(23)
晴れてギルド員として合格を果たしたクロヴィス達は、聖都治安維持ギルドが所有する寮に身を置くことになった。彼らに課せられたのはギルド員のあり方や方向性、規定などを学ぶ研修。それから、実際に聖都の中で都の様子を覗きながら自分たちに出来ることを探す実地研修。その一貫として、彼らはメディッシュ中学の入り口までやってきていた。
「大きいですねぇ」
リノアンが目前の建物を見て呟く。彼女の視線の先には都に馴染むおとなしめの色でありながら、しっかりと細かな彩色が施された校舎がそびえていた。
「まずは校長先生を訪ねてみましょう。詳しいお話が聞けるはずです」
先導するリノアンに続き、クロヴィス、レイ、ミリルが校舎の門をくぐり抜ける。
彼らは真っ直ぐ校舎の中へ入っていくと一階の区画に存在する校長室を訪ねた。お金の掛かっていそうな小綺麗なソファが陳列する部屋の奥に、机に腰掛けた初老の男性が一人。
「おお。これはこれは……ギルド員の皆さんですね」
「ということは、あなたが?」
男はクロヴィス達を一瞥すると、事情を察したようだった。クロヴィスは目の前の人物が校長先生であることを知ると、ギルド員の証として持たされる手帳を見せつけるように取り出す。
校長に案内されるがままに、クロヴィス達はソファに座る。
「皆さんに調査して頂きたい話というのは……我が校で、生徒が起こす奇怪な行動についてです」
「というと……一体、どのような?」
深刻そうに語る校長に、レイが問い返す。
「例えば、二年のある生徒さんなのですが……授業中にいきなり席を立ち上がって、くるくる回りながら奇声を発したとか」
「……それは、思春期特有の授業に対する反抗といったものですか?」
「いえ、それがですね……」
校長の語りにミリルが話を引き出す。すると校長は頭を掻いて顔をゆがめた。
「後に先生が叱ろうとしたんですが、そんなことをした覚えはないって言うんです」
「覚えがない?」
「はい。本人がそんなことをしたなんて全く覚えていなくて。自分でもその時の記憶が無くて不思議だって、言うんですよ」
困惑したように聞くリノアン。校長は首を傾げながら語った。
「まさかそれは……何か薬物にでも手を出しているんじゃないっすか?」
「いえ、それに関してはこちらでも詳しく調べさせて頂きましたが……そのような事実は全くございません」
「では、本人が何かの病気を持っていることなどは?」
「それが、至って健康な生徒さんなのですよね。おまけに授業態度は普段から真面目な子だったもので……」
レイとミリルの質問に、校長は冷や汗を垂らしながら答える。
「しかし何より不思議なのが――」
校長はうんうんと悩むと、こほんと咳払いをする。
「これに似たような出来事が、複数の生徒の間で起きているんです」
校長は実に困ったように呟いた。
「複数、ですか?」
「ええ。学年も一年から三年。クラスもバラバラで、男女関係なくこの不可思議な事態に悩まされているのです。一体、何が何やら……」
驚きながら問うクロヴィス。校長は手持ちのハンカチで額を拭った。
「話をまとめると……色んな子が、突然奇怪な行動を取ったりする。その子達に共通点は無くて、その時のことを覚えていない。薬物や病気の可能性も無し……一体どうして、ということなのでしょうか?」
「その通りです。生徒さん達も困惑していて……学校の呪いだとか、霊や悪魔の仕業だとか不気味がっているみたいで……」
リノアンが顎に手を当てながら聞く。校長は実に苦しそうに答える。
「このまま学校に変な評判がついたらと思うと、私としても見過ごすことが出来ません。どうか、原因の調査をお願いできないでしょうか?」
校長は懇願するようにクロヴィス達に頼み込む。
「任せてください! 俺が絶対に解決してみせます!」
「おお……頼もしい。では、よろしくお願い致します」
拳を握って意気込み強く言うクロヴィス。その姿に校長はぱあっと顔が明るくなった。




