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(3)

「お手柄やったな、リノアン!」


 村民の一人が歓喜の声を上げた。

 ユムドの村、中央の広場に大勢の村人達が集まっている。彼らは円周上に集っており、その円の中心には二人の小悪党が座り伏せていた。

 小悪党の二人は、身動きが取れない状態にあった。なぜなら、彼らの腕と胴体を縛り上げるように、黒の物体が纏わり付いているからであった。まるで縄のようである。

 彼らは闇の属性持ちこと、リノアン・フリーウェルの手によって拘束されたのである。その結果、村の中へと連行された彼らはこうして村民達の注目の的になっているというわけだ。


「なぁ、俺達は夢でも見ているのか……」

「ゆ、夢だと思いたいでやす……兄貴、どうしてこんなことになったんでやすかね」


 コソ泥達は現状を認識したくなくて、半ば現実逃避気味であった。それもそのはずである。彼らはただの村人であると思っていた女の子一人に、為す術も無く無力化されてしまったのだから。


「リノアン! 大丈夫か!? ケガ、してないか!?」

「あ、兄さん! ええ、私は全然平気ですよ。この通り、何の外傷もありませんし」


 村人達の間を縫って、一人の男がリノアンに声を掛ける。

 兄さんと呼ばれたその男……名前はクロヴィス・フリーウェル。歳は十七歳。

 束感のある、男として長すぎない茶髪。きりりとした眉と鼻。好奇心旺盛な目の輝きは、快活な雰囲気が強く出ている。引き締まった体に、しっかりとした上背。動きやすさを重視した木肌色の衣服は彼によく似合っている。


「うんうん、流石だな。それでこそ俺の妹だ!」

「でしょう。さあ兄さん、存分に妹を褒めてやってください。そして出来れば頭を撫でてあげるとか、抱きしめてあげるとか――」

「お前ら、村の物を盗もうとしたんだって?」

「そこ無視しないでくださいよぉぉ!」


 リノアンの兄、クロヴィスは妹から視線を外して小悪党二人を睨み付ける。睨み付けるとはいえど、大人が子供を叱る時のような目である。


「ああ、それが何だってんだ。くそっ、まさか属性持ちの娘だったとは……油断したぜ」

「エ、属性持ち!? あの百人に一人しか産まれないと言われる、属性持ちの人間でやすか!?」

「そうですが、何か問題でもあります? 貴方たちを捕らえているそれは、私が作った闇の呪縛です。そう簡単には外すことができませんよ。ちなみに、兄さんも光の属性持ちです。もう逃げることは出来ません」

「畜生っ」


 小悪党は心底悔しそうに顔をゆがめた。

 属性(エレメント)持ち。それはこの世界で選ばれし者が持つ特権である。普通に産まれてくる大多数の人間と違い、属性持ちとして産まれた人間は何らかの特殊な力を秘めているのである。闇の属性持ちであるリノアンは、闇に関連した様々な技能を扱うことが出来るということである。


「そういや、風の噂程度には聞いていた……辺境の村に、光と闇の兄妹が居ると。まさか運悪くそんな奴らに当たっちまうとは、全くついてねぇ」

「へぇ、俺達ってそんなに有名なのか?」

「多分九割は兄さんの名声ですよ」

(人を拘束しといてよく言う……)


 小悪党達は完全に二人を魔獣、もしくはそれ以上の恐ろしい存在であると認識していた。それぐらいに、属性持ちの人間は底が掴めない能力を持っている。属性の力は人によって大小差はあるが、リノアンの能力は完全に侮れない上位の物である。


「皆さん、このコソ泥達はどうしましょう?」

「アラドがいま、都の治安維持ギルドに連絡を入れておる。そっちで身柄を預かって貰おう」


 民衆に向かって質問をするリノアンに、村の長である老人が返答をする。


「ううっ、こんなことなら悪いことになんて手を染めなければ……」

「なに今更泣き言を言ってやがる、わめくんじゃねぇ」


 くよくよと後悔する小悪党の一人、見かねてもう一人が文句を荒げた。


「大丈夫だ、そんな顔するなって」


 そんな二人の前に腰を下ろし、優しい言葉を掛ける男が一人。クロヴィスであった。


「確かにお前達のやったことは、悪いことだ。絶対にやっちゃあならない。だからこそ……これからは、絶対にそんなことしなきゃいい。更生して生きるんだ。もうそんなことはしませんって、自分の心に誓うんだ。真面目に働いて、正しく生きていけばいい。出来るだろ?」

「……」


 優しさの籠もったクロヴィスの言葉に、小悪党達は黙り込んでしまった。


「兄さん、素晴らしいですね。やっぱり兄さんは素晴らしいです。そんな悪党共にも慈愛の言葉を掛けるなんて……」

「悪党だって人は人だよ」


 兄の言葉にいたく感動しているリノアン。言いながらクロヴィスは微笑んでいた。


「……嬢ちゃん。あんた、最初から俺らが悪党だって気づいてたんだろ。だったら、あのまま拘束すりゃ良かったじゃねぇか。わざわざ話しかけるなんて真似しねぇで、不意を突いた方が効果的だったぜ」


 フリーウェル兄妹の言葉に調子を狂わされたのか、忠告をする小悪党。


「まあ、確かにそうすることは出来ました。でも確認したかったんですよ」

「……何?」

「だって、もしかしたら本当に村への来客の方々だったかも知れないじゃないですか。そんな人達をいきなり襲うなんて冤罪もいいところです。だから私は誘導して確認したんですよ」

「はっ、そうだったのか」


 小悪党は納得が言ったように目を瞑った。

 リノアンは、基本的に良い子である。兄のクロヴィスが絡むと多少の暴走、もといかなりの暴走を見せるが。

 兄が絡まなければイイ女、なのである。

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