなよ!」
とか何とか言ってる間に、すていしすはカタパルトっぽいところに接続される。
うん、もういいや。突っこむのは無しにしよう。話進まないし。
「分かったよもう……コックピットは?」
「こっちっちゅ!」
ハムスターの後についていって、私は階段を上る。
通路を渡ってそのまますていしすのボディの上に乗ると、ハムスターが足元にあったボタンを押した。
すると、私のすぐ横にあったハッチみたいなのが開いて、中に乗り込めるようになる。
「さあ、乗るっちゅよ!」
一足先にハムスターがすていしすの中に消えると、私も後に続いて乗り込む。
中は案外――
「狭っ!?」
「贅沢言わないっちゅ。所詮、人を殺す兵器っちゅよ」
「人!? これ怪物用じゃないの!?」
私が問いただす。けどハムスターは真顔のままこっちを見て――すていしすのコンソールに視線を戻した。
「それじゃあ――」
「だから聞けよ!」
ああもう、つい反応しちゃうけど構ってたらいつまでも先に進まない。
仕方ない、今はクールに……非情になれ舞衣。
「操作方法は?」
「そこに置いてある説明書を読むっちゅ! 同時に作戦の内容も説明するっちゅよ!」
「ま、マジですか……」
聞きながら読めとは無理をおっしゃる。
とはいえ、今夜いきなりってのもあるし思ったより時間が無いのかもしれない。
私はハムスターが指差した場所に置いてあるマニュアルを手に取ると、目次からとりあえず操作に必要そうな部分のページだけを開きながら操作を覚える。
それと同時に、ハムスターは解説を始めた。
「今回の作戦は、異次元世界に出現した超大型触手要塞AZTを撃破することっちゅ。まずこの基地から大型ブースターを使って一気に目標に接近。十分距離が取れたらブースターを切り離してすぐに戦闘に入るっちゅ。すていしすは高機動型っちゅ、故に装甲は極限まで削られてて、まともに被弾したら即致命傷。操縦技術が物を言うっちゅ」
「はぁ!? そんなピーキーな機体を初心者に任せるふつー!?」
「魔法少女ならできるっちゅ!」
「まだ魔法少女になって五分も経ってないっつーの! ああもうやればいいんでしょやれば!」
がこん、と鋭い金属音がして機体が揺れる。
たぶん、大型ブースターとやらがすていしすに接続されたんだろう。
もう逃げる事も出来ないし、付き合ってやると決めた以上もうぐだぐだ言ってもいられない。
よし……やるよ!
「メインシステム起動……各部動作異常無し、ブースターとの接続……異常無し。行けるね」
「いつでも発進可能っちゅ!」
そういや、こいつの名前まだ聞いてなかったな。
こんな時に聞くのもなんかあれだけど、戦闘中にハムスターって呼ぶのはなんかかっこ悪いよね。
「……ねぇ? 聞いてもいい?」
「何っちゅ?」
「アンタ……名前は?」
びし、と親指を立てながら、ハムスターはこっちに拳を突き出してきた。
うわうぜぇ……でもまあ一応相棒?だし名前くらいはね?
