(20)
(今だ……!)
意を決したクロヴィスは全身に力を込め、強く念じる。途端に、クロヴィスの体中から眩しさを伴う光が放射された。
「っ!?」
洞窟から出た際に浴びるような強烈な光が、レイの視界を奪う。その光はレイの瞳をくらませるのには充分すぎるほどであった。
「く、くそっ……目が、目が……」
顔を手で押さえながら苦しむレイ。不意の一撃にたまらず狼狽える。
「そこか。声が聞こえれば……場所は判る!」
「!? し、しまっ――」
苦しんでいるレイをよそに、クロヴィスの陽気な声が響き渡る。クロヴィスは自分の拳から肘の辺りまでを、光の粒子に変化させる。続けてその腕を後ろの方に大きく引くと、流星のように目前へ突きだした。
「光一閃!」
クロヴィスから放たれた超光速の一打。それは真っ直ぐにレイの方へと吸い込まれるように伸びていき、レイの腹部へ深々と刺さった。
「ぐはぁ!」
突然の攻撃に防御することも追いつかなかったレイはその一撃をもろに食らってしまう。
「っし!」
「ま、マジかよ……」
にやりと微笑むクロヴィス。レイはその場に膝を付く。なんとか踏みこたえようとするが……それも叶わず、地面に倒れてしまう。地面にうつぶせの状態となったレイの分身は、少しずつ透明になって消えていった。
「……勝者、クロヴィス・フリーウェル!」
教官の腕が上がった。
「やったぜ!」
「兄さん、流石ですっ!」
明らかに劣勢であった状況を、一気に逆転して見せたクロヴィス。リノアンは兄の勝利に大きく喜んだ。
「ま、負けたのか……」
分身から自身の体へと戻ったレイは、喜ぶ二人を見て自分の負けを振り返る。地面に両足を伸ばして座り、項垂れる。自分の情けなさを悔いるように、落ち込む様子を見せていた。
(――あいつもよく戦った。良い勝負だったな)
ミリルはクロヴィス達やレイを仰ぎ見ると、ゆっくりと目を閉じた。
模擬戦を終え、クロヴィス達はまたも教室のような部屋に戻ってきた。
「皆さん。本日はお疲れ様でした。ギルド員を目指し、邁進する皆様の姿に私も感動を覚えたものです。満足に結果を出すことが出来なかった方も居られることでしょうが、ひとまずはよく頑張って頂きましたと言わせてください」
教官が全日程の終了を告げ、挨拶を行う。
「それでは皆さん、早速ですが――結果の発表をさせて頂きます」
教官の一言に、ギルド員志望者達の視線が一層集まる。彼らの内心はどくどくと大きく鳴っている。後の結果に、鼓動が高鳴って止まらない。
「合格者――」
教官が一呼吸を置き、告げる。
「――クロヴィス・フリーウェル、ミリル・エンシェント、リノアン・フリーウェル、レイ・ミクトラント……計四名、以上になります」
教官の声に、静かだった教室が更にしんと静まった。
(やった! やったぁぁ! 合格だ!)
(兄さん、おめでとうございます! 私も負けないようにしないといけませんね)
(……どうにかなったか。頑張るのはここからだな)
(――!? 俺、負けたのに!?)
クロヴィス達はその結果に安堵の表情を浮かべた。と同時に、思い切り顔なじみであるメンバーであったことに驚きと戸惑いを隠せなかったが……それすらも忘れてしまうほどとにかく、嬉しかった。
「な、納得がいきません!」
その結果発表を受けて、志望者の一人である真面目そうな少年が立ち上がって声を荒げた。
「この結果には陰謀めいた物を感じます!」




