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「ところで、レイとミリルはどうしてギルド員を目指してるんだ?」


 それぞれが昼食にありつく中、クロヴィスは何気なく二人に疑問を投げかけた。


「あー……そうだな、俺は……何て言ったらいいか……。……。と、とにかくだ! 俺にはこの仕事しかねぇと思ったんだよ!」

「この仕事しかない……か。なんか、そういうのっていいな。一途っぽくてさ! 俺もレイの夢を応援するぜ!」

「あ、ありがとよ……」


 レイは実に歯切れの悪い感じで答えたが、構わずクロヴィスは彼の意向を聞いて自分のことのように喜んだ。


「ミリルはどうなんだ?」

「そうだな……私は純粋に、属性持ちの人間として考えた末に、自分の力を活かせる仕事はギルド員しかないと思ったからだな。……決して、そこのと一緒にしないで欲しいが」

「そこのって何だ、おい」


 ミリルの話しぶりを聞く限り、志望理由は二人とも似たような感じであった。自分の持ち味を、活かしたい。つまりはそういうことなのだろう。

 属性持ちの人間はそれだけで、貴重である。大半の業種において役立たないことも多いが、力のある属性を持った人間はそれだけで武器となる。自身の属性の力を使って働く、ということが可能になるわけである。

 その結果、彼らに求められるのは腕っ節を買う仕事だ。その中でも治安維持ギルド員は属性を持った人間達が属性の力を主軸に働いている。彼らが目指す道というのは、ある意味最初から決まっているようなものでもある。


「あとは……まぁ、私には才能が無いというか――」

「え?」

「いや、なんでもない。忘れてくれ」


 何かを言いかけたミリルだったが、疑問顔のクロヴィスを前にそれ以上語ろうとはしなかった。


「そういうクロヴィスとリノアンはどうなんだよ? 何か明確な理由があるのか?」

「あるさ。俺は、人々に光を届けたいからだ!」

「私はユムドの村を有名にするためです!」

「……すまん、一体それはどういう意味だ?」


 意気揚々と答えるクロヴィスとリノアンを前に、戸惑い気味のレイの表情。


「……なるほど、治安維持ギルド員として働くことで、あらゆる人々に光を振りまきたいと。要は人助けがしたいってことだな。殊勝な考えだねぇ」

「はは、ありがとう。でもギルド員っていうのは本来そういうものだろ?」

「そうだな。街の人々の平和を守る……言ってみれば、人助けそのものだな。俺はそういう考え方、好きだぜ」


 クロヴィスは自分の夢をかいつまんでレイに話す。

 クロヴィスの曇りの無い志望理由に、レイは心底感動を覚えたようだった。


「リノアンは……自分が有名になることで、自分が住んでいる村を有名にしたい、か。なんかある意味で回りくどい理由だな、それは。……ってことは、あれか。“怒りの鉄槌(アングリージャスティス)”みたいなのを目指してるってことか?」

「怒りの鉄槌? 何ですか、それ」

「え、知らないのか? 怒りの鉄槌ってのは――」


「食い逃げだー!」


 レイとリノアンが語る中、街の人間の一人が大声を上げた。四人がすぐさまそちらの方角に目をやると、街並みの一つに存在する飲食店の前でシェフらしき人間が叫んでいた。シェフの目線の先には、全速力で駆け逃げる男の姿が。どうやら店の料理を食べてお代を払わずに逃げ出した――いわゆる食い逃げ犯が出没した模様だった。


「何だって!? おし、捕まえてくる! リノアン、レイ、ミリル、ここにいてくれ! すぐ戻ってくるから!」

「な、マジで言ってんのか?」

「一人で大丈夫か? 何なら私も行くぞ」

「大丈夫、任せておいてくれ!」


 レイとミリルの心配も気にせず、クロヴィスは座席から発射されたかのように素早く飛び出すと、物凄い速さで走り始めた。瞬く間にクロヴィスの後ろ姿は小さくなっていく。


「兄さんなら大丈夫ですよ。食い逃げ犯なんかに遅れは取りませんから」


 リノアンは優雅に落ち着いた様子で、アイスティーのカップを音も立てずに飲み続けていた。


「で、でもよぉ」

「兄さんが大丈夫だと言ったら大丈夫なんです。もし兄さんが酷い目にでも遭ったら、その時は代わりに私が食い逃げ犯をぶち殺しますのでお構いなく」

(冗談に聞こえないから怖いな……)


 クロヴィスが一人で出て行ったことに関してそわそわとしているレイ。対するリノアンは実に平常心の塊である。その場に座ったままゆったりと紅茶を楽しんでいた。そんなリノアンを見て半開きの目をするミリルであった。







「はっ、はっ、なんだアイツは!?」


 すれ違う通行人を避けつつ、必死の形相で逃げ惑う食い逃げ犯だったが、彼の後ろからは物凄い速度の男が距離を詰めてきていた。競走馬のように力強い一歩一歩が確実に迫ってきている。茶髪の髪を振り乱しながら走る彼、クロヴィス・フリーウェルであったが、その顔はこの状況すらも楽しんでいるように見える。


「くっそぉ、追いつかれてたまるか……!」


 食い逃げ犯は更に速度を上げようと、腕と足を必死に回転させた。自分の持てる全力を出し、呼吸も忘れてひた走る。この速さで走れば、さすがに奴も追いつけまい――そう考えていたその時だった。


「っし、追いついた!」

「!?」


 あろうことか、クロヴィスは食い逃げ犯を抜き去り、その場でくるりと体を回転させると彼の前に立ちふさがったのである。信じられない足の速さだった。

 食い逃げ犯もその光景に驚きを隠せず、足を止めるとその場に立ち尽くしてしまった。


「さあ、観念して俺に捕まるんだ。そうしてくれれば手荒なことはしないぜ」


 まるで逃げ出した家畜をどうどうと抑えるように語るクロヴィスに、食い逃げ犯は少なからずの恐怖を感じるのだった。

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