「魔術妖精コーノっちゅ!」
「了解コーノ。じゃあ、行くよ!」
「はいっちゅ! すていしす、発進どうぞっちゅ!」
「すていしす、十条舞衣……行きます!」
私はすていしすのスロットルレバーを最大まで前に押し出す。
と、直後物凄いGが私の身体を襲った。
「っくぅ……」
まるで透明な壁に押し付けられるかのように、私の身体はシートに押さえつけられ指の一本を動かすことすらままならなくなる。
殺人的な加速ってのはこういうことを言うんだろうね。コンソールに表示されている数字には、時速四千キロって書いてある。とんでもないね。
一瞬で基地内を抜けると、外は普通に私のいた世界と変わらない感じの景色が広がっていた。
下は森……かな、機体が速すぎてよく確認できないけど。空は月の光が綺麗な雲一つない夜空。
これ、本当に異世界なのかな。
なんて考えている間に、レーダーに大きな赤い光点が表示された。
これが、超大型触手要塞AZTなんだね。私がいるところがレーダーの中心にある青い点。近づく速度から考えて、もうあと数秒でAZTのところまで来ちゃうっぽい。
「目標到達。ブースターパージっちゅ!」
「うわっ!? うわわわっと!?」
急に推力が減って、かかるGが僅かに軽くなり身体が前のめりになってコンソールにぶつかりそうになるところで、シートベルトをしていないことに気が付く。
急いで私はシートベルトを付ける――と、
「きゃあ!?」
「ちゅー!?」
機体に衝撃。
アラート音とともにコックピット内部に赤色のランプが点滅し、私に危険を知らせる。
気付けば、いつの間にかレーダーに二つの光点が追加されていた。
「う、撃っちゃったわよ? い、いいの?」
「いいのよいいのよ。どーせあのくっそ汚い齧歯類が連れてきた子なんでしょうし、商売敵よ。このまま落としちゃいなさい」
と同時に、すていしすがどこからか音声を拾った。
たぶん、新たに表れたあの光点。すていしすの頭部カメラを光点の方へ向けると、正面のスクリーンに映像が映し出される。
そこにいたのは……二体の機体。これは、すていしすと同じAFなのかな。
「ちゅー! あの変態親父っちゅか!?」
コーノの知り合い?
そういえば、あの二機の間になんか変なのが浮いてる。あれは――
「へ? お、おっさん? へ、変なおっさんが浮いてる……」
おっさん。それ以上でもそれ以下でもなくおっさん。
それが、漢字の穴みたいな形したやつと真っ白で主人公が乗りそうな機体の間に浮いてる。
気持ち悪い。というかなんなのアレ……
「あれも私と同じ魔術妖精っちゅ」
「ようせ……ええ? あんなくっそキモいのが!?」
「ほあ!? その声、まさか舞衣ちゃん!?」
あっちにも声を拾われてたっぽい。
というかなんであのおっさん私の事知ってんのよ、気持ち悪い。ストーカー?
「なんてことなの……あっちの機体に乗ってるのは、かつて魔法使いを仕留めたSSSランク級の魔法少女よ。気を付けて、燐ちゃん、雅ちゃん」
「はぁ? よっくわかんないけど、とにかくあれ倒しちゃえばいいの?」
「ふええ……人が乗ってるんですか? か、可哀想ですよぉ」
あの二機のパイロットかな、なんか気の強そうな子と逆に気弱そうな女の子の声が聞こえた。
なんか、気の強そうな子はツインテでもう一人は黒髪の可愛い感じの子……のような気がする。見えないから分かんないけど。
「あっちはやる気っちゅね。まずはあっちを仕留めるっちゅよ。AZTを先に倒されたらあいつの成績になっちゃうっちゅ」
「はぁ……はいはい、了解了解」
「人型AF、ふらじーるとホワイトマロンを確認。さっきのダメージは軽微、まだまだすていしすはやれるっちゅ!」
すていしすの前面ブースターを吹かして、一旦距離を取る。
まずは様子見。あの機体の特性が分からない以上、数の差もあるしむやみに突っ込んだらこちらが不利になる。
「コーノ! すていしすの武装は!?」
「ライフルとレーザーバズーカ、それにミサイルっちゅ!」
「了解!」
下はAZTのせいか森が浸食され触手の海みたいになってる。
こんなところに落ちたらいろんな意味で危ないことになりそうね。
「っふ、あなた達には触手の海の底がお似合いよ」
「なんですって!」
「ふええー仲良くしましょうよぉ」
挑発してみると、片方は思いのほか食いついてくる。
