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「月日が流れるというのは早いものだ」


 通りの良い紳士的な声を発したのはトロワ・フリーウェル公。クロヴィス達の父親である。

 四人で食べるにはいささか大きすぎる会食用のテーブルにてフリーウェル夫妻、そしてクロヴィスとリノアンが腰を掛けている。彼らは揃って夕食に舌鼓を打っている最中である。


「クロヴィス、お前を拾ってからもう十七年が経つ。リノアン共々、立派に育ってくれた」

「ありがとう。でも、それは父さんや母さんのおかげだよ。だからこそ、今俺はこうやってここに居られるんだ」


 右手に持った銀色のナイフと左手のフォークで食卓の肉を切りつつ、クロヴィスは感謝の言葉を告げる。

 フリーウェル夫妻は共に四十を超える歳であるが、それぞれとも年齢より実に若く見える美貌を誇っている。両者共に金色の髪を生やしており、娘のリノアンにもそれは色濃く見られている。

 リノアンはフリーウェル夫妻にとって実の娘である。が、クロヴィスは違う。彼は拾われたのだ。


「今だからこうして言えるけれど……クロヴィス、あなたを父さんと山道で見つけたときは、本当に驚いたものよ。あの頃はリノアンが産まれたばかりで、私達は喜びに満ちていた。そんな時に捨てられているあなたを見つけたものだったから、私達は酷く哀しんだものよ。なぜこのようなことをする人がいるのだろう、って。信じられなかったわ」


 リノアンの実の母、レイデ・フリーウェルは今にも泣き出しそうな表情でクロヴィスを見据えた。その美しくはかなげな顔は、涙がそのまま宝石に変わってもおかしくないような気すらしてしまう。


「俺を捨てたっていう、両親の事情はわからないけど……でも、俺はもう気にしていないよ。産まれた時から父さんや母さんと一緒だったからな。俺にとっては、父さんや母さんが本当の両親だとしか思えないというか……他人のような気がしないんだ。それはリノアンも同じ事が言えるかな」

「まあ兄さんたら……。他人のような気がしない、ですか。すごく嬉しいような………………悲しいような」

「?」


 リノアンは慈愛に満ちた様子だったが、意味をよく考えると複雑な表情を浮かべた。クロヴィスにとってリノアンは女である前に家族である。ある意味当たり前であるが。


「巣立ちの時というにはまだ早いかも知れないが、お前達はこれから自分たちの道を行くことになる。それは時として厳しい道のりだろうが……お前達には父さんや母さんがいることを忘れるな。一人ではない、お前達には村の人間だってついている。辛くても、それをいつも心に刻んでおけば頑張ることが出来るからな」

「父さん……」


 クロヴィスとリノアンは揃ってトロワの一言に感銘を受けていた。


「……なんていうか、父さんのそういう臆面も無く物事を言うところって兄さんに似てますよね。実は本当の家族なんじゃないですか?」

「かも知れないな。はっはっは」


 リノアンが呆れ気味に質問を飛ばす。トロワはたまらず笑いをこぼしていた。


「それにしても二人とも、ギルドの認定試験に合格する余地はあるのかしら? 二人とも不合格ならまだしも、片方だけ受かったりする可能性だってあるのよ。そうしたら一体、どうするつもりなの?」

「大丈夫さ。俺とリノアンは二人とも受かるから!」


 心配そうな表情のレイデであったが、それを吹き飛ばすように今度はクロヴィスが高々と笑いを飛ばした。


「はあ、要するに根拠は無いということね」

「でも母さん、私はなんだかやれる気がします。兄さんがいるからというのもあるかと思いますが、自然と上手くいく気がしてならないんです」

「それならいいけれど。リノアン、あまりクロヴィスにばかり依存していたらダメよ。治安維持ギルド員はそう簡単に勤まるものではないでしょうし、時にはクロヴィスと離れることもあるでしょう。いつまでも子供のままではいられないのよ」

「わかってますよ。こう見えても私は日々、女子力を高めながら生きているつもりです。兄さんの手を借りなくてもなんとかする自信はいくらでもあります。あ、離れるのは嫌ですが」


 リノアンの言葉に嘘偽りは無い。リノアンは先の小悪党捕縛しかり、それなりに実力を付けている。属性の扱いに長けるだけでなく、器量も良い。料理全般、家事もこなすことができ、それら以外にも様々なスキルを習得しようと普段から頑張っている。主に兄という存在に振り向いて貰うために、であるが。


「それに私は、治安維持ギルド員となって世のために働くことが夢ですが――夢はまだあります。それは、この村を活性化させることです。治安維持ギルド員となって功績を残し、私の名を世に知らしめるんです。そうすれば私の大好きな村が、更に発展していくことでしょう。私の手で今までお世話になったこの村に恩返しが出来る……これ以上の喜びはありません」

「そう、リノアン。あなたもすごく立派になったわね……」

「あ、いや。兄さんに好かれる方が喜びかも知れないですね」

「……前言撤回するわ」


 レイデの感動は数秒で塵と化した。


「属性持ちの人間が数多く務める都の治安維持ギルド……なかなかに土産話が面白そうだな。二人とも、吉報を期待してるぞ」

「おう!」

「はい!」


 興味深そうに首を構えるトロワに、勢いよく答えるクロヴィスとリノアン。

 二人の旅立ちは、近い。

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