(4)
「お待たせしました。治安維持ギルドの者です」
村の者が都の治安維持ギルドへと連絡を行って数刻。村の入り口に男女二人組の人間がやってきていた。片方は、肩口まで伸びた濃い灰色の髪を持つ女性。意志の強そうな瞳を持っている。立ち振る舞いがしっかりしており、ギルドに所属している人間としての印象が強く見られる。
もう一人は落ち着いた黒髪を生やした優しそうな青年である。物腰が柔らかで機転の利きそうな印象を持つ男性だ。クロヴィスやリノアンより数年、年上の若者二人である。
「おおどうもどうも。よくぞはるばる来てくださいました。都の方からここまで歩いてくるのはさぞかし大変だったでしょう」
「ご心配無く。私達はそういうことには慣れています。……早速ですが、本題に入りたいと思います。そちらの二人組が例の――?」
応対をする村長。女性のギルド員、村の中で異様な存在を放つ小悪党達に目を向けた。
「はい、そうです。私が捕らえました!」
リノアンはギルド員達の前に姿を現すと、自信ありげに答えた。
「貴女が? ……なるほど、貴女は属性持ちの人間なのですね。それならば、この者達の状態も納得がいきます」
女性のギルド員は小悪党達の拘束されている姿を垣間見て、状況を把握したようだった。
「はい。私が闇の属性持ちで、兄さんは光の属性持ちなんです」
「なるほど。兄妹揃って属性持ちとは珍しいものですね。確かに、貴方たちからは属性の気配を感じます。それも中々の使い手……そんな雰囲気がしますね」
「お姉さん達も、ギルドに所属してるってことは属性持ちなんだろ?」
「ええ。申し遅れましたが、私は怒りの属性持ち――セイラ・アートバリアンと言います」
「僕は牙の属性持ち、ハンス・エリュシオン。よろしくね、君たち」
クロヴィスの質問に快く答えるギルド員の二人。
「エ、属性持ちが四人……」
「おっそろしいでやす……」
小悪党二人は、集う属性持ちの人間を前にして身を震わせていた。それぐらいに、熟練した属性持ちの人間は計り知れない能力を秘めている。
「ハンス君。拘束をお願い」
「わかりました」
セイラの一言により、ハンスが小悪党の二人に歩み寄る。小悪党達は一瞬身を強ばらせるが、観念したように大人しくなった。
ハンスは小悪党二人の左手と右手をそれぞれの元へと近づけ、隣接させる。そして自身の掌をかざすように動かすと、途端に骨が折れるかのような凄まじい音が鳴った。
見てみると、小悪党二人の腕に動物の骨のような材質の物体が絡みつくように存在していた。いきなり現れた異様な物体に小悪党達は困惑を隠せないでいた。
「これは一体?」
リノアンが不思議に思って聞く。
「ハンス君が生み出した“牙”よ。都合が良いから悪人の拘束はいつもこうしているの。さあ、立ちなさい」
それぞれの腕が同時に拘束されてしまい、いよいよ逃げることが叶わなくなった小悪党達。セイラの一言にしぶしぶと立ち上がった。
「皆さん、この者達の身柄は責任を持って預からせて頂きます。ご協力感謝致します」
ハンスが村の者達に深々と御辞儀をする。村の者達はその仕事ぶりに驚きながらも感動を覚えていた。だが誰よりもその姿に感動を覚えていたのはクロヴィスとリノアンである。彼らの目指す道……治安維持ギルド員の存在を、間近で拝見することが出来たのだから。