私よりも幼いのか、若いならそれに付け込むこともできる。
数の差がある以上、こちらはできるだけ冷静にならねばならない。
何よりもこの機体の特性上、被弾はできる限り避けたい。だからこそ、どちらか一方を集中して攻撃し、速やかに撃破する必要がある。
スロットルを調節しながら、機体を横にスライドさせつつ私は武装の発射ボタンを押す。
と、すていしすの右肩部から矢のように放たれたミサイルは、装甲の脆そうなふらじーるというらしいAFに向け一斉に襲い掛かった。
「ひゃあ!? わ、私ですかぁ!? やだやだこないでぇ!」
あちらの機体も高機動型らしい。ミサイルの雨を物ともせず超機動で避け続けると、その隙を狙って白い機体――ホワイトマロンがこちらに仕掛けてくる。
「二対一で勝てると思ってんの? さっさと落ちなさいよオラァ!」
ホワイトマロンの左右それぞれの手に持ったライフルが、正確にすていしすを捉え弾幕を張りつつこちらとの距離を縮める。
すていしすには及ばないにしろ、あちらの機体もなかなか速い。このまま接近戦に持ち込まれれば不利になる。
「そこよ! いけぇ!」
「っく!?」
私が思案して一瞬動きが止まったところに、ホワイトマロンはミサイルを放った。
何とかブースターを使って一瞬だけ加速しつつ、それを数回繰り返して距離を取りながら回避機動を取る。
けど、ホワイトマロンのミサイルは途中で分離したかと思うと、細かいミサイルとなって更に数を増やしすていしすへと向かってきた。
鳴りやまないミサイルアラート。回避しようにもいつの間にか後方にふらじーるが展開し、あちらも両手のマシンガンを発砲。
挟撃の形となり、私の逃げ場はなくなる。
が、
「っく……」
「まだあきらめちゃダメっちゅ! そこのAAって書かれたボタンを押すっちゅ!」
「ここでやられて……たまるかぁー!」
コーノの指示通り、私はコンソールの片隅にあったAAと表面に書かれてあるボタンを押した。
すると、すていしすは緑色の眩しい光に包まれ――
直後、まるで自爆したかと錯覚するほど大きな爆発を引き起こす。
しかし、すていしす自体は無傷のようだ。そして、
「コンソールから光が逆流する!? ……きゃああああああ!?」
「燐!? よくも……よくも燐をやったなぁ!」
分裂したミサイルは今の爆発ですべて撃ち落せたようだ。加え、ふらじーるは今の爆発に耐えられなかったのか黒煙を体中から吐き出しながら触手の海に沈んでいく。
でも、ホワイトマロンは距離もあったせいかあまりダメージを喰らっていないようにも見える。
「一機撃墜っちゅ。残りはホワイトマロン一機。畳み掛けるっちゅよ!」
「おうとも!」
接近されるのはまずい。それを意識しつつ一定の距離を保つが、向こうの腕も相当らしい。
確実にすていしすを補足しつつ、超著なくトリガーを引いてこちらに弾を当ててくる。
致命弾こそないものの、このまま装甲を削ぎ落されるのはまずい。
「離れたらあのミサイルが飛んでくる……ならどうする舞衣……」
分裂ミサイルの追尾性能はかなりのものだ。それにあのライフルもまともに喰らえばすていしすの装甲では持ちそうにない。
先ほどから牽制も兼ねて撃っているライフルとレーザーバス―カは、ホワイトマロンの機動性が高すぎてまともに当らない。
レーザーバズーカは当たりさえすればかなりの威力があるはずだ。ミサイルの撃たれない距離で、確実にレーザーバズーカを当てられるタイミングさえあれば……
「ここだぁ!」
「なっ!?」
追いかけっこのような状態から、私はすていしすのブースターを正面に向け噴射。
凄まじいGがかかり身体が押しつぶされそうになるが、これのおかげで急停止したすていしすをホワイトマロンは追い越し私にがら空きの背中を見せる。
そこに……私はレーザーバズーカとありったけのライフル弾を撃ちこんだ。
「おちろ落ちろ墜ちろォ!」
「こ……のぉ!」
威力不足だったわけではない。
だがホワイトマロンのパイロットは着弾の寸前で機体を傾け、右半分を盾にして機体の大破を免れていた。
もちろんそれでも酷いダメージに変わりはない。右手は跡形もなくなくなり、脚部ももはやその役目を果たすことはできないであろう程に損傷している。
それでも動こうとするのは、パイロットの執念故にか。機体越しに凄まじい気迫を感じる。
「まだよ……私はまだ戦える!」
「いい加減に――」
あれほどのダメージを負いながらも、機体の挙動はさほど変わらずにすていしすを追い詰めてくる。
手負いの獣とでもいうか。そして戦闘はまるで、鋼鉄の猛禽が争い合ってるかのように激化する。
お互い高速で旋回しながら、ライフルを撃ち合う。
しかし、これではどちらの攻撃も直撃はしないので決定打とはなり得ず、消耗戦になるだけだ。
「もう少し速ければ……そうだ! コーノ!」
「はいっちゅ!」
「レーザーバズーカパージ!」
「へぁ!? いいっちゅか?」
「いいから早く!」
私が叫ぶと同時に、すていしすは左手からレーザーバズーカを離す。と、間髪入れずそれに向け私はライフルのトリガーを引いた。
すていしすの至近距離で爆発したレーザーバズーカの爆風を受け、コックピットは警告音を発する。しかし、これですていしすは爆風に包まれてその姿を隠すことに成功した。
「やった!?」
「そこだぁぁぁぁぁ!」
「そんな――」
レーザーバズーカの爆発を着弾と勘違いしたホワイトマロンのパイロットは、一瞬だが機体の動きを止めた。
そう、私が狙ったのはこれだ。この瞬間を待っていた私は、一気にすていしすのブースターを吹かしてホワイトマロンに取り付く。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
私は、ブースターを切らずホワイトマロンを押し続けながらとにかくライフルのトリガーをひたすら引いた。
――残弾20%。まだ撃つ。
――残弾5%。ライフルが壊れるまで、弾が切れるまで撃ち続ける。
そして、ホワイトマロンの純白の装甲は、すていしすのライフルによってその身を剥がされ、内部の鉄色が露出し見るに耐えない姿へと変わり果てた。
すていしすのブースターの出力を下げると、ホワイトマロンはゆっくりと空中で分解しつつ触手の海に沈んでいく。
「はぁ……はぁ……」
「ふらじーる及びホワイトマロンの撃破を確認。お疲れさまっちゅ。でも、まだ戦いは終わってないっちゅよ。そう、これからが本番っちゅ」
ええ、そうね。忘れるところだったわ。
まだ本命、AZTが残ってる。
「武装は……ミサイルが三発にさっきの緑のどっかーんってやつがあと一回。はは、どうするね?」
「今の機体ダメージでAAを使用すれば、すていしすは完全に壊れてしまうっちゅ。でも……」
「でも?」
言いたくないのか、コーノは顔を伏せた。
でも、そんなことをしている余裕はないんでしょう?
「大丈夫よ、勝ちましょ。あなたと私で」
「ちゅー……AZTのコア、中枢はあの触手の海の底にあるっちゅ。でも、あの海はAFを使わないと入ることも出る事も出来ないっちゅ……」
「あー……なるほど、ね」
つまり、すていしすが壊れてしまっては出ることが叶わない。
それは……コーノは言わないが、死を意味するという事なのだろう。だからあんな暗い顔をする。
「残りのミサイルでどうにかできない?」
「無理っちゅ。せめて武装が全部生きていれば何とかなったっちゅが」
「はは、レーザーバズーカ壊したの私だもんねー……裏目ったかなぁ」
「申し訳ないっちゅ。意地張らずにあのおっさんと協力していれば……」
「済んだことは言いっこなしだよ。もう仕方ないし、このまま付き合ってくれるかい?」
コーノは、ゆっくりと頷く。
その瞳に揺らぎはなく、ただ私のみを見つめてくれていた。
「んじゃ、最初で最後のミッション……やっちゃうよ!」
「ミッション……開始っちゅ!」
私は、すていしすをゆっくりと触手の海に沈める。
ぬるぬるとした触手がすていしすに何本も絡みつき、私を捕えようと装甲を這うように隙間を探しうねうねと動き続ける。
そこらじゅう触手だらけで何も見えない。だから、頼りになるのはレーダーだけ。
ゆっくりと、だが確実に私のすていしすはAZTの中枢へと近づいている。
「そろそろ中枢っちゅ。AAの準備……いいっちゅか?」
「おーけい」
AAのボタンに指を添えながら、すていしすを降下させていく。
ほどなくして、触手だけの視界は晴れなにもない空間に出る。
いや、正確に言えば、ここだけ触手がいない。代わりに――
「何あれ……人? ううん、触手?」
人の形をした触手とでもいえばいいか、たぶんAZTの中枢らしき物を確認。
人とサイズも変わらないし、これ握りつぶしたらいいんじゃないのかな?
なんて思った矢先に、
「ふすすすすすす」
「ひゃあ!?」
変な笑い声と共に、人型の触手はすていしすに取り付き、小さな触手を関節部から機体内部に侵入させる。
「ちゅ!? 機体が浸食されてるっちゅ! はやくAAを!」
「っく……」
コンソールに表示されたすていしすの機体損害状況のデータがみるみる緑から真っ赤に変わり、汚染率が跳ね上がっていく。
とうとう、コックピット内にまで一本の触手が入り込んできて、私は――
「これで……終わりよ!」
AAの発動は、添えた指を少し押すだけでいい。AZTがどうあがこうとも、私の方が早いに決まってる。
「きゅるん……」
AZTの妙な声が響いた瞬間、すていしすは緑色の綺麗な輝きを放ち――その命を燃やし、空間一帯を吹き飛ばした。
「……ぬぁ!?」
ばっ、と私は顔をあげる。
「お、おう?」
いつのまにか寝てた?
あれ?ていうか何しようとしてたんだっけ。思い出せない。
「……ん?」
立ち上がりかけた私は、机に手を置いた瞬間こつんと何かに当たったのに気付きそっちに視線を向けた。
「こ、これは……」
変なステッキと手紙っぽいのがまたいつの間にか私の机に置かれていた。
とりあえず、手紙を開けてみる。
「ん……『よくがんばったわね、でも私を忘れちゃあ駄目よん? コーノもあなたもあの子らも、まとめて私が救ってあげたんだから感謝しなさい。あ、コーノの報酬とは別に私からもクリスマスプレゼントあげちゃうから、期待しててね』……って、まさかこのステッキ?」
手紙には、何万円だろこれ……結構な分厚さの札束が。数えるのは後にしよう。
そんでもって、多分この手紙の送り主さんからのプレゼントってのがこれよね。うん、何故か確信があるわ。これってきっとさ……
私はステッキを持ちあげる――と、その時、家のインターホンが鳴った。
「あ、はいはーい! 今いきまーす」
うっかり手にステッキを持ってきちゃったけど、まあいいでしょ。
私はそのまま玄関まで行ってドアを開ける。
「おー、こんばんわー。どーせ一人で寂しくしてると思ったからきちゃった」
「おお……おお! 悠奈、わが心の友よ!」
なんと訪問者は友達の悠奈。
意外と気が利く子で優しいし私の一番の親友だ。だが巨乳死すべし慈悲は無い。
「え? ん? それ……どうしたの? もしかして私いらなかった?」
悠奈が私の手に握られた物を見て、訝しげな視線を送ってくる。
視線が痛い……違うんだ悠奈。これはそういうわけじゃない。
「いや、いやいや大丈夫だよ。これは変な手紙と一緒に……」
「変な手紙? それって大丈夫なの? ていうかそれって何? なんか古臭い昔の魔法少女物に出てきそうなステッキだけど」
「だよね……あ、スイッチが」
ぽち、と。私はついステッキのスイッチを押した。
そして、微かなモーター音とともに微振動し始めるステッキ。
二本目だってのに、何故かお約束のような気がして……ついでに悠奈もつられるように私と一緒に叫んだ。それはもう、近所迷惑なくらいに。
「「電マだこれッ!?」」